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「何でお前らウチに来てんだ」
ここは4階フリージア。
ですよね、と言いたくなるツッコミをしてくれたのは長岡さん。
「そりゃ雪柳もミモザも準備中だから?」
「ほ~~~~お、ウチも今日営業日なんでたむろされても邪魔なんですけどね~~え?」
やだなー、そんな怖い顔されても困るぅ~いつもこの時間まだ準備どころか出勤してないじゃないですかぁ♪
とかそんなことを言ったら悲しそうにキレるという器用なことが出来るのが長岡副店長。
在籍の長いキャストにも似たような感じで遊ばれている。
コンビニ前ですれ違いたくないタイプの強面兄ちゃんなのに。
「むしろ何で居るんですか」
内緒話できるよう勝手に使おうと思ってたのに。
「津村に早めに開けとけって言われたんだよ!」
え、チャーリーさん鋭い。
まぁ長岡さんも巻き込もうと思ってたから丁度いいけど。
「長岡副店ちょお~」
「俺は何も買わん!連帯保証人にもならん!!」
仕方ない。ふんっ!
ソファにふんぞり返ってアホみたいに開いた長岡さんの足を閉じさせる。
「藤宮くん、よろしく」
ガション。
長岡店長の両足首に手錠をし、拘束した。
いやぁ~雪柳はこゆオモチャが充実してるんですね!
どんなイベントしてるんですかね!あっはっは!
「じゃあまぁ共犯ということで大人しく話を聞いてくださいね?因みにカギはこのフロアにはありません」
***
終礼が終わってまっすぐ店に出勤してきた私と稲葉くんは、藤宮くんが出勤してくるまで大急ぎで大まかな開店準備をすることにした。
今日の食材受け取り、明日の食材発注、清掃、おしぼり、テーブルセッティング…
清掃も半ばという16:30を過ぎたところで藤宮くんから連絡が来て、顔合わせをした。
ミモザからは私と稲葉くん、雪柳からは藤宮くんと、彼が連れてきたキッチンメインのスタッフの真木くんだ。
藤宮くんがワガママなお姉ちゃんが居そうな優等生タイプだとしたら、真木くんはヤンチャな弟の面倒を嫌な顔をせず静かに見守るお兄ちゃんタイプだ。
ふたりとも口数が多いタイプではなさそうだから人付き合いが下手で誤解されやすいんだろうけど、本人たちもそれを分かってるから誰かと向き合う時の態度は誠実に、というのがありありと伝わってくる。
真木くんには普段どんなポジションでどういう仕事をしているのか、来週はちょっと無理してもらうけど体調は大丈夫なのか、今回うららの黒服に対して真木くんから指導してほしい要点と期待していることを少し話した。
なるほど、藤宮くんの片腕だ、と思った。
きちんと目が合って、耳もこちらに向いている。意図することをきちんと受け止めようとする人の姿勢だ。
ひとは自分の気持ちや考えを話すより、人の話をきちんと聞いて理解し、相手の想いを汲み取るということのほうが難しい。
…この人はかなりの雪柳の縁の下の力持ちだ。
そりゃこんな黒服が居る店はイイ店なはずだ。
キッチンは目隠しされた暖簾の奥から店内を動向をキャッチして、手早くオーダーを仕上げつつ、ドリンクの受け取りが滞ればフロアに出てフォローもし、延長が取りやすいタイミングでフードを出す。食べ切れてしまうとちょうどいいからそのままお会計ね、なんて言われてしまわないように。
雪柳の営業時間の長さと客層からして高額な太客というのはそれほど多くないが、少しでも長く滞在して少しでも単価を上げていこうとする努力はスタッフ同士の連携はもちろん、キャストとも連携していなければ数字は残せない。
個性が大爆発している店なのに、チームとして機能している。
しかも藤宮くんの担当キャストはみんな数字を残している。
あー…キャスト管理の仕方が気になる…普通に意見交換とか勉強会したい…!
短時間ではあったものの、これから何かと収穫の見込めそうな顔合わせをしつつ、稲葉くんと真木くんにはそれぞれ自分の店舗の開店準備に戻ってもらって、落ち着いて打ち合わせしようとフリージアに来たわけですよ。
私なぜか全店舗のカギ持ってるんで。えへ。
長岡さんが出勤して来たら取り込もうと思ってたんですよねぇ。
まさかもう出勤してるとは思わなかったけど。
「備えて良かったおもちゃの手錠」
「で、犯人の要求は何なんだ」
まぁ、人聞きの悪い。
要求は確かにあるけど…
それほど儲かる気はしないんだけど
「ハイジャックみたいなことしようとおもって?」
「何で疑問系なんですか綾瀬さん」
「いやだって基本的には儲からないしボランティアでしょ」
まぁそうなんですけど身も蓋もないですねそれ、と藤宮くん。
藤宮くん!
納得しちゃダメなやつですよ!
広義的には得しますから!多分!
「はい、これが要求です」
授業の合間に書いた1枚の企画書のコピーを渡す。
タイトルはほぼ原案のままだ。
『来週やるよ!うらら再生計画!地獄の人格矯正3日間!』




