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ドリンクの提供も終え、エレベーターを再び止めにフロントへ戻ればスピーカーから藤宮くんの声が聞こえてくる。
『リタさん、ありがとうございました。お次はclubフリージア八番街から、薫さんです。』
キャッシャーから出てきた薫さんは私がフロントに居たことに気付き、一瞬だけこちらへと微笑んだ。
美しい大輪のバラ、そんな言葉で飾るのが相応しい、「1番」の称号が似合う納得のナンバーワンだ。
中央から鳴らされる音に誘われたんだというような雰囲気で、店の奥から薫さんがゆったりと登場し、空気がまた変わる。
「シスターみたい…」
キラキラと光る派手な刺繍もそうだけど、太ももの付け根あたりまで深く入ったスリットのシスターなんてありはしないのに、あれだけ色っぽい格好をしていてもどこか禁欲的に見えるのが、なんだか落ち着かない。
『後ほどオーパスワンをご注文のお客様には、薫がお席までご挨拶にお伺い致します』
お席に呼ばれる気ゼロの高級ワイン!!売上作る気ゼロのナンバーワンってどゆこと!?
今のフリージアってどうなってんの!?
長岡さんの手腕が気になりつつも歌が聴こえ始めたので足音を消してフロアへと進む。
淡いスポットを浴びて佇む薫さんは女神のよう。
「Some say love, it is a river.That drowns the tender reed.」
うっ…わ。蕩けさせる声ってこういうのですか。
腰が抜けそう。ダメになりそう。教会で逢引きしてそう。
…逢引き?…さっきのごっつい所長と?
なっなんか想像がどんどん膨らむ!!
脳内でキャーキャー言っていたら、後ろから「ニヤニヤしないの」と佐久間さんに声を掛けられた。
「いや、これはニヤつくでしょう…!」
小声で反論するも、佐久間さんには響かなかったようで「…まだまだ子どもねぇ」と眉尻を下げて笑われた。むう。
薫さんは真っ直ぐに、ただひとりだけを見つめて言葉と音を織り紡ぐ。
それに気付いてしまえばちょっと冷静になったりもするわけで。
言っちゃっていいかな?いいよね?
ほんと何しに来たんだ。
いや、呼んだのはこっちなんだけど。
薫さんはたった1人に向けて「バラを咲かせるためのタネが欲しい」と、全力で口説いているっていう。←性的な意味で。
いやまぁもっと尊い歌だとは思ってますが、そう聴こえるシチュにしてゴメンナサイ(笑
溺れるような愛と、たゆたうような愛の対比ができるといいなぁ…ということで112話はがっつり1曲載せてます。
自己満ですがどちらの曲もご存知な方はニヤついてください(笑
♪The Rose