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アラームも掛けない休日。
いつもならもう授業が始まっているような時間までのんびり寝て、朝昼兼用のご飯を流し込んでから店へと向かう。
まぁ昨日ちゃんと仕事が出来なかった罪滅ぼしというか、今日も遅れるかもしれないし、というイヤーな予感もあるから「すぐ開店できますよ」という状態にしておきたい。
他店舗はともかく、先にミモザだけ掃除機を掛けて、コロコロで絨毯の汚れを取ったら、おしぼりの準備をしつつ電話を掛ける。
電話にハンズフリーの機能をつけてくれた人に感謝だ。
『あーや、今どこー?』
「まだバイト先で雑用してるとこー。」
『じゃあ土曜講習はパスってことー?』
「そだねー、みなみちゃんも今日は学校行かないでしょー?」
『はぁ…さすがにね、無理』
「…私もさぁ、行ってもお邪魔じゃない?」
正直あんまりお金持ちだとか権力者とか関らない人生を送りたいので、出来れば行きたくないよとアピールしてみる。
『来なくていいの?ミモザのVIPルーム連れていけるけど?』
「…開店準備が整い次第お伺い致しますぅー」
天秤がガコーンと傾いてしまった。
小市民の人生観より今月の売上のほうが重要だもん。
ミシェルくんの兄がジャブジャブお金を使ってくれると信じて、折角だから日本酒のいいやつ仕入れておこう。
数時間後には何も知らされていないミシェルくんがおしっこチビるかもしれない。
慰めになるかわかんないけど、お土産のひとつでも買って行かないと。
ポポポとメッセージを打ち込む。
少し気まずいけれど、何事もなかったかのように、いつも通りに。
『15歳、フランス人、男性へのお土産って何がいいと思う?』
選別、熱湯消毒、消臭スプレーをして、クルクルと撒き直したおしぼりをウォーマーに入れておく。
水分が飛びすぎるといけないのでスイッチはまだ入れない。
選別で洗えていなかったダメしぼりを×印のビニール袋でまとめて、1階まで降ろしている間に返信があった。
着信1回、メッセージ1件。
『今、本屋に居るんだけどこれで良い?』
添付されてる画像が、う○こドリルのひらがな、カタカナ、漢字の3冊だった。
ああ…これでまた日本が誤解される。
700年前は黄金の国だったのに、今度はう○この国ジパングになってしまう。
ポポポと返信。
『お○りたんていも1冊足してみなみちゃん家に集合でお願いします。あ、塾とか予定あるなら買わなくていいよ!』
日本に来たのが間違いだったね、ミシェルくん。合掌。