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 「で?由宇兄ちゃん、何で若様が居るの」


 営業開始直後、フリーで由宇兄ちゃんが来店した。

 予定通りVIPルームに通したものの…この濁った水槽の中に相応しくないキラキラした笑顔の中学生の息子を連れてくるとか、さすがは非常識な父親の親友だわぁ。



 「一万歩譲って事務所を託児所代わりにするけど…」


 「あや姉!俺ももう中1になったんだぞ!!」


 「まだ早いわお子ちゃまァ!!!」



 近くを通った堀くんにまだまだ声変わりもしていない男の子をぶん投げてパスする。


 「雪柳に手錠あるから事務所で拘束プレイしてて」


 「ひっひどいぞ!あや姉に会いに来たのに!!!」



 はいはい、後で顔出すからね~~

 と生返事をしつつ由宇兄ちゃんを睨む。


 「えぇっ、俺が悪いの?俺だってお座敷デビューもクラブ活動も小学生からさせられてたぞ?」

 

 「少しは健全な環境で育ててあげて」



 もうホントため息しか出ない。

 なんでこの人たちは何でも自分基準で世間の常識と照らし合わせたりしないんだ。

 

 何度言ってもびっくりするくらい分かってもらえない。



 何の疑問も持たずに「自分が出来たんだからお前らも出来るだろう」が通用すると思っている。


 テーブルに札束と「メシ代」と書かれたメモがあってもね、お金の概念もない年頃の子供が家に置き去りにされて、字すらマトモに読めず、辛うじてカタカナの「メシ」だけわかってもどう謎を解いていいのかさっぱりだったんですよ。


 佐久間さんが様子を見に来てくれなきゃ、家からも逃げ出るという選択肢も思いつくことがなかった。

 数日間、水道水と氷、マヨネーズしか口にできないままだったので、どうにかなってしまったかもしれない。



 決して悪い人たちではないけれど、良い人たちでもない。


 少年のような心を持った人たちではあるので、それはそれは女性によくモテるのだけれど、いつまでも少年気分でいられては身内としてはとてもじゃないが好きにはなれない。


 若様にも是非!反面教師にして生きていって欲しいけれど、どうやら父親似のようなので、懐いてくれているのをいいことにどうにかマトモな人間に育ててあげたい。



 由宇兄ちゃんはもう手遅れだし、好きに生きたらいい。



 「とりあえず…ご来店ありがとうございます?」


 「うん久しぶり!」



 もうにっこにこ顔だ。

 多分会計する時に若様呼ばないと「あっ忘れてた!」になる。




 「フリーで暫らく回しますが…どこかで誰か固定していいですか?」 


 誰かっていうか話しやすいように私の担当つけるんだけど。



 「うん、あやちゃんに任せるよー」


 「畏まりました」



 一度下がってインカム無線機で八木くんに状況を飛ばす。



 『フロアマネ、VIP1番卓、3人目で場内、ニナで』


 『了解~ありがとうございまーす』

 


 いつまでもフリーのままだと回す方も大変なので場内指名が入るほうがスタッフも全員楽だったりするし、負担が少ないということは、接客のクオリティも下がりにくいということでもある。


 ニナさんも…同伴してきた相手が1セットで帰ることはないだろうけど…まぁ3人目なら少し被るくらいなので上手く切り抜けるだろう。


 ついでにVIPから捥ぎ取ればいい。

 由宇兄ちゃん相手なら全力で応援するし。

 


 若様のおかげでブラックあやちゃんが降臨しかけたけど仕事は仕事!ちゃんとやる!


 よし!と気合いを入れ直してフロント受付業務へと戻った。

 ニナさんの場内が入ったらVIPとポジション変わってもらおう。



 『まゆちゃーん、ニナさんになったらVIP入らせてー、ボトル入れてくるから』


 『しゅわしゅわ以外許さないよ?』


 『3本キンキンに冷やしててくれていいからね』


 『今すぐ行ってよし!』



 今すぐは嫌だな~~って断る私も私だけど、黛副店長…フロアマネにもVIP担当にも聞かずにGOサインはどうかと思う~。



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