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チャイムが鳴って、最後の試験時間が終わりを告げる。
これで回答を埋め終わった、気が済んだ人からどんどん退席していく。
椅子が引かれて教壇へと提出して帰るクラスメイトの中に稲葉くんとみなみちゃんを見つけた。
多分あの2人は12時前には終わったんだろうな…。
ようやく納得できるところまで書き上げて、時計を見れば13:20。
うっわ、まずい。遅くなるかもとは言ってあるけど定時プラス20分以内で終わらせるはずがプラス50分。
慌てて荷物をまとめて廊下に出て下駄箱へと向かう。
スマホの電源を入れたらメッセージが1件入っていた。
『近くまで来たので、学校を出る前に連絡ください。 真木』
そのメッセージは12:50。
律儀に私が予告した時間に連絡をくれている。
もう悠長にメッセージを打つ気も失せて電話を掛けた。
「ごめん真木くん!すっごい待たせちゃってる!」
『いえいえ、あの、し試験お疲れ様でした』
「もう門でるけどどの辺に居るの!?」
『えっと、学校のすぐ南側にある神社分かりますか?』
「わかるよ!走ったら1分だもん!」
『えっあの、は走らなくていいんで!ゆっくり来―――』
通話を切って全速力で走って行けば、オロオロしている真木くんが待っていた。
「居たぁ!!はぁっはぁっ!真木くーんっごっごめん!私もうちょっと出来る人間だと思ってた!」
過信していたわけでもないけれど、どういった試験問題になりそうかは先生からもうっすら予告はあったし、紙ベースなら辞書、新聞、雑誌の持ち込み可だった。
指定された単語を10個を取り入れながら、指定されたテーマの問題点、改善案を挙げ、どういう結論にもっていくか、どう文章を構成するか、順序立てて書いていくと思った以上に時間が掛かった。
しゃがんで息を整えつつそんな話を少ししただけで、真木くんはあっさりと策を与えてくれる。
「もう、気付いているじゃないですか、何に躓いたか」
「ん?全然わかって無いけど?」
「そ、そういうのは満足度は別にして、順序通りに書かなきゃ時間内に完成できるんです」
「んー?」
「綾瀬さんの、クラスなら、ディベートとかやってますよ、ね?」
「あー、たまにやるやるA対Bみたいな口論」
「それです、先に結論を決めてから逆算していけば最短で道筋が出来上がります。あの、じゃあ、あの行きますか」
手を差し出されたのでそのまま立たせてもらう。
「ありがとう、そだねお腹減っちゃったね」
スイーツビュッフェには軽食もあるので、少し遅くなったけどお昼も兼ねてしっかり食べよう。
うん、で、さっきから視界に入るそれ。
「そのバイク…藤宮くんのだよね?」
こくこくと頷きながらヘルメットを渡される。
「天気もいいし、か借りてきました…」
おぉー、ピッカピカで近くで見るとおっきくてかっこいい。
一度は乗ってみたかったんだよね、バイク。
「タンデム初めてなんでお手柔らかにお願いしまーす」
「は、はい、安全運転もなんですけど…あのこれも…」
ぺったんこになっている大きめリュックからはジャージが出てきた。
足元を見て気付く。そうだった、私制服だ、スカートだ。
「わぁ、至れり尽くせりだ!」
ありがとうと受け取ってヘルメットを頭に乗せ、その場で穿き始めたら真木くんが慌てて後ろを向いた。
いやいや、そりゃじっと見られたら嫌だけどそんな気にしなくてもいいのに。
穿いたよーと声を掛ければ、こっちもお願いしますと顎ひもに手が伸びてきた。
少し上向きにさせられ喉元に触れる手がちょっとくすぐったい。
「んんっ…ねっ、止まった?これで安全?」
超高速ヘドバンをかまされたので、これで大丈夫なんだろう。
「じゃあ、あの、ちゃちゃんと掴まってください」
「うん!今から私はコアラ!」
「!!!」
初めてのバイクに浮かれつつ跨り、まだ動いてないけど興奮を抑えきれず、ぎゅうっとしがみ付く。
テスト後の開放感がさらにスペシャルなものになるような気がした。