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《死の庭》の乙女たち  作者: 瀬川月菜
番外編・小片
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聖静夜

 窓にかかった息が白く浮かび上がる。

 世界を包む夜はまだ濃い。音が吸い込まれていく気配にじっと耳を澄ましていると、燃え尽きる星のように窓に降ってきては消える雪の結晶が浮かび上がった。

 降ってきた、と目を細めていると闇によって鏡と変じた硝子に外を見ていたプロセルフィナと、後ろから抱きすくめるジークの姿が現れる。

「なあに?」

 回された腕に触れながら尋ねると、ん、と小さな声が耳をくすぐる。

 ひそやかに笑いながら、プロセルフィナはジークのぬくもりがあることを幸せに思う。触れていてくれることを、寒い夜にそばにいてくれることを、奇跡のように感じる。

 世界なんて救えないけれどそばにいることはできる。

 すべての人に与えられている力がそれだ。いまジークの手に魔剣はなく、プルセルフィナの声はただの歌を紡ぐけれど、たった一人を選んだだけで世界を救ったような気持ちになれる。

「愛してる」

 その囁きになんと答えれば喜んでもらえるのか。その悩みすら満ちるものとなってプロセルフィナを微笑ませる。

「何を笑ってるんだ?」

「幸せだからよ」

 腕の中で身体を向き合わせると、その唇を奪ってみる。

 目を見開いたジークがぱっと赤くなるので、まるで少女のようだわと思い、笑いが止まらなくなる。手を伸ばして赤い髪を絡めるように引くと、ちょっと戸惑った反応を見せる。それでも振り払わないのが彼らしい。

「……調子に乗るなよ?」

 そう言って覆いかぶさられる。

 大柄なジークを受け止めきれず後ろに倒れかけると、それが狙いだったとばかりに大きな手の平に支えられた。

「フィナ」

 微笑みと熱く潤んだ瞳が、目、身体の隅々から胸、声までを捕らえる。

 震えが走り、音にならない声で呼んだ。

 ジーク。

 あなたがここにいることを、何に感謝すればいいのだろう。

「……歌ってくれ」

《死の庭》にも神法にも救い主は存在しないけれど、この青い夜に響くものがあなたと私を永遠に救い続けますように。


 目覚めればきっと清らかな白い世界が広がっている。

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