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 「八木さん居たんスね、おはようございます」


 「おー、稲葉も朝早いねー」



 おお…両手に花…多少チャラいけど八木くんも顔は美形の部類だ。

 働いている時は男の顔なんてどうでもいいけれどお日さまの下に出れば別。


 かっこいい人って観賞していて飽きないもんなぁ。


 仕事中はカラコンしてるけどオフになった今の八木くんは黒ブチの伊達眼鏡で目の下のクマを隠している。

 

 ちょっとヨレたシャツにボタンが外されたジレ、ノータイのスーツに眼鏡…喋らなければ眠くて気だるげな感じが色っぽい。

 


 「…委員長、行くよ」


 

 はっ!見とれてる場合じゃなかった!

 遅刻しないよう日常に戻らなきゃ!


 「じゃあ八木くんありがとねーまた今夜も宜しくっ」


 「おー。合宿も楽しみにしてるわー」


 「あはは!りょーかーい」



***



 「何、合宿って」


 いつものように後ろからハグ状態で満員電車をやり過ごしていたら耳元で囁かれた。

 気のせいじゃなければ唇掠めたような気がするんですけど…気のせいってことにしておこう!



 「んと、今度一緒にうちで勉強しよって話かな?」


 「なにそれ」



 学生ごっこ…というか私はごっこじゃないんだけど、八木さんと青春ごっこしようっていう話になったのをかいつまんで話す。


 はぁ~…と長いため息をつかれた。

 その息も耳から首筋まで掛かるんですけど!?



 「そんな簡単に男を家に上げるなよ」


 「えぇーでもミモザで身内だよ?」



 うちには昔から佐久間さんが出入りしてるし、なんならたまに潰れたまゆちゃんや長岡さんも佐久間さんに運ばれてうちに寝泊りしていく。


 小さい頃はただいまと帰れば父親は帰ってこない家なのに誰か居たし、彼らとご飯食べてお風呂入って雑魚寝したのはいい思い出だ。

 


 「じゃあ俺も泊まるけどいいの?」


 うひゃっ…!耳っっ!!唇くっつけないで…!



 「いいいいかどうかは…佐久間さんが判断してくれるから大丈夫です!」



 ふぅん、と面白くなさそうに呟いて肩に頭を乗せられビクついたものの、伏せられた目がふて腐れてて…ちょっと可愛い。



 「ふふ、大丈夫だよ、仲間外れにしないからね?」



 夜の仕事のいいところは、みんなそれぞれ違う人生を歩んできたのに寄り添えるところだ。


 多分ふつうに暮らしていれば縁のない、紡ごうとも思わない性格や考え方、年齢の不一致だらけの集まりなのに、どうしてか労わり合えるのは心の柔らかい部分をたまに曝してしまうからかもしれない。


 お酒や女の人、夜の時間の力ってすごいと思う。

 泣けない人が堰を切ったように肩の力を抜いて涙を流すのだから。



 優しさを売りにして、お客様を呼んでお金に換えているのに、そのお客様も優しかったりする。

 みんな本質的に優しくされたいという以上に優しくしたいのだと思う。


 それがミモザでは顕著な気がする。



 …たまには性善説のひとつも唱えたくなるくらい、私もちょっと疲れているのかもしれない。

 


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