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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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先祖返り2

「その昔、僕らの先祖はこことは違う惑星に住んでいました。その名もガイア。一方で、僕らが今住んでいるこの惑星はテラと呼ばれています。


 なぜ僕らの先祖がその惑星を捨て、ここに移り住んだのかは分かりません。宇宙人との生存競争に破れたとも、隕石衝突から避難するためとも言われていますが、そのどれもが仮説の域を出ません。なんせ、もう数千年も前のことですから。いろんな仮説に尾ひれがついていて、どれが真相か分からなくなっているんです。ただ、僕らが別の惑星から移り住んだのは確かなようです。


 その証拠のひとつが宇宙船。今では帝国の属国となっていますが、各国の首都はその宇宙船が基盤になっています。老朽化のためもう飛ぶことはできませんが、あのシェルターのような建物にはその説明がしっくりきます。もちろん帝国にもありますよ。城の地下に埋まっています。


 もうひとつの証拠が先祖返り。惑星ガイアはテラよりも重力が強く、より過酷な環境であったようです。そのため、先祖返りでガイアのころの肉体の形質が発現すると、尋常ならざる力がその身に宿ります。ベティさんが黒虎と渡り合えたのもその力によるところが大きいでしょう」


 ベティさんを見ると、彼女はVサインを決めていた。


「僕の父。オスカーも先祖返りでした。身内なんであまり言いたくないんですけど、多くのモンスターを退けた功績で『英雄』と呼ばれています」

「……」

「……えー、その父がどうして行方不明になったかといいますとーー」

「えー、クリスー。それだけ?」


 クリスくんの台詞を遮ってベティさんが口を開く。


「……それだけですが?」

「えー。それじゃあオスカー隊長の雄姿が伝わらないよう。もっと言葉を尽くして語ろうよ。なんだったらお姉さんが語ってあげるよ? オスカー隊長の伝説! 並み居るモンスターの軍勢からひとりで砦を守りきった『ツェッペリン砦防衛戦』とか、皆の静止を振り切りモンスターの群れに取り残された子供の救出へ向かい、救出に成功するついでに群れを全滅させた『イシュラハムの奇跡』とか、首都ベルルイカを取り囲んだ百匹の黒獅子をばったばったとなぎ倒した『百獅子狩り』伝説とか、もう話題に事欠かないよ!」


 らんらんと目を輝かせてベティさんは言う。


「いや、身内だから言いたくないんじゃないですか。どんだけ父親自慢したい子供なんですか、僕は」

「いーじゃん別に。事実なんだし」

「虚実よりかはましですけど、口が裂けても嫌です」


 ぷいとクリスくんはそっぽを向いてしまう。そんな彼に「えーなんでさー」とごね始めるベティさん。このままだと話が進まないな。


(あー、はいはい。クリスくんのお父さんの雄姿はベティさんの話でなんとなく分かったからーー)

「話足りない!」

 

 俺の言葉を遮るベティさん。めんどくせーアラサーだな。というか、俺のこと怖がってたんじゃなかったの?


「オスカー隊長のことを思い出したら勇気が出た」


 そう言って彼女はすっくと立ち上がる。確かにもう腰は治ったようだ。


「ふふふ、今なら後ろから何囁かれても腰砕けになったりしない!」


 そう言って俺に向かってポーズを決めるベティさん。

 ほう、さようか。スススと俺は彼女の耳元に移動し、そっと囁く。


(……顔の小じわ、増えてますよ)

「ギャフン!」


 ベティさんは人生で何回も言わない言葉を叫ぶと、顔を両手で覆ってうずくまってしまった。


(なんだ。全然ダメじゃないか)

「ううう。それは言わんといて〜」


 めそめそと泣きじゃくるベティ(アラサー)さん。


「何て言ったんです?」

(企業秘密)


 クリスくんが訊いてくるが、黙っておくことにした。


「ううう……。お嫁に行けない……」


 そしてうずくまって元に戻らないベティさん。


(あーもう、仕方ないですね。今度ベティさんの話に付き合ってあげますから、今は立ち直ってくださいよ)


 面倒くさいから。


「……本当?」

(本当ですとも)


 座った姿勢に戻り、じっとこちらを見るベティさん。


「……この人、いい幽霊さんだね」

「名前は悪霊らしいですけどね」

(はいはい。話を戻しますよー)


 閑話休題。


「それで、僕の父がどうしてガイアに向かったかなんですけど、理由は2つです」

(2つ?)

「ええ。ひとつは『先祖の地』に戻ることが僕らの悲願だったからです」


 ほうほう。やむにやまれずガイアから逃げ出したらしいし、戻れるなら戻りたいのは当然か。たとえ、それが遠い先祖のことだったとしても。


「2つ目は友好を結ぶためですね。無人探査機を通してですが、昔からガイアの調査は行われていたんです。最近になってようやくガイアに文明と僕らの生き残りらしき人影を観測することができまして。彼らと友好を結べれば、もしかしたらモンスターに窮する現状を打破できるかもしれないと、そういうことです」

(お! 生き残りが居たのか!)

「ええ……」


 肯定するも、クリスくんの表情は浮かない。


(そうか。行方不明って言ってたもんな)

「ええ。ガイアへの渡航を志願したのは父を含め三人の先祖返りの方々。その宇宙船との通信はガイアへの着陸と同時に途絶えてしまったそうです。それ以来、なんの音沙汰もありません」


 そう呟いて、彼は空を見上げる。


「死んでしまったのか、そうでないのかも分かりません。でもまあ、あの父が死ぬとは思えませんし、今でもガイアでのんびり迎えが来るのを待ってるんだとそう思いますけどね」


 そう言って彼はぎこちなく笑う。なるほどね。クリスくんがロケットの研究をしているのはそれが理由か。


 ベティさんはすっと立ち上がり、クリスくんを抱き寄せる。


「そうだよ、クリス。オスカー隊長が死ぬわけないんだから。次の宇宙船には私が乗る。私がオスカー隊長を連れてきてあげる」

「……今の隊長は、ベティさんですよ」

「私にとっては、今でも隊長だからね……」


 空を見上げて、二人はそう呟いた。

後からいろいろ加筆修正してしまってすみません。大筋は変わってないはずです。

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