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完成品が2個と半分というところで時間が来てしまい、稲葉くんと学校を出て事務所で着替えてミモザに出勤したら、黛副店長と真木くんが来ていた。
「ぉあっ!本当に来てくれたんだ真木くん!」
「バイト代は出さないよ?」
「まゆちゃんのバカ!そこは出して!私の分を真木くんのお給料にして!」
「そんな事したら佐久間に殺されるわ!」
仕方ないなぁ…と言いながら真木くんのタイムカード処理をしに事務所へ行ってくれた。
多分このまま開店準備が終わるまで降りてこないつもりだろう。
「あぁ綾瀬さん…ほんと今日は様子見に来たくらいの気持ちだから…」
「そんな人が何で蝶ネクタイにジレでギャルソンエプロンなの」
完全にキッチンに入れる気満々じゃない腹黒まゆちゃん!
その方がこっちも都合がいいけれど!!!
「メインで入らなくていいからさ、真木くんもちょっとキッチン入ってってくれると嬉しいな」
もちろん時間に都合がつくならだよ?と付け加えたけれど即コクコクと頭をふって了承してくれた。
良かった、これでフル盛りのクオリティも高水準で出せるし何より…
「うちのスタッフとも少し交流していってね?」
うららイベントの初日が月曜日なこともあり、月曜定休のミモザからメールで他にもヘルプスタッフを募ったのだ。
まゆちゃんの様子を見るに佐久間さんからすでに聞いた上で、見ないフリをしてくれることはわかった。
イベント中のフロアは藤宮くんに任せるものの初日の舞台裏はミモザ流になるはずなので、真木くんには負荷が掛からないよう今日のうちに呼吸を合わせておきたい。
「そ、それなら藤宮も呼んじゃダメかな…?」
いや、来てくれるなら大歓迎だけども、来るかな?
真木くんがポポポとスマホを打つこと数分後。
「来るって」
…マジで。雪柳休みなんだよ?
ちょ、電話掛けて大丈夫かな、とメッセージを飛ばすと折り返しの着信音が鳴る。
『綾瀬さん、お疲れ様です。』
『うん、お疲れ様です、ほんとに来て大丈夫なの?』
『今すぐは無理だけど営業時間ちょっと覗きに行きますよ』
何でだ!見られて困ること…はないかもしれないけれど同業者に仕事っぷり観察されるの恥ずかしいじゃない!
『スタッフの特徴も仕事の仕方も気にはなりますがそれ以上にキャストの名前と顔一致させたいんですよね』
『え?』
『…だって連れて来るんでしょう、ヘルプのキャスト』
…そうなのだ。スタッフもだけど、キャストも連れて行こうと思っている。
今日はそれも交渉しようと思ったからフル盛りを用意した。
ミモザのキャストは一流だと思っているし、私の担当する5人は超一流だと思っている。
我が子可愛さに過大評価してるんじゃあないのかと言われればそれまでだけど、それでも私みたいな小娘が担当するには勿体無いくらいのキラキラしたお姉さんたちだ。
そんなお姉さんたちの「これがプロだろ!」っていう仕事っぷりをうららのキャストさんにも見て欲しい。
同じようにしろとは言わないが、学ぶべきところや真似できることは何かあると思う。
キャスト総入れ替えで店舗リニューアルが出来ないのなら、キャストの中身を変えないといけない。
スタッフを叩きのめす、じゃない叩き直すだけじゃなく根本からどうにかしようと思えば…キャストだ。
男の人は結局のところ女の人に甘いし優しい。
だから女を変えようと思えば、よっぽどカッコいい人か、同じ女がその女の弱点を叩くのが一番早い。
黒服なのに体力に限界がある女の私や岬さんが重宝がられるのはその一点だ。
泣き真似は一切通じないし、同情もしない非情さが同性にはある。
だからキャストも連れて行く。あわよくば対抗心を燃やしてほしいと願って。
『写真と本人が一致するかもわかんないですしね』
ひぃっ!藤宮くん辛口!
うちのお姉さんたちは写真修正してないはずだよ!そんなには!!
じゃあありがとう、待ってますと電話を切って、前に座る真木くんを見るとニコニコだ。
「藤宮も楽しみにしてる、んだと思う」
んー、それならいいんだけど、段々私よりみんなが本気になってきてないコレ?
大丈夫かな、うらら。
「掃除とか…準備終わったら声掛けてね…その、作りかけの器も完成させるし…」
残り物でドリンクも豪華にトッピングするよと、巨匠はおっしゃった。
うわぁ…もうこれ今日勝った。
この地区で一番の売上金叩き出せる気しかしない。
うちのスタッフ…誰でもいいから巨匠のテク盗んで!!!!
もしくはどうにかミモザに引き抜いて!まゆちゃん!!!




