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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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帝国

 マルステラ帝国。この世界唯一にして無二の国。強大な軍事力のもと、かつて世界に存在した各国の属国化を終え(・・)、以降は人類の領土拡大に努めている。俺が飛ばされたのはこの国の首都ベルガレス。


 首都ベルガレス。皇帝の居城を中心に家屋が並ぶ城塞都市。多角形型要塞。軍人が往来を行き交い、広い道路を戦車が進む。戦車が通ると普通の自動車は路肩に停車して道を譲っていた。


(……ていうか、せっかくの異世界転生(仮)なのに、なんだよこれ。前の世界もこの世界も科学が発展しすぎでしょ。普通に自動車が走ってるとか、魔法はどうした魔法は……)


 ベルガレスの街並みを移動しながら俺はつぶやく。道端には露店が広がり、商人が活気のいい声をあげている。


「何か言いました?」


 隣を歩くクリスくんが俺に尋ねる。


(んー。何でもないよ。夢も希望もないなーと思っただけ)

「えっ……あ。まあ、すでにお亡くなりになっているんですから、仕方ないんじゃないですかね」


 ちょっとだけ焦ったように彼は言う。

 違うよ。確かに俺はもう死んでいるけれど、自分の死を儚んで言ったんじゃないよ。だから、老人の死ぬ死ぬジョークを聞いたときみたいな反応はしないでくれ。


「でも、実際どうなんですか。身体を失ってなお意識があるというのは。考えようによっては、不老不死の存在ってことじゃないですかね」

(いやー、そんないいもんじゃないよ、この身体。一見すると疲れ知らずだし、不老不死でいいかもしれないけどさ、食べる歓びが味わえず、眠る安らぎも得られないのは本当に辛い)


 特に他人が美味しそうなもの頬張っているときなんかがヤバイ。


「う、なんかすいません。朝食まだで……」


 露店で売っていたハンバーガーみたいな料理を頬張る彼を凝視する。見慣れたものだけに、否が応にも味が再現される。ああ、あのジャンキーな味が懐かしい。


 テツジンの件があったから少しは慣れたと思ったけどこれはダメだ。一生慣れる気がしない。


(というか、ベンチにでも座ろうよ。さすがに歩きながらは行儀悪いよ)

「そうですね。じゃあ、あそこに座りましょうか」


 彼は河ベリに近づき、そこにあったベンチに腰掛ける。

 

 晴れた休日の正午に差し迫る時間帯。今日、俺とクリスくんはかねてより予定していた帝都の探検に出かけている。研究所の周囲をぐるっと周り、帝都の名所や目印となる場所を覚えて道に迷わないようにしようという試みだ。


 つまるところ、野郎二人でデートである。レイジーちゃんも連れて行こうと誘ったのだが、「できるとお思いですか」と真顔で言われた。冗談だったのに。


 帝都に流れる細い河のそばをカップルや家族連れが仲良さそうに歩いている。河の水はキレイとは言い切れないけど、別段汚くもない。小さな鳥が水面に漂っていた。


 クリスくんが食事をしているので、俺はボーっと空を見上げる。前の世界は常に曇っており、とうとう見ることのできなかった青い空。それがここでは簡単に見える。高い建物が少ないので、視界いっぱいに広がる深い青。


 ハンバーガーみたいな料理はあるし、道を歩く人々も元いた世界の人間そっくりだ。異世界特有のドラゴンの肉があるわけでも、エルフとかドワーフといった亜人がいるわけでもない。建物の様式も近代西洋といった感じだし、まるで俺の元いた世界のような風景だ。


(だけど、ここはやっぱり異世界なんだよな……)


 そう独り言をこぼす俺の視界には、昼間に現れる白い月が空に2つ(・・)浮かんでいた。クリスくんから聞いたこの月の名はディスメイとフェリル。小さいのがディスメイで、大きいのがフェリル。二つの月はやや歪な円形をしている。


「……ごくん。月、ですか?」

(おうよ。俺の元いた世界では1つしかなかったからな)

「そうなんですか。どうです? 2つの月は」

(お月見が大変そうだな)

「なんです? お月見って」


 そうか、知らないのか。俺は簡単にお月見について説明する。


「へー。月を見て楽しむ文化があるんですね。いいな。平和な世界なんだろうな」


 そう言って彼は年相応の笑顔を見せる。

 

(どうしてそう思うんだ?)

「だって、僕の世界では月が明るく輝く時期はみんな警戒していますから」


 警戒? そりゃまたどうして?


「外のモンスターたちが暴れるんですよ。だから、みんな襲撃に備えるんです」

(モンスター? 猛獣ってことか?)

「そうですね。元は家畜だったんですけど、逃げ出したものが野生化して凶暴になってしまって」

(そりゃあ大変だ。でも、この都市の中なら安全だろ。立派な城壁に囲まれているんだし)


 少し遠く目にやると、その城壁が見える。高さは20〜30mほどだろうか。それがこの都市をぐるっと囲っているらしい。猛獣ではこの壁は越えられないだろう。


 そう言うと、クリスくんは天を仰いで眉根を寄せる。


「悪霊さんってモンスター見たことありませんでしたっけ」

(ないよ。城壁の近くに寄ったことがあるくらいだ)

「じゃあ、今日はちょっと城壁の上に行きましょうか」

(お、モンスターが見えるのか?)

「ええ、多分見えると思いますよ」


 そう言ってクリスくんはハンバーガーの包み紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放る。見事、包み紙はゴミ箱に入った。傍の道を戦車が通る。クローラのワシャワシャとした駆動音が通り過ぎて行く。


「世界統一を終えた帝国が、なぜこんなにも軍事力を保有しているか、その理由をお見せしますよ」

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