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 なんでこうなった。


 

 「バスタオルと着替えコレでいいかな?ふたりとも」



 「「着れればなんでもいー」」



 ファストファッションのパジャマセット。

 若様には私が使っているものを、稲葉くんには父や佐久間さんが使っているものを。




 ・・・・・何で稲葉くんが家にいるの!?



 ラッキースケベという喜ばしくも悲しい事故が怒らないよう洗面所へと2人が向かう前に必要そうなものは渡しておく。


 歯ブラシやパンツは帰宅途中に寄ったコンビニで揃えてもらった。



 「委員長、俺らが先でいいの?」



 「…ゆっくり入りたいから先に入ってクダサイ…」


 あとこのキャパオーバーで潰れそうな頭の中を、浴槽に2人を隔離してる間にどうにかしたい。

 



 「よし!稲葉!こっちが風呂だ!」


 ついてこいと言わんばかりに稲葉君の手を引いていく若様。

 そのまま攫って帰ってこないでくれたらいいのに。



 「…何回泊まりに来てんすか若様」


 数えたことないぞ?と、きょとんとした顔に稲葉くんの黒いオーラが増幅する。

 わぁーあ、私ってシックスセンスあったんだー。


 見なかったことにしてリビングのドアをそっと閉める。



 ・・・・・・。


 

 「ほんと、どうしてこうなった…」



 更衣室から出てみれば、稲葉くんにまくし立てられるように帰宅を促され、ジョーさんには肉入りタッパーを手渡され「グッドラック」と健闘を祈られ、駅についてみれば稲葉くんも何故か一緒に電車に乗るし、あれ?なんで?と聞いてみれば「俺も若様と一緒に泊まる」とか言い出すし、佐久間さんからもメッセージがきて今夜は長岡さんも来るから朝ごはんは5人分ね、なんて稲葉くんが居るであろうことがすでにバレてるし、いや隠す気はなかったし「ホントに簡単に家に上げやがった」っていう呟きも聞こえてるけど、佐久間さんがノーじゃないなら断る理由もないし、っていうかこの家だって私のものじゃないし、稲葉くんが通学時間延びて嫌じゃないならたまには来てくれてもっていう欲望はあるんだけど、さすがにそれは佐久間さん的にも世間体的にもアウトだってわかってるし…




 あああああ…


 頭の中ぐっちゃぐちゃ…



 客間…客間に布団敷こう…

 布団3つと隙間に座布団敷いて4人には申し訳ないけど雑魚寝してもらおう…


 部屋もふとんもあるけど一ヶ所に隔離しようそうしよう。



***



 火照る肌、濡れた髪、見慣れた背景に見慣れない人物…!

 湯上がり稲葉くんは見てるこっちがのぼせそうになりました。



 「歩く18禁…!」


 「またおかしなことを言い出してこの委員長は…」



 パシャリ。


 「よし!みなみちゃんに送信!」


 この感動と動揺よ…届け!


 

 「はぁ~…いいけどさ、とりあえず委員長も入ってきなよ。そんで若様は水飲んで寝ろ。髪乾かしてやるから」



 あ、もう目が開いてないねぇ…

 稲葉くんのパジャマの裾持って何とかついてきてるけど…

 

 「若様、客間にお布団敷いてるから今日はそこで寝てね」



 「…んぅ?今日は一緒の布団じゃないのか?」



 うわぁあん、稲葉くんのほうから冷気が漂ってるぅ~お風呂上がりのはずなのに~~~~!!!



 「きょ今日は佐久間さんも長岡さんも後から来るから2人が寂しくないよう仲良く寝てね!」



 うとうとした若様から「わかった」と返事をもらって逃げるように洗面所へ。

 でも逃げた先も、温まった浴室にほのかに香るシャンプーの匂い…。


 こここここここ、ここに稲葉くんが居たんですよね…全裸で。



 ダメだ、今日死ぬかもしれない。

 心臓動きすぎてしんどい。


 さっさと洗って出るのがベストだ、これは。


 同じお湯に浸かるとか死ぬ。



 そう判断してシャワーで済ませて10分で出ると、客間から稲葉くんが出てきた。


 「早いね委員長」



 あっ!

 洗ってないわけじゃないんですよ!!

 誤解しないで!

 いつもはもっと入ってるから!



 「ちょっとゆっくり入る気分じゃなくなって…」


 「?…まぁいいけど委員長も水でいい?」


 「うん、ありがとう」


 水切りカゴにあったグラスに水道水を注いでくれている。

 極力家のもの触れないようにしてるんだろうな。

 そんな気をつかうなら私の心臓のために来ないっていう選択肢はなかったんだろうか稲葉くんよ…。


 グラスを受け取ってリビングでのんびり水分補給していると少し落ちついてきた。

 

 

 「ふふっ…へんな感じーー」


 こんな時間にこんな場所で稲葉くんと若様がいる。

 さっきはうっかり興奮してしまったけれど、腹括ってこの状況を受け入れてしまえばドキドキときめくっていうより、家族が増えたような感覚だ。



 「稲葉くん、ドライヤーは?」


 「客間に置いてきたけど、そか委員長使うよな」

 

 

 ソファに座らず斜め向かいの床に座ってた稲葉くんがスっと立ってドライヤーを持って来てくれる。


 「コンセントそこの右下にあるから挿してー」


 言われるままの稲葉くん。

 まるで暴君と従者だ。



 「じゃあここ座ってー」



 ソファに座る私の前の床を指差す。

 目が点になってますよ稲葉くん。


 「はい座るのー!」


 腕をひっぱって半ば無理矢理お座り…

 え、後ろ向きじゃなくてこっち向きで座ります?

 いや、髪乾かすのにはどっちでもいいけどもちょっと乾かしにくいかなーなんて。


 まぁいいか。考えたら負けだ。

 もう興奮するの疲れたもん。


 ブオーーーーーっと強で温風を当てる。

 目が乾くのか、必死にぎゅっと瞑ってる姿が大型犬のようで可愛い。

 もっと見ていたいなーと思っていても男の子の髪はすぐ乾いて終了。


 カチっとオフにして髪が乾いているか両手でワサワサと撫で撫でしながら確認していると「もっと撫でてて」と膝の上でゴロゴロ甘えだした。


 撫でられるの好きだよね、稲葉くん。


 いや、私もこんなふうに穏やかで慈しむことができる時間とか大好きだけどね。

 


 「無防備に信頼されているのって嬉しいわぁ」



 思わずぽろっと零れちゃったけど「無防備すぎてもツライ…」とヘコまれてしまった。

 うーん、繊細な男心はわっかんないなー。

  


 「簡単に家に上げちゃダメだよ委員長…」



 いやもうそれゴリ押しで来たひとが言っちゃダメじゃない?

 

 「でもほら、私と若様が心配で来てくれたんでしょ?それに知り合って1年だし?誰でも気軽には招き入れないよ?」



 「・・・・・心配だったのは委員長だけ、それに知り合ったのはもっと前だし、こんな形で上がりたくなかったよ」



 切実そうな上目遣いで訴えかけられて、手を握られて。

 どうやら逃げ場はなさそうで。


 髪から滴る水滴で襟元が濡れてなければ…張り詰めた空気のまま、どうなっていたんだろう。



 「あ、髪乾かすよな、今度は俺がするよ」



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