20人目
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前話のあらすじ。
シズさんが あらわれた!
裸のお姉さんが あらわれた!
どうする?
たたかう
さくせん
ぼうじょ
▶にげる
(みんな。この家はやめよう。もっと離れた家にしようぜ)
悪霊はにげだした!
「あら、なんで逃げるのかしら?」
しかし まわりこまれてしまった!
「どうも、シズさんお久しぶりです」
「シズ氏。なかなか面白い格好をしていますな。どういった趣向で?」
ためらいもなく|<十闘士>《へんたい》に挨拶するセミルとマッド。君たち、耐性強くない?
「大陸中央の例のムラではこんなの日常茶飯事よ」
「うむ。裸など見慣れておるわ」
経験値が違っていたか。しかし、ノーコちゃんとヒメちゃんは違うだろう。早くこの二人から遠ざけねば変態が感染ってしまう!
(ヒメちゃん、ちょっとこっちに行こ……)
「あははー、シズさん! お外で裸でどうしたのー? 水浴びしてたのー?」
笑いながらシズさんに近づくヒメちゃん。幼い故の純粋さからシズさんの絵面がおかしいことに気づいていない。
「うふふ。違うわよ、ヒメちゃん。水浴びじゃないけどね、とっても楽しいことをしていたのよ」
「えー! 教えて教えて!」
(ヒメちゃん、あっちにね、面白そうなものが……)
「あっくんはちょっと黙っててー!」
くそう、シズさんに興味津々でヒメちゃんは俺の言うことを聞いてくれない。
「そうねー。じゃあ、ヒメちゃんが私に乗ってくれたら教えてあげるわ」
「本当? 乗っていいの?」
シズさんは姿勢を変えて背中に乗るように促し、ヒメちゃんは嬉々としてシズさんに跨る。
変態に跨る幼女が完成した。
「リードを引っ張った方向に進むから、自由に操作してみて」
「はーい!」
ヒメちゃんは元気よく返事をして、リードを操る。なかなかぎこちないリード裁きだったが、馬が高性能であるためかなりのスピードであたりを駆け巡る。
「わー、すごいすごーい」
「振り落とされないよう注意してね」
楽しそうにあたりを駆け巡る幼女と変態。それを微笑ましそうに見つめるマッドとセミルと裸のお姉さん。
「私も乗ってみたいな……」
隣の居たノーコちゃんは羨ましそうな表情をしていた。
世界が平和で素晴らしいと、俺は思った。
それからなんやかんやあって、彼女の家で食事をしつつ、お話をしようということになった。俺はやんわりと断ろうとしたのだが、他のみんなが同意したのでひとりで逃げ出すわけにも行かなくなった。ただ、素っ裸の二人には服を着てもらうことを約束してもらった。流石にあの絵面がこれ以上続くのは精神的にしんどい。ずっとモザイク画面で隠すわけには行かないのだ。
シズさんと一緒に居た女性はクリスタと名乗った。彼女はシズさんの友人で、ときどき彼女と遊んでいるのだという。裸で外を出歩くのが趣味だそうな。さすがシズさんと友人なだけはある。
さっきクリスタを見たときは気づかなかったが、俺は彼女に会ったことがある。最初にこのムラを訪れたときに道を歩いていた裸の姉さんが彼女であった。「そんなヒト、このムラには私しかいない」と彼女も言っていたので間違いない。シズさんのインパクトが強すぎてなかなかクリスタの存在にまで気が回らず、部屋に入ってよくよく見てみて彼女だと気づいたのだ。
驚いたことに、彼女は俺の言葉が聞こえていた。前会った時は話しかけても全然反応が無く心が折れたのにどうしてだろうと思ったのだが、その疑問はあっけなく氷解した。彼女、裸で外に出るときはイヤホンを付けているらしい。耳まで覆われた髪でイヤホンが隠されていたため気が付かなかったのだ。「どんなのか聞く?」と尋ねられたが、非常に嫌な予感がしたので全力で遠慮させて頂いた。残念そうな顔で引き下がった彼女だが、「すっごい気持ちいいのになー」とボソリと呟いてた。イヤホンからは何かが叩かれるような音がしていたが、きっと太鼓か何かだろう。
クリスタとシズさんに俺たちが出会ったとき、彼女らは遊びの真っ最中だったそうだ。「楽しい遊びだね!」とヒメちゃんは無邪気に笑っていた。これ以上興味を持たないと良いのだが。なお、ノーコちゃんは何故か持っていたムチを使用して馬を乗り回していた。シズさんはすごく喜んでおり、ヒメちゃんのときより馬力が上がっていたと思う。
「でも、ただ遊んでいただけじゃないのよ。私が外で裸で四つん這いになっていたのはちゃんとした理由があるの」
お菓子をつまみながらシズさんは言う。
(そんなものにちゃんとした理由があってたまるか。アホか)
「あら? 悪霊さん。コロシアムで会った時は敬語だったのに、再会してからはとてもフレンドリーね。どういった心境の変化かしら?」
(なんかシズさん相手だったら敬意とかなくてもいいかなって。嫌でした?)
「ううん、そんなことないわ。でももうちょっと責めの気持ちがあってもいいわね。そうしたら私、もっとあなたのことが好きになれそう」
あれ? なんでだろう。嫌な気持ちになってきた。
「ねえ、もう服脱いじゃダメ? ゴワゴワして嫌なんだけど」
クリスタは服をパタパタ煽っている。
(ダメ。さっき約束したでしょ。裸は一日一時間って)
「いや、そんな約束してないから。むしろ私、服は一日一時間ってレベルだから」
なぜそんなにも裸になりたがるのか。常識というものがないのか。
「え、むしろ逆でしょ。何でみんな裸にならないの? 産まれたときはみんな裸だったんだよ? つまり、服は自然とは反する人工の象徴。不自然の産物。余計な物。不純物。そんなものを好んで身につけるほうが非常識極まりないと思うけどね」
むむむ。
俺とクリスタが睨み合いをしていると「話を戻すけど」とシズさんが割り込んできた。
「私が外で裸で四つん這いになってたちゃんとした理由。それはね、身体の感度を上げるためなの」
その理由にはちゃんとしている部分が一つもないと思う。
「シズ、それだと貴方が変態ということ以外何も伝わらないわ」
周りの雰囲気を察したクリスタが言う。
「そう? おかしいわね。いや、おかしくはないのだけれど」
うーん、と悩むシズさん。
「……ね、あなた達、パイルが今どこに居るか知ってる?」
パイルさん? パイルさんってバイダルさんの弟子で、グレンさんに告白された?
(急に話が飛んだな)
「ごめんね。でもこれと私の感度は関係ある話なの」
(あってたまるか)
「お願い、信じてー」
彼女の言葉に今度は俺たちがうーんと唸る。
「まあ、それは話が進めば分かるでしょ。で、パイルの居場所ですか? 知らないですけど」
「パイル氏がどうかしたのですか?」
「コロシアムのムラを出てからは会ってないですね」
「パイルちゃんがどうしたの?」
みんなの反応を聞いてため息をつくシズさん。
「それがどうもあの子、行方不明なの」
「え? 行方不明? パイルが? あの子、確か恋について知人に訊くと言っていたけど……」
「そうらしいわね」
「グレンとメッセージのやり取りをしているはずでは?」
「それが、そのメッセージが途絶えちゃって。何とか私に探して貰えないかって、グランさんからお願いされたのよ」
(お願いされたって、何でまたシズさんに?)
「あれ? 言ってなかったかしら? 私、髪の毛を『変化』させて辺り一帯の探知ができるの。失せ物探しは得意なんだからー」
あー、そういえばコロシアムで会った時、そんなことを言ってた気がする。俺が探知にかからないとか何とか。
「で、その探知の感度を上げるためには、裸になって四つん這いになるのがいいの」
(なるほど、それでそんな変態的な格好をしていたと)
「ええ!」
ドヤ顔で頷くシズさん。
(……本当に、そんなんで探知の感度が上がるんですか? 非常に胡散臭いんですけど)
「えー、本当よー。でもこの方法だと、途中から気持ちよくなっちゃって探知とかどうでも良くなっちゃうのが玉に瑕なのよね。ちょっとならいいんだけど、ちょっとなら」
あ、そうですか。俺、ノーマルなんで変態の言葉はよくわかんねっす。
「肌の感覚を鋭敏にすることで探知能力を上げるのか。理に適っていると言えなくもない」
(え、マジで?)
「うむ。マジだ」
真面目な顔で頷くマッド。マッドがそう言うならそうかもしれない。
そして、ドヤ顔に拍車がかかるシズさん。なんだろう、無性に腹立つ。
「何はともあれ、それでパイル氏を探しているのだな」
「そうね。告白の返事の期限までもう少しだし、それまでに見つけないとね」
そういえばそろそろだったか。確かに返事の内容は気になるな。
「でもなかなか見つからなくてねー。とりあえず、移動しては探知を繰り返していたんだけど、一回も彼女を見つけられていないの。彼女の知人というヒトも尋ねてみたのだけれど、来てないか入れ違いで、なかなかタイミング遭わなくって。もう疲れちゃったわ」
はーとため息をつくシズさん。<十闘士>である彼女を疲れさせるなんて、パイルさんすごい。
「あのー」
おずおずと手を上げるノーコちゃん。
「どうした、ノーコ」
「パイルさん、見つけました」
あっさりと彼女は言い放ち、自分の端末をノーコちゃんは指差す。
彼女は会話の途中から端末に目を落としていた。俺が話の輪に居るから、なかなか話に入れなくて仕方なく端末を操作していると思っていたのだが、実はそうではなくパイルさんを探して居たらしい。
「マダムにメッセージを送ったら、『今、屋敷に来ているよ』と返ってきました。マダムのムラにパイルさんは居るようです」
悪「あの格好の理由はわかったけど、首輪とリードは必要ないよな」
シ「何事にも雰囲気作りは大切だからね」
悪「俺、ノーマルなんで変態の言葉は(略」




