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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
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セミルの過去と

「……まあ、大丈夫であるなら別にいいがの。ちょいと、ユリカの部屋に入らせてもらってもいいかい? 好きなものがあったら持っていっていいって言われとるでな」


 マダムは気を取り直して来訪の目的を伝える。


「いいけど、部屋汚いよ?」

「なぁに、それくらいは気にせんよ……って何じゃこりゃ! ここがユリカの部屋!? え、本当に? 物置かゴミ捨て場かと思うたわい!」

(おー、驚くマダムは初めて見るな)

「私は久しぶりに見た」

「はあー、どこに何があるか分かりゃしないね。仕方ない。あそこの目立つマネキンを貰っていこうかね」


 そう呟いたマダムの姿が一瞬ぶれた。気がついたときには両腕にマネキンを抱えて、部屋の前に立っていた。


(え、もう取ってきたのか? そのマネキン、部屋の奥にあったぞ? 道のりには数多の障害があったはずだ)

「私にとっては造作ないさね。さて、この子らは屋敷の装飾にでも使うとするかね」

「その2体は、ゼウスくんとヘカトンくんだね」

「名前があるのかい?」

「ユリカがそう呼んでただけ」

「そうかい。それじゃこの子らを頂いていくよ。セミル、またお菓子を作った日には呼ぶからね。悪霊さん、しばらくセミルのこと頼んだよ」

(任された)

「みんな、私のこと子供扱いしすぎじゃない?」

「あんたにゃ前科があるからね。みんな心配してんだよ」

「はぁい、それくらい分かってますー」


 それじゃあね、とマダムは帰っていった。


(セミル。前科って何のことだ?)

「ん? 大した話じゃないんだけど……」


 と、そこでまた来客を知らせるチャイムが鳴る。


「あー、まだ来そうだね。この話は長くなりそうだから、また今度でいい?」

(構わないぞ。それにしても本当に多いな。)

「ね。こんなに忙しくなるとは思わなかった」


 ちょっとだけ笑みを浮かべてセミルは言う。恐らく自分の死後にセミルが寂しくならないよう、ユリカがメッセージで「部屋のものを持っていっていい」と知り合いに伝えたのだろうな。まったく、本当に優しいやつだよ、ユリカは。


「はいはい、今いくよー」とセミルは玄関に向かっていった。



 一週間くらいで来客は落ち着いた。多くの人がユリカ部屋の惨状を見て驚き、なんとか物色して適当な物を持ち帰っていった。しかし部屋の物はあまり減ったように見えず、ヒトが入り乱れたので密林が魔境に戻ってしまった。シーアくんの働きは無駄となってしまったか。


「この部屋は開かずの間としよう」

(そうだな)


 満場一致でユリカ部屋の封印は決まった。


「さて、今日は絵を描きに外出するのだけど、悪霊さんも来る?」

(やることもないしな。行くぞい)

「そっか」

(それで、どこに行くんだ?)

「んーとね。ユリカの死んだとこ」


 イーゼルなどの荷物を携えて彼女は答えた。


 

 ユリカの死んだ場所の様子はあまり変わっていなかった。モモモの仲間は見えないが、捨てられたジープはそのままで、彼女が死んだ痕跡は何も残っていない。何も知らないヒトがここに訪れたとしても、ただジープのある草原にしか見えないだろう。


 セミルは適当に場所を決め、イーゼルを据えイスを置いて絵を描き始める。キャンバスに油絵具を淡々と置いていく。


(なあ、どうしてここを描こうと思ったんだ?)

「んー? んー……。特に理由はないけど、ここを描いてみたいなって思ったんだ。最後にユリカが居た場所だしね……」

(そっか)


 しばらく風の音と、椅子が地面を削る音しかしなかった。


(モモモの仲間のあいつはいないな……)

「いつも同じ場所に留まっているわけじゃないからねー」

(前にあいつらを『世界とつながる扉』って呼んでたろ? あれってどういう意味なんだ?)

「んー? んーとね。昔からヒトが死ぬと、モモモの仲間がどこからともなくやってきて、死体をヒト呑みにしてたんだ。大事なヒトの死体であっても、そのまま持っててもいつかは崩れちゃうし、それならまあいいかなと多くのヒトが思ってたんだけど、あるとき呑み込まれた後で気が変わって死体を取り戻したくなったヒトが居てね。じっと動かない彼らを解体しようとしたんだ」

(まあ気持ちは分からんでもないな。それで?)

「それでね、頑張ったんだけど解体はできなかったんだ。刃物を立てても傷つかず、銃弾も弾かれるしでどうしようかと悩んだそのヒトは、ムキになって大量の爆弾で吹っ飛ばしたんだ」

(おいおい。それだと呑み込まれた死体までバラバラになっちゃうだろ。本末転倒じゃないか?)

「譬えバラバラになったとしても取り返したかったんだと思うよ。たぶんね」


 そういう考え方もあるか。


「それでね。そのヒトの思惑通り、彼らはバラバラになって吹っ飛んだんだけど、そこには彼らの身体の一部と思しきもの以外には、死体どころかその欠片すら残っていなかったんだ」

(もう消化されて吸収されちゃったってことか)

「ううん。それが、そうじゃないみたいなんだ。死体は無かったのだけど、彼らが居たその場所に最初は存在しなかった穴が空いてたんだ」

(穴?)

「そう。ヒト一人がなんとか入れそうな大きさの穴が、そこにはできていた」

(ならもしかすると死体はその穴を通って……)

「そう。どこかに送られたと推測できる。その穴も、すぐに塞がってしまったので、それがどこに続いているかは未だに謎なんだ。そのあたり一帯を掘り下げても穴の続きは見つけられなかったし、その謎も含めてライゼ達は世界の仕組みを探っている」

(だから、『世界につながる扉』か)

「そういうこと」


 うーん。相変わらずこの世界は謎だらけだな。取寄せのインフラや死体やゴミ回収のためのモモモ達。以前にゴミを食べているモモモを見て、そういう風に進化した生物と思っていたが、実はそうではないのかもしれない。彼らは取り込んだ物をどこかへ送るために道を開く機械。彼らが開いた道を通り、収集物はある場所へと送られる。ゴミが送られる場所は決まっている。ごみ焼却施設だ。となると、死体が送られる場所は……。


(もしかすると、ユリカの身体はもう、この世界に存在しないのかもしれないのか)

「……残念だけど、そうだね」

(……)

「でも、彼女が生きた証はちゃんとこの世界に残ってる。だから、そう悲しむことはないよ、悪霊さん」


 自分が着ている服を示してセミルは言う。


(俺が悲しんでるって分かったのか?)

「もう結構付き合い長いからね。なんとなく」

(そっか。ありがとな)

「気にすんな」


 にししと彼女は笑う。むう、参ったな。俺が心配されてどうする。話題を変えよう。


(そういえば、以前にマダムが言ってた前科って何のことだ?)

「あ、覚えてたんだ。あー。あんまり面白い話じゃないよ?」

(言いたくない話か? なら、無理に話さなくてもいいが)

「昔のことだし、そうじゃないけど……。うーん、まあいいか。本当に面白くもなんともないから手短に話すね。これはね、私が昔に死にかけた話なんだ」


 昔、私がまだユリカと出会う前、私は恋人と暮らしてた。もう十数年は暮らしたかな……、え、恋人の性別? 男だけど。それが何か? ……何でもないと。あ、そう。それでね、長くなるから端折るけど、紆余曲折ありまして、私に何も言わずにその恋人が自死したんだ。特に何の前触れもなかった。ふっと居なくなって、なかなか戻って来なくて、呼びに行ったら自死してた。まだ死体は残っててね。笑顔で恋人は死んでたんだ。


 どうして死んだのかは分からない。そういった予兆も一切なかった。一切なかったと、思う。けれどもし、私のせいで自死したのだとしたら。私の選択が彼を自死に追いやったとしたら。そんな不安が頭から離れなくて、ずっと同じことばかり考えてた。彼が居なくなってからも、私は彼と一緒に過ごした家で生活しててね。それからの暮らしはどうしても、楽しめなかった。以前は楽しめたものが、心の底から楽しめなくなってしまった。マダムも含めて何人かが様子を見に来てくれたけど、表面だけ取り繕って過ごしてたな。


 そんなある日、とうとう限界が来てね。これ以上生きててもしょうがないと思って、私も死のうと思った。どうせなら彼が自死した場所で私も死のうと思って、その場所まで行ったんだ。そこで、最初に来たときは気づかなかったモノを見つけた。岩場に影に置いてあって、モモモ達にも呑まれなかったそれは、誰かが捨てた一枚の絵だった。


 お世辞にも上手いとは言えなかったな。これなら私のほうが上手いとすら思ったっけ。でも、どこか愛嬌があって惹かれるものがあってね。何でだろうね。気がついたらずっとその絵を観てた。いつの間にか、その岩場で寝入っちゃったみたいでさ、起こされたときにはマダムが目の前に居た。私の居ないことに気づいたマダムが探しに来てたみたい。その後はまあ、こっぴどく怒られたっけなぁ。その頃にはもう、死のうと思ってなかったんだけどね。


「それからしばらくマダム屋敷に軟禁されて……と、この話はいいか。とりあえず、それが私の『前科』だよ。面白くもなんともなかったでしょ。はい、この話はお終いー」


 そう言ってセミルは一方的に話を打ち切った。


(なるほどな。それが、セミルが絵を描き始めたきっかけか?)

「そうだね。最初の絵はその恋人が死んだ場所の風景。それから色々な物を描いて、色々な風景を残して……。今もまたこうして筆を動かしてる」

(自死する気は?)

「さらさら無いね」


 よどみ無く動く筆のように彼女は答える。うん、これなら彼女は大丈夫だろう。この場所に絵を描き来れた時点で、心の整理はついていたようだ。


 彼女の後ろから、キャンバスを覗き見る。最初にセミルと会った時と同じ構図だ。以前はここから彼女の胸元が見えたが、今日はインナーでないため谷間は見えない。至極残念である。



「はー、お姉ちゃん絵がうまいねー」

(ん?)

「お?」


 セミルの脇の下からキャンバスを覗き込む小柄な体が見えた。少女のようである。


「ありがとね、お嬢ちゃん」


 とセミルは答える。少女は、「はー」とセミルの絵を見ている。興味津々のようだ。


(知り合いか?)

「いいや?」

(この辺りにムラは?)

「ないね。うちらのムラが最寄り」

(じゃあムラの娘?)

「ムラのみんなとは顔見知りだけど、この娘は知らない」


 となると、いつかの衝突事故三人と同じようなルーキーか?


「ねえ、お姉ちゃん。さっきから誰と話してるの?」 

 

 少女は辺りを見回して誰も居ないことを確認すると、セミルに尋ねる。


「悪霊さんって言ってね。姿の見えないやつだよ」

(ふむ。ルーキーなら試してみる必要があるな。久しぶり問うとしよう。すまんが少女よ。パンツを見せてもらってもいいかな)

「いいよー」


 がばっとスカートをたくし上げて、少女は俺達にパンツを披露した。要求から行動までがノータイムであり、セミルが少女を止める暇も無かった。


「……悪霊さん」

(……なんだい?)

「殴ってもいい?」

(殴れるもんならな)

「望むところだ。あ、お嬢ちゃんパンツはもういいから」


 そして俺とセミルはしばし口論を続ける。ギャーギャー喚く俺達を見て、少女は笑っていた。


「ん。もしかして。悪霊さん、ちょっと待って!……あー、やっぱりか」

 

 何かに気づいたようにセミルは端末を確認すると、納得したように頭に手をやる。


(どうした?)

「この子、ルーキーだわ」

(うむ。それは予想していたが)

「違う、そうじゃない。この子は、ルーキー中のルーキーだ」

(ルーキ中のルーキー? どういうことだ?)

「えっとね。この子、生まれたからまだ半日も経ってない。この世界のことをほとんど何も知らない、ルーキー中のルーキーなんだ」


 この見た目10歳くらいの少女が、生まれたから半日も経っていない、だと!? つまり、俺が見たのはパンツではなく……


(オムツということか)

「そういうことじゃない!」

ブックマーク登録感謝です。PV増えてて驚きました。


次(か次)くらいで、ファースト・ミッションである第1章の前半がおしまいです。今まで書いた分をまとめて校正して、それが終わったら後半に入ります。

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