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 事務所に戻ってタイムカードを切って朝ごはんの準備をする。


 その間に稲葉くんにはA4のクーポンビラを3つ折りにしてもらい、ビラの右下にハンコを押してもらう。

 稲葉くんは「稲葉」、私のハンコは「あやちゃん」と書かれたものだ。


 誰が配ったものでご来店されたのか分かれば、微々たる金額とはいえお給料になる。

 まぁ時間がない時には何も押さずに配っているけれど、時間があればビラ100枚だけじゃなくてキャスト募集ティッシュ20枚にもハンコは押したい。


 受け持ちのキャストのお姉さんは現在5人。あと1人、2人ならどうにかなるので新しい風を呼び込みたいなと思う今日この頃。



 ピーピーピー


 あ、パックご飯炊けた。

 


 6階のすみれから引き抜いてきてもいいんだけど、ビル内売上の内訳を多少変動させるだけになりかねないので、どうにか道行く人の中から経験者を見つけて捕まえたい。



 金目鯛の煮付けを温め直している間に、パックのまま食べるのも味気ないのでご飯を茶碗に盛り、一晩甘酢で漬けたタコときゅうりを小鉢に盛る。

 

 お味噌汁はインスタントで好きな具を選んでもらう。

 手抜きでごめんなさい。


 ほんとはオクラも下処理して持ってこれば良かったんだけど…面倒だったので家から持ってきた山芋を擂り潰して器に入れ、納豆も用意する。


 ねばねばー。



 本日火曜は週明けの営業日なので、平日にしかご来店できないお客様が意外といらしてくださる。

 ミモザは水曜木曜が苦戦しやすい日なので出来れば火曜は余裕を持って目標金額達成しておきたい。


 何か企画しなきゃなぁ。



 「委員長、校外学習に使えそうなネタ印刷してきたから目ぇ通しておいて」


 「えー!わざわざありがとうー!!食べたら見せてもらうね!」



 由宇兄ちゃんと話しながら決めたらいいかと後回しにしそうになってたのバレてるなこれ…



 隣に座ってご飯を食べながら色々考えてたアイディアを共有していく。


 折角だから、昼公演を見た後は、生徒を何人かメイクと着付けさせて舞台人に仕立ててプロと並べて比較するミニレッスンみたいなワークショップの時間を設けたいな、とか。


 …物販させてもらうのもありかな、とか。


 座席の場所を何箇所かピックアップして、どの席が一番物販売れているのかとか調べるのも面白そうだし、例えば桟敷席の方にインタビューしてお召し物のチェックなんかもしてみたいし、全席にアンケート用紙も配りたい。


 ついでにアンケートの御礼の粗品も用意していいのなら、学校と由宇兄ちゃんのコラボグッズ…限定ボールペンとか作りたいし、アンケート内容に学生らしい高校生からの質問と由宇兄ちゃんたちからの質問を入れてもいいかもしれない。


 で、うまいこと由宇兄ちゃんとその日ご一緒になった一般のお客様と繋がれれば、そのまま学園祭にショートバージョンのアレンジ舞台をやってもいいかもしれない。


 新しく何かアイディアひねり出すより労力は少なくて済むうえに、見本である目標を先に見ておけば、こだわりを持ってクオリティとモチベーションを上げられる。


 まぁ舞台をしなくても展示でもいいんだけど…たぶん特進科の体質的に展示のほうがこだわり過ぎて疲れるはずだ。

 水モノ一発勝負のほうがまだごまかせるし、みんなの妥協点が近いと思う。


 

 とまぁ、2,3歩先の皮算用的戦略の話もしておく。

 学園祭なんて秋だしまだ先だもんねぇ。


 大事なのはビジョンの共有!

 誰からアイディアもやる気も出てこなかった時にそっちへ導いていくかもねーっていうお知らせ。


 

 「まぁ委員長がそう考えてるならそうなると思うよ」


 

 と、ちょっと遠い目をして言われてしまった。

 無理矢理自分の意見を通すつもりはないけれど、自主性なんて待ってても基本出てこないよね。

 みんな受験第一だし、「我こそは!」みたいなそんな意見あったら私たちは今年も委員長や副委員長なんてしていないもん。


 ま、そんな愚痴もちょっと頭の片隅にありつつも…


 だだだーっとやりたい事をぺらぺら喋ってたので稲葉くんが箇条書きにスマホでメモしてくれたので、そのまま企画書はお任せすることになった。


 どういう意図を持って、舞台見学だけではなく何故このワークショップを行いたいのか、それに伴いどのような困難が付随して、どのような効果があると期待されるのか。


 学校や保護者向けの企画書と、由宇兄ちゃん向けの企画書2つをそれっぽく作ってもらえる。




 ら、楽だわ~~~!

 稲葉くんが副委員長で本当によかった…!

 1を言っただけで2も3も伝わっているって本当に楽…!


 できる人ってこういう人のことを言うのよね…!



 あ!あとうららのヘルプ企画!と話そうとしたら、


 「委員長、ちょっと寝な?」


 

 と、ストップを掛けられ、あったかい使い捨てアイマスクを掛けられてしまった。



 ワーキングハイ状態であぶなそうになってると止めてくれるのも稲葉くん。


 

 急に憑き物が落ちたかのように力が抜け横たえる。 

 いや、女子が膝枕されているほうってどうなの何様なのよとは思うけど抵抗できないというかまぁいいか、と思ってしまう。


 30分のつもりがしっかり1時間寝ていて、起きたら使った食器もキレイに洗われていた。



 嫁に欲しいよ稲葉くん…!

 

 


***



 

 「綾瀬、無防備すぎ」


 アイマスク掛けたときも思わず顔を引き寄せたくなったけど、太腿から混ざる体温が、視界に入る首筋が、唇が、寝息が、


 ――まるで全部俺のもののようで、愛おしくて、苦しい。

 



GW10連休、連勤だった皆さまお疲れ様でした。

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