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まだまだ営業中だし、誰も帰っては来ないと思うけど…何でこうなったんでしょう。
後ろからハグされて左肩に顎を乗せながら楽しそうにウェットティッシュで両手を丹念に拭われている。
確かに手づかみで唐揚げ食べたけども。
使っていない薬指や小指まで何往復するんだとしつこいくらいに撫で拭われる。
指先の油分と指紋が無くなってしまいそう。
「ねぇ、ここまで拭かなくても大丈夫じゃない?」
というかここまでするなら洗面所に行って手を洗ったほうが早いと思うの。
「ん?委員長が気にしないならいいんだけど、もうスーツじゃないから手袋できないだろ?」
「そうだね???」
「…はぁ、何で手袋してたのかちょっと思い出して?」
何でって、そりゃ稲葉くんに決闘、を…
・・・・・・
「あ、思い出したな」
顔面から溶岩が垂れ流せそうなくらい熱い。
忘れていられるなら忘れていたかった!!!
「つーか忘れる?こーんな風に味見されておいて」
拭いたばかりの右手を肩の前に上げさせられ、小指に唇を寄せてちゅぷっと口に含まれる。
「~~~~~!!!!」
視界には入っていないけど!!視界に入れたら顔が近すぎて死ねるけど!!!
「っ!」
小指が発火するんじゃないかと思うくらい第一関節くらいまで吸うように呑まれ、リップノイズが耳元で響きすぎじゃないかと抗議したくくらい唇で扱くように出し入れされる度、何も考えられなくなる。
「あ…あっ…んっ」
舌で翻弄された挙句、最後は甘噛みされて、それが起爆スイッチだったかのように心臓の爆発音を聞いた。
「ッッ!!!」
「じゃ、行こっか」
「・・・・・・・」
いやいやいやいや、ちょっと待って待って、稲葉くんはテロリストか何かなの?
ちゅぽっと指を抜かれて何事も無かったかのように爽やかな声色ですけども。
「ぇ…っと、や、あの、ごめん・・・・立てない」
「そっかー、じゃあ仕方ナイネ!」
棒読みも甚だしいしちょっとイラっともするけどそれどころじゃない。
落ち着けー落ち着けー、命が何個あっても足りないけど予備なんて売ってないし爆破されても修繕して使い続けなきゃいけないんだぞー。
「でもあと5分かな」
確かに、それ以上は待たせられない。
ミシェルくんのお兄さんにも聞きたいことあるし。
「まぁちょっとはリセットになった?少し目を離しただけでハードワーカー極めそうになるんだもんな」
…強制シャットダウンの間違いでは?
再起動まで結構時間掛かるんですけど!!
「…他にもっと穏便な手段無かったの?」
「え?穏便かもしれない他の手段をもっと試していいの?」
ごめんなさいお願いだから試さないでください。
聞こえるかどうか分からないくらい小声で訴えたけど「大丈夫また今度ね」という全然だいじょばない犯行予告を頂いたので、どうにか心臓を強固なものへとヴァージョンアップしなければならないと焦燥感に駆られた5分だった。