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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
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異世界転生(仮)

 二人はセミルとユリカと名乗った。長身のほうがセミルで、小柄のほうがユリカ。名字の風習はないとのこと。


 妖精さんというのは、極稀に聞こえてくる姿の見えない声の主の呼び名で、ときどき現れては適当な警句を告げて、すぐにその声は聞こえなくなるという。別に声の言う通りにする必要はないが、従っておいたほうが得となることが多いらしい。ちなみに二人共まだ妖精さんに出会ったことはなく、これらの知識はすべてまた聞きのようだ。


「……というわけで、あなたと妖精さんは別物よ。ただ、似ている部分がないこともないし、こちらも視えた試しがないから『悪霊さん』と呼ぶことにするわ」

「私もー。名付け親だしね」


 セミルとユリカはそう言ってケラケラと笑う。ちゃんと俺の名前を教えたのだが、どうあってもその名前で呼ぶ気はないようだ。悪気があるわけではなく、単に俺のことをからかっているらしい。


 彼女たちとの会話で、俺は幾つかこの世界について知った。まず、この世界は死後の世界ではないとのこと。


 二人共「死後の世界?ナニソレ」みたいな対応で、嘘をついているようには見えなかった。また、元いた世界とは別物のようだ。地図や文字がまったく違うし、1年は300日程度で、彼らも見た目は人間にそっくりだが、寿命は基本的にないのだという。


(寿命がないってどういうこと?)

「どういうも何も、そのままよ。文字通りの意味。逆にこちらからすると、寿命?というものがよく分からないわね。初耳だし。ある時間が来たら、急に死ぬの?」

(急にというか、徐々に体が弱っていって、力が入らなくなって、動けなくなって、何も考えられなくなって、死ぬ、のかな。寿命で死んだこと無いからよくわからないや)

「ふーん」


 というわけで、俺が思う人間と、彼女らの思うニンゲンとでは意味合いが随分と違うようだ。彼女らに寿命がないのは、この世界は実は死後の世界で、彼女らは自分が死んだことに気づかない幽霊だからなのではと思ったが、寿命というものがないだけで不死というわけでなく、死ぬことは普通にあるらしい。

 

 文字を見せてもらったが、まったく読めなかった。少なくとも平易な換字式暗号とも違う。セミルと話ができるのは、どうやら翻訳コ○ニャク的なご都合主義が発生しているからか、あるいは、音を介さない念話的コミュニケーションだからであろう。どちらにせよ、正直俺にとってはすごくありがたかった。もし、コミュニケーションできなかったとしたら、ただただ不快な音をセミルが聞くことになり、本当の意味で悪霊となるところだった。丸三日、人と話せないだけでおパンツおパンツ連呼するほど理性が崩壊するとは思わなかったぜ。


 ちなみに、セミルに何か伝えたいときは、いつもよりハッキリと明確に考えれば勝手に伝わるらしい。大きな声で黙読する感じ。ただ、絵的なイメージはどれだけハッキリ思い浮かべても伝わらなかった。セミルからすると、うんうん唸っている気持ち悪い声だけが伝わってきたそうだ。


 あと、ユリカの方にはまったく伝わらないようで、俺はセミルを介して彼女とコミュニケーションしていた。これと同じことは妖精さんでも起きるらしく、同じ場所に多くのニンゲンがいたにもかかわらず、ひとりだけしか声が聞こえないこともあったらしい。波長の合う合わないがあるんだと。


(聞いた話をまとめるとだ。俺は異世界に来たらしいが、なぜかこちらの世界の妖精さんと同じような存在になっていた。妖精さんの意識だけが俺になったイメージだな。体もないし、異世界転生……とはちょっと言わないな。異世界転生(仮)といったところか。それで、残念ながら他に『悪霊さん』みたいな存在はいないと)

「そうだね。流暢に喋る妖精さんなんて聞いたこともない。他の人ならもしかしたら知ってるかもだけど……」

(んー、じゃあ他の人に訊いてみるかな。誰か物知りな人、知らないか?)

「物知りな人? うーん、何人か知ってるけど……」

「……できればその人とも悪霊さんが直接話せたほうがいいよね」


 ユリカはセミルの顔と見て、苦笑いしながら言う。確かに俺の声が聞こえないユリカ視点では、ずっとセミルひとりで見えない何かと会話?しているような状況だ。妖精さんという不可思議存在が浸透しているとはいえ、頭がおかしくなったと思われてもおかしくない。


「……仕方ない。気乗りしないけど、あの人のところに行こうかな。何回か、妖精さんとも話したことあるって言ってたし」


 ハアとため息をついて、セミルは立ち上がった。


(あの人?)

「うん、あんまり会いたくないけれど、仕方ないね。あ、こら逃げるなユリカ。一緒に行くよ!」

「えー、私あの人ちょっと苦手なんだけど……」


 こっそりと部屋から抜け出そうとしていたユリカの首根っこをセミルは捕まえる。


「私だって苦手だけど、仕方ないわ。行くわよ、マダムのところに」

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