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お昼ごはん後の眠い5限も終わってあとは教科書も開かなくていいような授業だ。
音楽室へと移動しながらスマホを開く。
フル盛りパワーでモーニングコールを兼ねた今日の出勤確認は取れたし、おもたせが必要なお客様もいらっしゃらないようだし、今日は補講も出ず早めに開店準備を済ませて藤宮くんと打ち合わせしようそうしよう。
サクッとメッセージを打つ。
『来月じゃなくて来週やるよ!うらら再生計画!返事はハイかイエスのみ!人格矯正3日間!』
…こういうのは勢いが大事だと思うの。
鉄は熱いうちに打て、っていうのは打ち込む側の人間がどれだけ熱くなれているかがポイント。
冷めた鉄に熱を入れるのも、原形無くすくらい乱打できるのも強い気持ちを持った人間だけ。
1時間前に「今日休みます」が通用する世界なんだから、「来週こんなことしますよ勝手にね!」っていうのも通じるはずだ。
ダメなら辞めるって言ったら大体のことは許されるポジションに居るのも知ってる。
みんなの優しさに支えられてるよなぁ…
その分の結果は出したいよね、って思うと燃えるわぁ。
「あーや、悪い顔してるよ」
「え、嘘、気分はあの暑苦しくも爽やかなテニスプレーヤーだったのに」
「いや、どっちかっていうとラスボス感ハンパなかった」
そんなバカな。
「チャレンジ!って感じの気分だったよ?」
「雑魚は叩き潰す!って感じだったってば」
えー、納得いかなーい。
博愛とはいかないまでも愛はあるのよ愛は。
***
「じゃあ稲葉くん行こっか」
授業も終礼も終わって、やっと1日の半分が終わった気分だ。
お金が発生する分、ここからが本番だとも言える。
「ん?補講じゃなくて?」
あ、なんだかんだで言いそびれてたか。
「今日は早めに店の準備済ませちゃってから、うららヘルプの打ち合わせしようと思って」
藤宮くんも時間作ってくれるって返事あったし、チャーリーさんも捕まえて説得して…ついでに長岡さんもちょっと巻き込もうかな?
「それか稲葉くんは補講出てから来る?」
「いや、それなら俺もこのまま出勤するよ」
ぼそりと「あんまりいい予感しないし」という鋭い一言をいただいた。
むぅ。信用ないなぁ。
「ほら、荷物」
ううぅぅっ…ときめくっ
「お、女王様バイバーイ」
カイ!なんてことを!!
あいつもう1発しばく!!!
「アホか、こんな可愛い女王様いるかっつーの。なぁ?」
…っ!なぁって!なぁって言われましても!
お答え致しかねます!!
カイの代わりに稲葉くんの背中をバシバシ叩く羽目になってしまった。
心までイケメンっていうのはズルくないですか。
店までの道は放課後デートだと思おう。
「…どうよ陸、あのふたりの焦れっぷり」
「…大事な弟の当て馬っぷりに泣ける」