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ホテルを出て真木くんとバイクを停めている駐輪場へと向かう。
テストの結果も出ていないのに何のご褒美かと思えるくらい充実した胃袋。
スイーツで満たされているなんて、幸せすぎる。
「全然お礼になってないような気がするんだけど、イベントは本ッ当に助かりました!真木くんありがとうね」
表で働くキャストの努力はもちろんだけど、裏で支えるスタッフが頼れる存在というのはありがたい。
誰でも出来る仕事というレベルを超えて、この人に任せたいという域にまで研鑽するのは支払われるお給料以上に価値がある。
「いえ!あの、た楽しかった、です。また、あの、呼んでください…」
「真木くんがいいなら喜んで!合同イベントとか出来たらいいよね!」
そうしてちょっとずつ情に訴えてじっくりミモザに移籍させよう…!
ミモザの黄金期…私たちで作っちゃう?なにそれ伝説になるの?やだ、なにそれ楽しい!
ここからそう遠くない店の方角を見てニヤついてしまう。
「あ、もう真木くんは出勤する?」
まだ3時半と少し早いけれど荒れやすい雪柳だ、前日の片付けが残っているかもしれない。
ちょっとは手伝いに寄ったほうがお礼になるかも。
「あああああの!それなんですけど、綾瀬さんが良かったら、もう少し、あの…!」
「ん?」
ヘルメットをずずいっと両手で手渡しつつお辞儀されている。
顔は見えないけれど、バイクでどこか連れていってくれるということなのかな?
「真木くんがいいならどこでも付き合うよー」
ヘルメットをくれたってことはまたバイクに乗せてくれるっていうことだね!
今度はちょっとくらいスピード出してもらえるかもしれないな、と少し浮かれて被る。
「あ、ジャージ穿かなきゃ」
「!」
その一言ですぐ後ろを向く真木くん。
なんだかデジャヴだけどこんな高校生の小娘にそこまでジェントルに接しなくてもいいのに。
ごそごそと着替えが済むとバイクは市外へと走り出す。
少しずつ華やかな町並みから離れていくと青々とした田畑から吹き抜けてくる風が気持ちいい。
このあたりを通るバスに乗ることはないので、何だか遠く知らない土地まで来た気分だ。
「旅行に来たみたいだねーー!!」
少し大きめの声で話しかけたら腰に回している手を上からぎゅっぎゅと握ってくれた。
肯定の返事だろうか。モールス信号の解読みたいでちょっと楽しい。
そんなコミュニケーションを20分ほど楽しんでいたら、目的地に着いたらしい。
「大丈夫ですか、疲れてないですか」
「うん、全然平気!…ここって、お寺?」
「はい、あの、綾瀬さんと来たいと思ってて…一緒に来れて嬉しいです…」