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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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告白

 諸月の夜に帝都を襲撃したモンスターとそのモンスターに咥えられていた子供がパートナー。動物とどうやって意思疎通をするんだと最初は思ったけど、パートナー同士なら意志の共有が可能のはずだ。


「そういうことです、悪霊さん。あの黒虎は攫われた身内を助けるため帝都に来ました。最初はベティ姉さんに撃退されましたが、黒虎とベスティーが協力して――いえ、協力したからこそ、諸月の帝都侵入にまで発展したんでしょう」


 俺とクリスくんは二人で納得したように頷きあう。が、帝都の諸月の様子を知らないレジスタンスの面々は困惑した様子だ。


「おい、クリス。二人だけで盛り上がんな。詳しく話せ」


 アスカの要求でクリスくんは詳しく事の顛末を話し始めた。


「わたし、気づかなかった……」


 一方で、レイジーちゃんはその子供が同郷であると気づかなかったことにショックを感じているようだ。無理もない。彼女はレジスタンスに来てから自分の過去を知るセイくんやリズ、リラと接している。記憶が回復するかもしれないと、ガイアに居た頃のレイジーちゃんの話を何度もしていた。


 自分の知らない過去の自分を知る。それがどんな気持ちなのか俺には分からない。けれど、かつての知り合いと接触して、気づくことができなかったというのは、きっと俺の想像以上に悲しいことなんだろう。


(相手も気絶してたし、レイジーちゃんは記憶が無いんだから、気が付かなかったのは仕方ないよ。それに、まだ可能性ってだけで彼がそうだと確定したわけじゃないし……)


 俺はなんとか彼女を元気づけようとするが、レイジーちゃんの顔色は曇ったままだ。


「でも、もし、本当にそうだったら? 彼……ベスティーもきっと、捕まって、私と同じ扱い(・・・・・・)を今されてるんじゃないかな……」


 レイジーちゃんの言葉に、一同がハッとしたように顔を見合わせる。


「その可能性は高いですね。アスカ」

「ああ。今ベータと連絡を取る。帝都で調査中のはずだ」


 アスカはユグド通信を使ってベータさんと連絡を取り始めた。




「〈イヴの欠片〉の反応は無しですか……」


 ベータさんは軍病院を一通り探索してくれたようだが、期待していたような反応は無かったようだ。


「移動させられたか、クリス達みたいに自力で逃げ出したら、……あるいは考えたくねえけど……、殺されたってとこか」

「ど、どうしよう。ごめんねセイ、ちゃんと気づいてあげられなくて……」

「……」


 リーシャはセイくんに謝るが、彼も何と言っていいか分からない様子で黙っている。


「……まだ仮説の段階です。結論づけるのは早いかと」

「そうだな。ベータに引き続き調査させよう」

「大丈夫ですか? 僕のときよりも警備が厳重になっているかと思いますが……」

「深入りはさせねえ。それにベータは元特殊部隊だ。潜入調査は手慣れてるから見つかる心配もないだろ」

「だといいんですけど……」


 アスカはそう言うのだが、クリスくんは懐疑的だ。彼女ほどまだベータさんを信頼しきれてないってことなんだろう。過ごした年月の差かな。


(というか、ユグド通信は帝都まで伸びてたんだね)

「誘拐作戦の前までに伸ばしてたんだよ。密度も薄いし城の中にも入れねえから通信くらいしかできねえけどな」


 バラクラードの街みたいに人間監視はできないってことか。


「ああ。優先して帝都の根を広げてるけど、バラクラード(ここ)より遥かに広いからな。どうしても時間がかかっちまう」


 アスカはため息をついた。叶うならば今すぐにでも広げたいのだろう。


「ねえ、クリス。もし彼が本当にベスティーで、私と同じ扱いをされていたら、どうにか助けてあげられないかな?」


 レイジーちゃんは震える手をもう片方の手で握りしめてそう尋ねる。

 

「……僕も気持ちは一緒だよ、レイジー。何とか助けたいと思ってる。けど、下手に動いて失敗したら、ここに居るセイやリズたちも同じ目に遭うかもしれない。だから、今はベータさんの報告を待とう」


 しばらく二人は見つめ合う。やがて躊躇いながらもレイジーちゃんは


「分かった……」


 と絞り出した。彼女は懸命に我慢しているようであり、それはおそらく、ここにいる全員が同じ気持ちであっただろう。



 

 二週間が経過した。ベスティーの調査は依然進展がないままであったが、対ガイアスの作戦はアスカやクリスくんたちが連日懸命に考えて、どうにかこうにかまとまったようである。


「――というわけだ。各自、自分の役割は分かったか? ちゃんと作戦は頭に入れておけよ。メモとかしてたらぶっ殺すからな。最悪、ユグドに聞け」


 いつぞやにようにレジスタンスの皆を集めて、アスカは作戦を伝え終えた。質問がないことを確認した後、彼女は安心したように盛大に息を吐く。


(お疲れさま、アスカ。緊張してたの?)

「いや、また前みたいに前提からひっくり返されねえかとヒヤヒヤしてたんだ」


 ああ、そういうことね。シータちゃんの駆け込み訴えが無かったことに安心してたのか。

 作戦の確認が終わり、ざわついている皆の注目を集めるようにアスカは手を叩く。


「おーし、質問がなければ準備を始めろ。敵さんがせっかく『第零軍団』を用意してくれたんだ。連中はこの機会に自前の秘密軍を表に上げるつもりだろうが、それに便乗しない手はねぇぞ。歴史から消された俺達の名前を、居場所を、俺達の手で取り戻す! 今、このときより『第零軍団乗取り作戦』開始だ!」


 彼女の鼓舞に歓声が上がる。秘密組織(レジスタンス)らしからぬ振る舞いだ。

 

(いいのかな、うるさくして)

「まあ、たまにはいいじゃないんですかね。ユグドの探知もありますし」


 クリスくんは部屋の隅で、盛り上がる彼らをよそに作戦の詳細を再確認していた。まだ詰めきれていないところをチェックしているのだろう。


 第零軍団乗取り作戦の概要は簡単だ。レジスタンスメンバーが軍隊にこっそりと紛れ込み、おそらく戦闘となるだろうガイアス相手に活躍を見せ、軍の中で自らの地位を確立する。あとは『向こう側』の状況を補足しつつ、機を見て連携し、皇帝とその一派を一網打尽にするのである。


 ガイアスと『向こう側』の規模もわからない段階でうまくいくのか疑問だったが、それはもちろんアスカもクリスくんも承知していて、状況に応じて適宜作戦を変更してユグド通信で連絡を取り合う予定だ。


 ガイアスが来てから動き出せばとも思ったのだが、どうやら軍拡の募兵の締め切り迫っているようで、今動かないと軍に入り込むのが難しくなるらしい。


 軍に潜入するのは表向きの偽造身分を持つレジスタンスメンバーで、主に外部任務部隊「狩狩会社(かりかりカンパニー)」の面々だ。オメガさん、カーパ、タウたちが該当する。ちなみにベータさんは調査を継続するようで、いまだ帝都から戻ってこない。乗取り作戦には適宜参加していくのだとか。


 逆にここに残るのは、作戦を突き詰めるアスカやクリスくん、世話係のユキト、イータさん、ガンマ先生と、シータちゃん親子などである。リーシャとセイくんは、歌姫とその弟という表向きの顔があるのでもちろん待機組だ。地下の居候であるリズとリラも、情報の提供はしてくれても、結局ここから動きたくないようで、依然として地下施設をゴリゴリと拡張している。自分たちが造り上げた建築物に愛着を持っているようで、離れたくないらしい。


 アスカの宣言で作戦開始となったため、メンバーたちはぞろぞろと部屋から出て行く。秘密の地下通路からバラクラードの街に出て、軍への参加を表明するのだろう。


(ん……?)


 と、そこで、扉からこっそりこちらを覗き見ている存在に俺は気づいた。会議には参加していなかったアルである。どうしたんだろうと思って注意していると、彼は部屋の中に入ってきてアスカに声をかけた。


「アスカ、今ちょっといいか?」

「ん? 手短にすむならいいぞ。これから教会のお偉いさんに話をしに行かなきゃなんねえからな」


 アスカは外出の準備を始めながらそう答える。

 アルは意を決したようにひと呼吸置くと、


「俺をレジスタンスのメンバーに加えてくれないか」


 と言った。

 途端にアスカの顔つきが険しくなる。


「駄目だ」

「そこを何とか――」

「お前は、『人質』だと、そう言っただろうが!!」


 一度は却下され、それでも何とかアルが頼み込もうとすると、突然、彼女は大声でがなり立てた。身長差のあるアルを下から睨めつけるようにアスカは言う。


「どうしたアルバート? 急にそんなこと言い出して。友達のクリスが頑張ってるから俺も頑張りたいとか、そんな友情ごっこがしたくなっちゃったのか? ふざけてんじゃねーぞ。クリスも俺たちも、友情や正義感みてえなちんけなもんに命を懸けてるわけじゃねーんだ。追い詰められて、追い詰められて、それでも必死にあがいて失くしたもんを取り戻すために命懸けてんだ! 指名手配されてるわけでもねえ。家族が殺されたわけでも、残してきた家族に会えないわけでもねえ! 五体満足、心身充実しているお前が、レジスタンスに加わろうなんざ百年早いんだよ、この死にたがりが!!」


 アスカの強烈な怒鳴り声に、しんと部屋が静まり返る。今まで見たことがないほどにアスカはキレていた。


「いいか、お前は『人質』だ。ひーこらひーこら俺たちの命令に嫌々従っていればそれでいいんだよ。そうすれば俺たちが捕まってもお前は無罪だ。『脅されて嫌々料理を作らされていました』『帰省途中に無理やり拉致されたんです』『逃げたら殺すと言われました』『助けてくれてありがとうございます警察様』。そうやって解放された後は、俺達のことはきれいさっぱり忘れて生きろ。お前は――。……お前は、……まだ、何も失ってないんだから……」


 アスカはぐっとアルの胸を掴むと、最後は懇願するようにそう言った。


「アスカ……」

「……理解したか? そういうことだから、お前は――」

「アスカ。俺をレジスタンスに入れてくれ!」

「まだ言うか! この分からず屋!!」

「違うんだ。俺の話を聞いてくれ!」


 アルバートはそう叫ぶと、胸を掴んでいたアスカの手を包み込むように両手で掴んで――


「俺がレジスタンスに入りたいのは、クリスのためでも、家族のためでも、自分のためでもない。アスカ、君が好きだから、俺はレジスタンスに入りたいんだ!」


 俺やクリスくん、居残り組のレジスタンスメンバーの見ている前で、彼は愛の告白を叫んでいた。 


(え゛?)

「おっと」

「あら」


 突然の告白に、多分、みんな混乱したんだと思う。俺は変な声が出たし、クリスくんは持ってた作戦メモを引きちぎった。イータさんは初々しい若者を見る目でアルバートを見ていたし、シータちゃんは手を口元にあてて驚いていた。

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!?」


 でも、間違いなく一番混乱していたのは告白されたアスカ本人だったと思う。しばらく彼女は口をパクパクさせるだけの鯉になっていた。


「――誰が?」


 ようやく彼女が絞り出したのは、確認の一言だった。


「俺が」

「――誰を?」

「アスカを」

「……あ、病弱なわたしが、頑張ってるから、とか、同情で……?」

「違う。愛している、という意味で、俺はアスカのことが好きだ」

「ひぃいいい!?」


 アスカは彼女らしからぬ奇声を上げると、アルの手を振り払うように彼を突き飛ばした。まだ混乱から解けていないご様子だ。あとなんか知らんけど一人称が「俺」から「わたし」に変わってるぞ。


「アルバートぉおお。覚悟はいいかああ!?」


 そして何やら別の方向からも奇声が聞こえてきた。いや、奇声というより、これは怒声か。


「私は亡き御領主様からアスカ様のことを託された身。中途半端な男にアスカ様を娶る資格は無いと思え。さあ闘うぞ! どこからでもかかって来い!」

 

 なんかユキトが上半身裸になってアルバートに戦いを申し込んでいる。

 これはあれか? 挨拶に来た娘の彼氏に「娘が欲しければ俺を倒せ!」とかいう武道家一家にありがちな図。


 そんなことを考えていると、次の瞬間、死角より振り抜かれたイータさんの上段回し蹴りがユキトの顔面にクリーンヒットした。ユキトは壁に頭を強かに打ちつけて気絶した。まさしく一発KOである。


「何、邪魔をしてるんですか」

 

 イータさんはそう言うと、失神したユキトを窓から外に放り出してしまった。邪魔者は出て行けと、そういうことらしい。 


「すーはー、すーはー、……うん。……気持ちは分かった。ありがとな、アルバート」


 ようやく混乱から立ち直ったのか、アスカは再びアルと会話を始めた。


「でも、駄目だ。俺はお前の気持ちには応えられねえ」

「……そっか。……やっぱり、俺じゃダメか?」

「あー、違う。お前がどうこうってわけじゃなくてな……。俺はレジスタンスリーダーだ。先の見えねえ俺の未来を、先のあるお前に――、いいヤツのお前に、託すわけにはいかねえんだ。頼む。分かってくれ、アルバート。俺の身を案じてってことなら、俺はお前がそのままで居てくれたほうが……そのほうが嬉しい」


 ふたりはしばらく、そのまま見つめ合う。


「……そっか。分かった。無理を言って、すまなかった」

「……おう。お前は大事な『人質』だからな。そうそう危険な目には合わせらんねえんだよ。――って、もうこんな時間か! やべ、遅れちまう!」


 アスカはそう言うと、慌てて準備を整えて部屋から出て行ってしまった。さっき言ってたように、教会のお偉いさんに話をしに行くのだろう。


 告白が失敗――というか、不戦敗みたいに終わったアルバートはショックを受けていたものの、仕方ないみたいな感じだった。クリスくんやシータちゃんにドンマイと慰められている。


 俺はアスカのことが気になったので、彼女の後を追ってみた。急いでいたみたいだし、追いつけるか疑問だったけど、予想に反してすぐにアスカに追いつくことができた。彼女は廊下を歩いていたのである。


 アスカはひとり教会の廊下を歩き、俺は彼女に悟られないように黙ったままついていく。そんな彼女は急に立ち止まり、振り返ると、


「本当に、気持ちは嬉しかったぞ。ありがとな、アルバート」


 とボソリと呟いた。


 間違いなくそれは独り言であり、俺が聞いてはいけないもののはずだ。このまま黙って撤退してもよかったのだけれど、なんかこう、あれだ。心の奥がすごいムズムズする。これはむしろ反応してほしいということだろう。きっとそうだ。そうに違いない!


(ほうほう。これは脈ありと見ていいのかな)

「……!? あ、テメー悪霊か!? 何聞いてやがる!」


 そう叫ぶアスカは耳まで真っ赤だ。やばい、ニヤニヤが止まらん。


(だって、聞こえちゃったんだもん)

「だってじゃねえ! くそ、シクッた。……おい、悪霊。頼むから、誰にもバラすんじゃねえぞ。お願いだ」


 お? これはこれは、どうしたことか。いつも偉そうなアスカが俺に懇願している。……ぐっふっふ。なぜか知らないが、非常にいい気分である。


(えー、どうしよっかなー。アル、ショック受けてたしな―)

「バラしたら殺す」

(はっはっは。すでに肉体のない俺を、殺せるもんなら殺してみたまえ!)

「あることないこと言いふらして、社会的にお前をぶっ殺してやる!」

(すみませんでした!! どうかそれだけはやめて下さい!!)


 自分より年下の女の子に、俺は必死になって懇願していた。

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