セカンドミッション
第二章の始まりです。
(ミジンコ送りじゃねえか! ふざけんな! というか、なんだこのミッション。友達100人も意味分からなかったけど、こっちはこっちで意味が分からん。この二人が結ばれたからって、神様にどんなメリットがあるんだってばよ!)
「あー、悪霊さん怒ってます?」
怒らいでか! 説明責任を要求する!
「どうどーう。落ち着いてください」
これが落ち着いていられるか! 不慮の事故でもどちらか片方が死んでしまったらミッション失敗! 強制転生&ミジンコ生活! 食物連鎖の底辺も底辺。生き残れたとしても1ヶ月の寿命。意識なんかはないだろうから、俺の人生はそこでオシマイ! バッド・エンドまっしぐらだ!
「もう人生終わってるようなもんだから、別にいいじゃないですか」
うっさい! 他人事だと思って! チート能力与えられるからってほいほいミッションやってみたけど、こんなん詐欺だ! せめて、不慮の事故とかでは死なないようにして欲しい。あるいは、死んだとしても神様の能力で復活できるようにして欲しい。であれば、ミッション頑張ってみるのも吝かではない。あ、もしかして次の世界の住民も不死とか? そうなら頑張るよ。
「残念ながら寿命はありますね。悪霊さんの元いた世界のヒトたちと同じくらいの寿命です。ケガもすぐには回復しません」
それみたことか! 待遇改善を要求す!
「うーん、しょうがないですね。悪霊さんの気持ちも分からないではないですし……。ちょっと、上司に言って不慮の事故では死なないようにして貰いますね」
え、そんなことできるの?
「できますよ。神様ですもん」
そっか、さすが神様。
ん? いや、ちょっと待て。納得しかけたけど、そんなことできるなら二人をくっつけるくらい訳ないんじゃないの? そっちはできて、こっちはできないの?
「あー、えっと、そうなんですよね。微妙ですけど、こっちはできないんですよねー。それができたら楽だったんですけどねー。ははは。残念です」
むう、できることとできないことの境界が分からんな。
「まあ、操れる因果の量が違うとか、干渉できる事象の範囲が違うとでも思ってください。簡単な変更だとできるけど、複雑なのはできない、みたいな」
うーん、なるほど? よく分からんが、そういうもんだと納得するしかないか。異世界転移の方法だとか、俺の身体のことだとか、未だによく分からないことだらけだし、新しい謎が増えても今更な気がする。
「ご理解いただき誠に感謝いたします。それで、どうして二人をラブラブにしなきゃいけないかってことなんですけど……、すいません。詳細は私もよく分かってないです」
またそれか。
「でも、上司がその理由に関してボソッと呟いているのは聞きました」
(何て言ってたんです?)
「曰く、『このミッションが失敗に終わったら、この世界はヤバイな』だそうです。ですので、重要なミッションであることは間違いありません」
ひとつのカップル崩壊で世界がヤバイとか、どういうことだってばよ。さっぱり意味が分からないってばよ。
(というか、そんなに重要なミッションなら俺に任せないで欲しいんだけど。もっと応援とか応援とか応援とか呼んでさ、グランじゃないけど、ひとつの部屋に二人を10年位閉じ込めておこうよ。それで世界は救われるよ)
「すみません、それはできないんです……」
しゅんとなる死神さん。
話を聞いてみると、応援を呼んでダイレクトに干渉すると制限範囲を超えるそうな。
(で、その範囲を越えないために俺がミッションを行うと、そういうことです?)
「そうです。すみませんがお願いできませんか?」
うるうると上目遣いになってお願いする死神さん。これはあざとい。それに、お願いといっても実質断ったりはできないんでしょ? だってミジンコになっちゃうんだもん。
「いえ、そんなことはありませんよ。ここでリタイアしても構いません」
(え? 本当に?)
「はい。ただ、転生とチート能力は与えられませんし、その身体のまま次の世界で放置となります。それでもよろしいですか?」
いや、それは嫌だ。そういえば、前の世界でもミッション断ったら放置だったな。そういうポリシーなのかも。でも、ミッション失敗はミジンコで、ミッション不参加は放置とか、待遇に差がありすぎでは?
「あ、いや、ミッション失敗でも実際は放置なんですよ。ただ次の世界はミッション失敗したらヤバイらしいんで、もしも世界が崩壊して悪霊さんも原型を保てなくなったら自動的に転生されちゃうんです。で、悪霊さんの転生先はミジンコに決まってるので実質ミジンコと同じってだけです。あ、もちろん私達のことを漏らしてら即ミジンコ転生ですね。早いか遅いかってだけです」
なんということだ。俺の転生先はすでに決まってしまっていたのか。
「ですです。その隙間にちょーとお邪魔して、ミッション達成できたらご褒美に次の転生を選ばせてあげますーっていう、そんな感じです」
なるほど。つまり、このミッションは死神さんたちの温情であったのか。それなのに俺ときたら死神さんに怒鳴ってしまって非常に申し訳ない……。
「いえいえ、お気になさらず。悪霊さんの気持ちもわかりますので」
そう言って、優しい笑顔を見せる死神さん。
なんて素敵な笑顔なんだ。死神さんが天使に見える。死神なのに。
「いやー、天使だなんて、照れちゃますねー/// 煽てたって何も出ませんからねー」
恥ずかしそうに笑う死神さん。
「さて、いろいろありましたが、ミッションには参加していただけるということで、よろしいですね?」
(そうだね。頑張ってみるよ)
「はい、ありがとうございます。それではミッションの詳細についてもう少し説明しましょう。今回のミッションは指定したお二人が結ばれればミッション達成です。ただ、それだけだといつどのタイミングでミッションが達成されたかよく分からないので、達成条件を決めました!」
(達成条件?)
「はい。ずばり、キス100回です!」
キス100回。キス100回したらふたりが結ばれたと判定すると。
「あ、もちろん双方の愛がこもってないとダメですよ。眠った状態で無理やり唇を奪ってもカウントされません」
なるほど。ディオ様みたいのはノーカンということか。
「あと、カウントするのは1日1回までですね。なので、最低100日はかかります」
ふむ。その場のノリで燃え上がって100回キスするだけじゃダメってことね。割と厳しい。
(決めたって、死神さんが決めたの?)
「はい。頑張って決めました。えっと、ダメですかね?」
うーん。正直何とも言えない。元の世界で結婚していたわけじゃないし、キスも指で数えられるほどしかしてない。ラブラブキス100回は基準としてどうなのだろう。……まーでも100回もキスしていれば結ばれているって判断していいのかな。
(よく分からないし、良いんじゃないですかね)
「では、それでいきましょう」
というわけで、次のミッションの達成条件が決まった。
「あと注意事項としては、……そうですね。悪霊さんに取っては三つ目の世界だと思うんですけど、前の世界の人物と同じ魂を持った人と出会うかもしれないので注意してくださいね」
(前の世界の人物と、同じ魂?)
「そうです。姿、形、魂は同じでも、悪霊さんの思う人物とは"同じ"ではありませんのでご注意ください。そっくりさんとか双子とでも思って下さいね。話しかけても悪霊さんのことは知らないはずです」
なるほど。ツ○サ理論か。了解した。
「そろそろ次の世界への移動が完了しそうですね。では最後に、くっついてもらう予定のお二人を悪霊さんに教えておきます。この二人がターゲットです」
死神さんはごそごそと二枚の顔写真を取り出した。
「男性の名前はクリストファー・レイネット。女性の名前はグレージーです。女性の方に姓はありません」
(姓名のある文化なんですね。男性がこちらの青年で、女性の方はーーん?)
男性の方は見覚えのない顔。ちょっと年若く、かっこいいというより可愛いという言葉が似合う容姿である。髪は黒髪でややウェーブがかかっている。どこぞのお坊っちゃんという感じだ。
一方、女性の方。こちらも若い。年頃は大人の女性と少女のちょうど中間といったところだろうか。髪は長い黒髪である。
そして、俺はこの女性の顔に見覚えがあった。忘れるわけもない。なんせ、ついさっきまで会話していた相手だ。写真に映るその女性の顔立ちはーー。
(ヒメちゃん?)
彼女にとてもよく似ていた。
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