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「忘れられてるかと思ったぞ!」と、プリプリ怒って今日の本来の仕事に戻っていった長岡さんの顔がちょーっと赤いのは、怒っているだけじゃないと知っている。
いつもありがとうね、お兄ちゃん。
藤宮くんと鍵を外しにフリージアに行ってから改めて雪柳に戻ると、稲葉くんと真木くんが握手していた。
「明日手伝ってくれるって真木先輩」
「何を?」
もう記憶の彼方かよ、と稲葉くんに突っ込まれていると、遠慮がちに真木くんからぽそりと伝えられた。
「『あやちゃんのフルモリ☆』の器…」
「え!明日休みでしょ真木くん!休みは休め?!」
お前もな、という素早い突っ込みはもう聞こえなかった事にする。
「スイカはもう間に合わないだろうからフルーツとフルーツに添える飾りだけ…2人前用意するし、綾瀬さんが喜んでくれるもの作りたい…です」
ふぉぉぉおおおぉぉぉ!!!
めっちゃ喋ってくれた!!
自分から!!!!
ヤダ!可愛い!!!
「何か違うとこで喜んでるよね?綾瀬マネ」
さっきから突っ込みが鋭いな稲葉くん。なんでちょっと拗ねてるの。
「も~、ほっぺぷぅしないの」
かっこいい顔が台無しじゃないですかね、これはこれで可愛いけども。
そんなことを思いながら膨らんだ頬を指でぷにっと押さえる。
「!」
…佐久間さんのせいで距離感アホになってるぞ…
そんな小さな訴えを聞き逃したため、かろうじて聞き取れた佐久間さんのことを伝えることにした。
「あ、佐久間さんは事務所に残って少し仕事したら帰るみたい。何かまだ用事あった?」
「いや、ないけど…」
「そういえば岬さんは?」
姿が見えないし、どうしたのか聞けば3人でアイコンタクトを取り、揃ってため息をついている。
「大体の経緯と来週することをお伝えしたら快く引き受けてくださいました」
「また時間つくって話詰めようって言ってたよ」
「み…みみみ岬さんは…綾瀬さんのことが大好き…っていうのがよくわかりました…」
作ったような固い笑顔と、疲れきった顔、青ざめた顔に囲まれ、何故そんな表情になるのかよくわからないものの、協力してくださるという色よい返事をいただけたのが嬉しくて今日も1日最後まで頑張れそうです!
「よし!稲葉くんビラ配りいこう!」
ハイハイ、と後ろからついてくる稲葉くんを従え、藤宮くんと真木くんにもお礼を言って雪柳を後にする。
***
階段を下りている途中で稲葉くんに呼び止められた。
「委員長」
「なーに、今はマネでしょ…」
振り返る途中で片手で肩を掴まれ抱き寄せられる。
「ぶっ…!なっなに!?」
階段の段差もあり佐久間さんの時とは違って腕の中というよりかは硬い筋肉にぶつかったような事故で鼻が痛い。
「これ、佐久間さんのニオイでしょ、俺これ嫌い」
ぎゅうっと強く抱きしめられて落ち着かない。
きききき嫌いとかそんなこと言われても…!
もぞもぞと動いて抵抗してもより強く抱きしめられてしまう。
「んーもうニオイ落ちたかな?」
そう言って私の首筋を稲葉くんの鼻先がそっと触れてなぞるように、うなじから鎖骨あたりまでゆっくりと香りを確認され、顔でステーキ焼けそうなくらい熱くなった頃、ようやく解放された。
「いっ稲葉くんの前世はサバンナで暮らす肉食獣なのかもね…!」
「ぷはっ!そうだったらいいんだけど…多分俺は犬だよ、うん番犬って当たってるわ」
「番犬?」
こっちの話だから委員長は気にしないで!と笑顔を返された。
…なんか笑われているというか、楽しそうでいいですね?ってジト目を返したくなる気分だ。
男の子はよくわかんないな!もうっ!




