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終業ベルが鳴って終礼までの空き時間、メールチェックする。
今日はバイト先が定休日だったので急ぎのメールは無いとは思うものの、何件かは返信しておきたいものが送られてきていた。
授業の邪魔はされたくないのでバイブ設定にすらしていない無音スマホ。
これが鳴るよう設定してたら鬱になる自信がある。
『黒猫の帯止めってなかったっけ?』
父からのメールだ。
『佐久間マネの私物です。ダイヤ付きなので彼が自宅管理してます』
あとこっちの鈴乃古書店さんにも返信しとかないと。
『非売品入荷/美品A:ベネチア・ビエンナーレ写真集(12年前のものです)』
『ありがとうございます!2万までなら出せます!それ以上なら応相談になるので1週間キープだけお願い致します』
特に連絡事項もなく終礼が済み、委員会まで少し時間があるので少し明日の授業範囲をさらっておく。
「じゃあ委員長お先~」
「あっ稲葉くん!お疲れ様~っあ」
バイバイじゃないのだ、いや今日は彼も塾があるしバイバイと言ったほうがいいのか。
「ああ、塾19時からだから仕事終わったら事務所でまったり課題してるから一緒に解いてよ」
うっ笑顔がまぶしい…!そして読まれてる…!
「わかった、まかない何か作るから食べてって」
「やった、委員長のメシ美味いから楽しみにしとくね」
教室の扉からフェードアウトしていくさわやか稲葉くん。
あああ~悶え死ぬ~~!!
もう!!何でも作りますよ!!
「共働きの新婚夫婦か」
みなみちゃんもそう思いますか!!
わたしもそうだったらいいのに~!って毎日思ってるよ!
***
15:30
生徒会室の横にある空き教室。
1、2年の学級委員長と進行役で生徒会役員が何人か居て総勢20人ちょい。
黒板に貼り出される校外学習の候補地の下に、第一希望、第二希望、第三希望と各クラス記入していく。
わたしなら【特2、希1】【特2、希2】【特2、希3】といった具合で。
1学年8クラス、計16クラスあるので希望が被りすぎるとなかなか決まらない。
ひとりで判断するのが不安なクラスは委員長、副委員長共に出席している。
わたしはすんなり第一希望が通ったので、保護者のサインを貰う書類を受け取り、日時と場所だけ手書きで記入し、生徒会長と校長の確認印を貰い、職員室で担任へ報告と、クラスの人数分印刷して終わり。
30分もいらなかった。
まぁこのまま、残った時間で予算やら移動手段やら考えてもいいんだけど、まだ時間はあるし今日はとっととバイト行こう。
稲葉くんいるし。
***
地下鉄に揺られて約20分、駅のトイレで制服を着替えてから徒歩約8分の繁華街。
閑散とした街が賑やかになるまでまだ3時間は先だけど、よっぽど急いでいない限り制服でウロついていたら何かと困る街。
やましいことなんて何もないんだけれども。
17時前に着いたもんだから手伝わなくても良いとはいえ、系列店舗の仕事はまだまだ残ってる。
うーん、少し働いていこうかなぁ。
とりあえず1階の裏口から入って9階まで階段で向かう。
まだエレベーターを稼動させていない時間なのでさりげにキツイ。
全国270店舗中、7店舗がこの9階建てのビルに入っている。
1階の表がカフェのような待ち合い室になっており、奥がヘアメイク室。
9階は事務所と更衣室(7と8階の2店舗専用)がある。
更衣室で薄く化粧をし、眉とアイメイクだけは濃く仕上げ、髪は一纏めにし、前髪を上げスプレーで髪を固める。
白のシャツにダークなワイン色の千鳥格子のネクタイを締め、黒地に少し赤味のある細いストライプ柄のジレのポケットにライターとコースターを忍ばせスーツを羽織る。
17:12
カシャンとタイムカードを切れば5時を少し過ぎていたけれど、許容範囲内だ。
そもそも出勤日じゃないし。
勤めている7階店舗は定休日。
8階の店長である父もまだ出勤していないしある程度雑用しておいて恩を売っておこう。
「あ、おかえり委員長」
カチャリと事務所の扉が開く。
スティック掃除機片手にジャージの稲葉くん登場。
どうやら8階の掃除は終わったみたい。
「もー今は委員長じゃないでしょっ」
えー、今から一緒に課題するから委員長じゃないの~?なんて笑いながら言う。
「うーーーん、でも少し働いてから帰るだろうし他の人が来たらちゃんと呼んでね」
「かしこまりました、綾瀬マネージャーお疲れ様です」
きりりと姿勢を正して一礼されてしまった。
「そこはおかえりがいいのにーーーぃ」
結局どっちなの!って笑われた。新婚夫婦ごっこしたいじゃない!ただいまって言いたい!
7階 clubミモザ、20:30~25:00営業、月曜定休。
わたしはロングドレスの美女たちが気持ちよく働けるよう黒子に徹するバイトです。




