マッドのムラ
BM登録ありがとうございます。
翌日、俺達はムラの中央の建物を歩いていた。このムラ周辺の妖精さん出現ポイントはすべて周ったので、午前中にもう少しだけ見学して午後には次のムラに行く予定だ。この建物の一部は倉庫兼展示スペースになっていて、そこで探究家達の成果を公開しているのだ。
(へー、これは面白いな……)
俺が興味を持ったのは端末を分解して部品を公開しているスペースだ。何がどんな効果を持つのか未だに解明はされていないが、その仮説が書かれた冊子が置いてあったのだ。一部抜粋してセミルに読んでもらうと、なかなかに納得させられる仮説ばかりだ。俺の世界の通信システムに通じるものもある。
他には過去の文明の遺物らしきものが展示されていた。こっちは形も用途もチンプンカンプンだ。流線型をしているので人工物だと思われるが、武器かもしれないし、工具かもしれない、祭具かもしれないといった「かもしれない」がパネルに羅列されている。要は何も分かっていないということだ。
ライゼ達の部屋を訪れると、彼らは何人かでワイワイ作業している。収集物を整理したり、地下施設の見取り図を作成しているようだ。昨日のように慌ただしい雰囲気はなかったので声をかけてみる。
「やあ、みんな。地下施設のことなんだけどね、多分あれは避難所だよ。倉庫と大人数が泊まれる収容スペースが見つかった。窓がないからもともと地下用に設計されたものだね。それだけの人数が収容できそうな道具は揃っているのに、個人の部屋というものが殆ど無い。一時的に大人数を収容させるためだけの施設と思って間違いないだろう」
開口一番ライゼはそうまくしたてる。目がランランとしていて、この発見を誰かに話したいと思っている顔だ。
「避難所って、何から避難するんだ?」
「さあ、それは分からない。不死であっても避難しなければならなかったのか、あるいは当時の住民は悪霊さんのように不死では無かったのか。うん、そうだとすると取寄せ品の中に食料品が多いのも頷ける」
「他にミイラは無かったの?」
「残念ながら無かったね。建物も比較的綺麗だったし、使用されないまま放置されたものを発見した可能性が高い」
「じゃあ、あのミイラは何だったんだろう」
「そうなんだよね。模造品とも思えないし、本当に誰かの腕だったとするとポツンとひとつだけあったことは違和感しかない。普通、あんなのが転がってたら放置なんてしないし、生存していたなら本人が片付けるでしょ。ということは本人も死亡しているはずだけど、その本人のミイラは施設には無かった。あのミイラが謎なんだよねー。スッキリしない」
うーんとライゼは腕を組んで唸る。
「ま、これについてはまだ調査中だからね。なんとも言えないや。今頃、ディエス爺が頑張ってくれているはず」
静かだと思ったらディエスは地下施設か。昨日の別れ際に「こうしちゃおれん!」と地下施設にすっ飛んでいったから、夜通し作業しているようだ。まったくもって元気なジジイだ。マダムといいジジという、この世界のジジババは体力が有り余っているらしい。
「そっか。めぼしいところも見たし、午後には次のムラへ行こうと思うんだ」
「分かった。道中、何か情報があったら教えてくれよ。今まで『セカイヲメグレ』なんて妖精さんが伝えた記録は残ってないから、絶対に何かが起こると思うんだ。地下施設の発見が無ければ、僕も同行したかったんだけどね」
はははとライゼは笑う。
「りょーかい。それじゃ、またね」
「またね。旅の幸運を」
ライゼや昨日お世話になったヒト達と挨拶を交わし、俺達は科学のムラを出た。
次のムラへの道中、運転するセミルにマッドが話しかける。
「すまんが、次のムラへ行く前にちょっと寄り道してもいいか」
「寄り道って?」
「ああ。この辺りに俺の根城があってな。ノーコの頭を元通りにしてやりたいのだ」
「えー、可愛いからこのままでいいじゃん」
「何を言う。このままでは可愛そうだろう」
セミルの欲求にマッドが反論する。個人的にはセミルに賛成だが、当のノーコちゃんは「博士、ありがとうございます」と感謝していたので、結局セミルが折れた。俺達のジープは途中で進路を変え、別の道を進み始める。
「……ん? こんなところに分かれ道なんてあったっけ?」
(いや、俺は知らんが……)
運転するセミルの呟きを聞いたのは俺一人で、他のみんなはカードゲームに興じていた。
「ここだ」
「ここって……」
(まじか……)
マッドの道案内によって辿り着いたのは、マダム屋敷にも引けを取らない大きな建物。しかもよく分からない様々な装飾が施されていて、見るものすべてを威圧するといった感じだ。まるでどこぞの宗教団体を彷彿とさせる光景である。
「みんな、こっそりだからな。こっそり。裏から行くぞ」
「っていうか、こんなところにムラなんてあったの? 知らなかった」
「し! それも後で説明するから」
マッドの指示でジープは別の場所に置いてあり、そこから徒歩で向かってきたのだ。曰く「私が帰ったと知れ渡ると面倒くさいことになる」らしい。そのため騒音の出る車ではなく徒歩でここまで来たのだ。理由は後で説明するから静かにと指示された俺達は、黙ってマッドの後に続く。
そして、マッドが裏門の扉を開けた途端、鈴の音、風鈴、鳴子など、様々な楽器がけたたましく音を鳴らす。
「しまった! 読まれていたか!」
俺達の努力を無視するようにやかましく騒ぎ立てる楽器達。その音は糸を介してムラの隅々まで響き渡る。音を聞きつけたムラビト達が次々と家から出てきて、俺達は彼らに取り囲まれる。
老若男女のムラビト達。彼らのうち何人かは銃を持っている。睨みつけるように俺達を取り囲む連中。
ピンチかと思った束の間、マッドがいることを確認した途端に彼らは土下座を始めた。
「教祖様!」
「マッド様!」
「マッド様のお帰りだ!」
「ああ、マッド様! 早く、次の命令をお願いいたしますぅ!」
「夢か!? いや、夢じゃない! うおおおおおお!」
彼らは口々に歓声を上げ、祝砲のように空へ銃を打ち鳴らす。その後もムラビトは増えづつけ、いつしか100人くらいの群衆に俺達は取り囲まれていた。




