129
昼休みを目前にポケットのスマホが「ちょっと!ちょっと見てよ!」と震えまくって主張する。
やっぱり電源切っておけばよかったなと後悔しながらも、きっといい話なんだろうなと授業が早く終わるように先生を煽っていつもより5分早く教室から追い出した。
「あーや…流石にアレは先生自信無くすから!おじいちゃん先生なんだから労わってあげないと!」
「んー?…おおっ!!」
みなみちゃんから話し掛けられるものの、私は今スマホ画面に夢中だ。
昨夜の売上がただの水曜日、ド平日にも関らず営業していた全店舗が目標100%越え。
うららは100%どころじゃなく桁が違うのは当然として、フリージア!
完全に事故ってる!
800%達成って!ジョーさん…うらら閉店後のたった2時間でフリージアに…夕霧さんにいくら突っ込んだんだ!
今夜はすみれとフリージア定休日だけど…飲みすぎだと思う。
長岡さんにもメール1本入れておこう…。
「『玉突き事故大丈夫でしたか?授業終わりで良かったら、しじみの味噌汁くらい作りに行きますよ』っと。」
「あーやー?」
「ああ、ごめんごめん、お昼食べに行く?」
スマホを仕舞い、腕を取られて学食へと向かう。
ぷりぷりと不機嫌さを隠さないみなみちゃんと居れば日常へとすぐ戻れる。
私は1滴も飲んでないけれど、なんとなく和定食を注文してしまった。
甘い白味噌とふんわり香る出汁に舌鼓を打ちながら、みなみちゃんに週末泊まりに来てよとお願いされる。
「ん?バイト終わりでいいなら良いけど」
「あーやってばテスト前も、まさかテスト期間もバイトするつもりなの?」
「そりゃまぁ、模試でもないのに休む意味がわかんない」
常に詰め込んでいるのだ、事前にさらに詰め込めるほど隙間は空いてはいない。
普段のルーティーンを崩してまで詰め込むことに中間テストに価値はないと思う。
「まぁそれでいいならいいんだけど、じゃあカテキョ呼んでたけどキャンセ「いや詰め込むね!」」
それは是非活用させていただきたい!
テスト範囲外で!学力アップ用として!
「あー、はいはい、じゃあこの週末は本ッ当に来てね?」
「っえええ?」
「き・の・う!稲葉から飛んで来たメッセージがこれ、んでその10分後に佐久間さんから飛んできたメッセージがこれ」
どこぞのご老公の付き人が印籠を出すかのようにスマホ画面を向けられる。
私は顔を向けられずひれ伏すしかない。
「…とんだご迷惑をお掛けしたようで…ごめんなさい、そしてありがとう…でも不可抗力だったっていうか…」
「まぁその辺の話はココで出来そうもないし、それも週末に聞こうかしらねぇ。あーアイス食べたいなー」
「チョコ、バニラ、いちご、何でもお申し付けくださいませお嬢様」
「じゃあそれ全部!」
「トリプル受け賜りました!」
逃げるように席を立ち購買にあるアイスケースまで小走りで向かう。
用意周到だな、稲葉くん。完全犯罪も出来るんじゃないだろうか。
カップアイスを3つと、自分用の牛乳プリンを積んで会計を済ませる。
いちご…、ああそうだ真木くんにも連絡しないとなぁ。
藤宮くんに3日間のお礼メール送る時に、真木くんにもお礼メールしたいってことで連絡先教えてくれないかなぁ。
引き抜きを警戒されてそうだけど、引き抜きたいのは2人まとめてなんだしその辺も分かってほしい。
「あーや、遅い」
「あーごめんごめん」
「今日ほんと心ここにあらずってやつね」
「みなみちゃんと喋ってると大丈夫なんだけどね、バイトでも何でも反省と復習までがセットでしょ」
「真面目~っ、真面目過ぎるわ綾瀬委員長さま」
「みなみお嬢様が器用すぎるだけでございますぅ~」
まだ意識は引っ張られるものの、みなみちゃんのお陰で和やかに日常へと溶けていけそうだ。