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 「一石何鳥やってのけようとしてるのかしらね」


 「佐久間さん」


 

 更衣室から出てきてみれば、静かな事務所でひとりA4の紙束をパラパラと捲っている。


 私も思いつくまま書いたけど、今回の功労者は藤宮くんだ。

 彼がきちんと資料になりえるものをたった1日で用意してくれた。


 これで大人たちを説得できないわけがない。



 「うららのためでもあるだろうけど…長岡のためでしょうコレ」


 佐久間さんからどこか呆れたような苦笑いをされて、私も同じような苦笑いを返す。



 「私は藤宮くんみたいにカッコよくデータから察してたわけじゃあ無かったんですけどね~」



 ビル内うろうろしてたら、フリージアにお願いすることが多いな~って思ってただけ。

 うららの客層を鑑みれば、いくら同じビルでも高級店にはまず流れてこない。


 延長も考えていたのにイマイチの接客で楽しみ切れなかったとか、折角遊びにきたのに早仕舞いしているとか、そういった取りこぼしが無いようフリージアの黒服は営業時間中よくうららの様子を見に行っている。



 なぜそんなことを知っているのか。

 

 例えばビラ配りから帰ってきた時、お客様のタバコを買いに店から出た時、階段ですれ違うのはフリージアの黒服が圧倒的に多い。


 フリージアのフロアマネは実質2店舗をまわしている状態だ。神経使いすぎてそのうち過労死するんじゃないだろうか。


 その前にイライラして血管ぶち切れるのが先かもしれないけど。 



 長岡さんだって営業中はタイマー管理をしながら電話対応をし、注文伝票や指名料など諸々の合算をこなして会計しているだろうに、本来なら表に出なくていいポジションでも時間を作って客席に足を運び、ボトルを煽って飲んで伝票の数字を膨らませている。


 

 頑張っている人に頑張って!なんて言っちゃいけないのはわかってるから千葉さんにはそんな声掛けしないのに長岡さんには言ってしまう。


 付き合いが長いっていう甘えと、なんだかんだで面倒見いい兄貴分だし…きっと何とかしてくれる!っていう甘え。



 千葉さんより先に壊れるようなタイプの人ではないけれど…もしかしたら、と昨日おにぎり渡した時に一瞬過ぎった。

 


 「あいつも分かってるから悔しいのよ、可愛い妹に見透かされて心配かけて」

 

 そんな顔してないでこっちいらっしゃい、と軽く両手を広げられる。



 「大丈夫よ、上手くいくわ」


 佐久間さんはいつも大丈夫だと言ってくれる。

 そして有言実行させるので、大丈夫じゃなかったことは今まで一度もない。


 いつもより優しく抱きしめてくれる佐久間さんの腕の中で「いい香り~」と暢気に安心していると



 「…でも長岡とセットで岬も巻き込んだってことは、まだ企んでいることがあるわね?」



 全部吐けと言わんばかりの黒い笑顔を至近距離でぶつけられた。



 「あっ!なっ長岡さんの鍵もっていかなきゃ~~っ」


 「あーやー?」


 優しく抱きしめられていたはずの腕の拘束が強くなる。




 そういえば…私のママは厳しい人でもあったことを思い出した。



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