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迷惑なリムジン同伴が1組あったものの、順調に店内が賑わってきている。
たった今、おサルなレイラさんも40代前半ぽい男性を伴ってご来店いただいたところだ。
来店者リストにチェックを入れつつもスマホでまだ来ていない担当キャストに時間通り来れそうか連絡を入れておく。
「稲葉くん、レイラさんの顔見た?」
「絵に描いたようなドヤ顔でしたね」
「あー、それはホントそれなんだけど」
確かに態度が分かりやすくデカいし、いつうららは小学生雇ったんだと思わないでもないくらい子どもっぽかったけども。
「睫毛だよ睫毛」
付け睫毛が2枚だったのが1枚どころかマスカラのみの仕上げになっていた。
まぁそれでも一般OLや女子大生よりも盛ってはいるものの、ギャル系店舗のキャストの中では取っ付きやすい容姿に変わっていた。
女同士で通じる「カワイイ」と、自己満足の「カワイイ」、男性から見た「カワイイ」。
同じ可愛いでも仕上がりは全然変わる。
流行りやグループ内の協調を求めたもの、自分の理想を追い求めたもの、異性からの好感度を求めたもの。
1人でこのバイトに来ているのではなく友達と連れ合って来ていたりすると、お客様はほぼ男性という商売なのに意外と男性に向けたカワイイを追求しなかったりする。
しかも競うよりも馴れ合いの職場環境、なあなあの空気が蔓延していた店だったため、化粧もお客様に喜んでもらえるものではなかった。
「やぁっと最初の1歩だよ、おサルからヒトに進化するといいんだけど」
「また覗きにくるくらいしてもいいんじゃないですか」
「ヤダよ面倒くさい、――ああほらまだ同伴18組あるんだから降りて降りて」
「・・・・・」
私はミモザの担当5人だけで精一杯ですよっ。
椿さん以外まだ来ていないので4人にメッセージ送信えいっ。早く来い来いっ。
「…ッあ!?」
スマホの画面から目を離していなかったので急な動きに息が詰まる。
グッと腰を引かれ、エレベーター内に引き入れられた。
腰を押さえている反対の手で【閉】ボタンが押され、定員4名の狭いエレベーター内の、さらに狭い腕の中に抱き込まれている。
「羨ましいですね、睫毛ひとつの変化すら気に掛けてもらえるとか」
「そっ!!そうですか!?いやっていうかこれも仕事のうちと言いますか!」
ああもう!!
こ!め!か!み!に!
声やら息やら少し皮膚の感触が掠るんですけど!?
どこの肌なんだろうと考えちゃダメになるやつですよぉーー!!!
仕事どころじゃなくなるからやめてぇーー!!!
「少しは私のことも気に掛けて頂けておりますでしょうか?」
ほぼ毎日気にしてます!!!
今現在!!毎秒!!皮膚が!!毛穴が!!汗腺が!!全身で稲葉くんに反応してますけど!?
高速で頷きつつスマホを握る手汗がヤバい上に運良くこんな至近距離にいるのならカメラ機能で写真撮りたいとか煩悩が刺激されてますよ!
ぶるりとスマホが震える。
誰かから返信が来たのかもしれない。
「ダメ、そっちじゃなくてこっち見て」
手からあっさりとスり取られ、つつつ、とスマホが横腹から腰の後ろへと身体のラインをなぞり、お尻のポケットにスルスルとねじ込まれる。
「…ふぁあぁッ!」
全身電気が走ったようにビリッと快感が突き抜ける。
「こんな可愛い姿、私以外に見せちゃダメですよ?」
できれば稲葉くんにも見せたくなかったんですけど!!!
てかまだポケットから手は引いてくれないんですかね!?
両手で抱っ…拘束されるの慣れないし!身動ぎひとつ出来やしないし!
「…返事は?」
「ッハイ…!」
神様ァーー!!助けてー!!!悪魔が!!悪魔がここに居ます!!!
「じゃ行き先ボタン押しますので1階着くまでに顔戻してくださいね」
「無理!!10秒以下じゃ無理!!!」
「はぁ、じゃ仕方ないですね、扉開けるのでこのまま3階のフロントに居てください。次同伴案内してくるまでにはお願いしますよ」
ため息って!私が悪いの!?
扉が開いてトンと軽く押し出され、稲葉くんはあっさりと1階へ戻って行った。
満足そうに微笑みながら、私のスーツに移り香も残して。




