悪霊さんの知らない話
常に曇天に覆われた、緑の大地の世界。
外界から隔離されたこの世界では、極少数の支配種たるニンゲンが、ときに笑い、ときに泣き、その多くが健やかに生涯を全うしていた。
いつまでもいつまでも、その生活が続くと思えた。
いつまでもいつまでも、この世界は終わらないと思えた。
けれど、何事にも必ず終わりは来る。
この外部から閉ざされた世界は一種の鎖国。
それを打ち破る黒船が、宇宙より現れた。
稀人の訪れは変化の兆し。
この「働かなくてもいい世界」は終わりを迎えようとしている。
祝砲を鳴らすがごとく曇天を割り、宇宙より現れた鉄船。
ここ数千年訪れなかった事態に、パニックになるかと思われた住人は、
しかし、慌てること無く、ぼーっとしたような目つきで、その鉄船が降り立った場所に集まっていた。
まるで、稀人が訪れることを知っていたような落ち着きよう。
稀人を出迎えるような彼らの態度に、驚いたのはむしろ稀人たち本人であった。
歓待され、饗され、旅の疲れを癒やす稀人たち。
彼らは喜んで自らの話をする。
嬉々として、自らの陣営の情報を漏らす。
それが、どんな意味を持つかも分からないままーー。
この、退屈に塗れた世界は終わる。
稀人は引き金。
壊されるは、世界。
世界の終わりは世界の始まり。
さあ、新たな世界の物語を、始めましょう。




