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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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ユグド

BM登録ありがとうございます。

(クリスくん、見てきたよー)

「悪霊さんですか。どうでしたか?」

(もう大丈夫。警察は帰ったみたい。アスカが出てきていいってさ)

「分かりました。行こう、レイジー」

「うん」


 ここは教会の地下にある広大な空間。主にレジスタンスメンバーが戦闘訓練に使っている場所で、クリスくんとベータさんが戦った場所でもある。


 そんな場所にクリスくんとレイジーちゃんはひっそりと隠れていた。急に警察が教会に来て「指名手配犯が隠れている可能性があるから捜索させてほしい」と申し出たのである。


 アスカとユキトが「そんなものは居ない」と言い張ったのだが、警察はガンとして彼らの言うことを聞かず強制捜査を執行。教会を隅々まで捜索していき、誰も隠れて(・・・・・)いない(・・・)ことが分かると、「迷惑をかけた。ご協力感謝する」と居丈高に捨て台詞を吐いて去っていった。


 クリスくんは階段を登り、扉に手をかけるのだが、その手がピタリと止まる。


「もう扉は繋がってますかね?」

(みたいだよ)

「ならよかった」


 彼はそう言うと扉を開けて、地下施設と教会をつなぐ通路に出る。


 クリスくんがなぜ扉を気にしたかというと、実はこの通路、移動するのである。もしものときに教会と地下施設を分離できるようリズがそう設計したらしい(協会側の扉も合わせて隠蔽される)。

 

 警察の捜査中はそのギミックを発動して万が一にも彼らに発見されることを防いでいたのだ。もっともリズからするとクリスくんとレイジーちゃんはおまけであり、自分とリラの安全確保のためにそうしていたみたいだが。


 〈イヴの欠片〉同士でもすこぶる仲が良いというわけではないらしい。


「お、戻ってきたな、居候ども」


 クリスくんがアスカの部屋に行くと、彼女はからかうように笑みを浮かべる。


「……もう警察は居ませんよね?」

「ああ、連中は帰った。俺たちに黙って教会(ここ)に残っていることも無さそうだ。安心していい」


 自信満々にアスカは言う。


(それもユグドが?)

「そうだ。あいつが教えてくれた」


 警察が教会に来てから強制捜査を始めるまでの時間はごく僅かであった。教会の周囲も警察に囲われていたし、もし指名手配犯が潜んでいたとしても隠れる暇も逃げる隙も無かっただろう。


 それでもクリスくんたちが地下施設に隠れられ、通路のギミックまで発動できたのは、ユグドがいち早く警察の存在に気づいていたからに他ならない。


「広範囲探知能力、ですか」

(ヴェルニカのレイジーちゃんを見つけたのもユグドなんでしょ? どうでもいいけど、ユグドだけ能力いっぱい持っててずるくない?)


 複数人の強化・回復と、思考の共有(ブロード)、更には広範囲探知能力とか設定盛り盛りかよ。いいなぁ、そんなに能力があって。思考の共有はともかく、広範囲探知能力がレイジーちゃんにあれば国境超えも楽だったのに。


「あー、探知能力が広いのは確かにユグド固有の能力だけどよ、思考の共有はお前らだってできるだろ?」


 え、できるだろって、俺できないよ?


「違う。クリスとレイジーが、だ。〈イヴの欠片〉とそのパートナーは少なくとも接触している間は思考の共有ができるんだよ。二人にも俺はそう教えたぜ」

(え、そうなの?)


 慌ててクリスくんの方を見ると、彼は「あー、そういえば悪霊さんに伝えてませんでした」と呟いた。


(何で!? 何で俺だけ蚊帳の外!?)

「蚊帳の外も何も、僕が〈イヴの欠片〉について教えてもらったとき悪霊さん居なかったじゃないですか」


 え? ……あ。俺が気絶してたときか。


「そうですよ。簡単に説明しますと、僕らの回復は基本的に〈イヴの欠片〉由来なんです。回復の泉が〈イヴの欠片〉で、泉の水が僕らに流れこんで回復するとでも思って下さい。"パートナーになる"っていうのはその水の出入り口を作るってイメージです」


 ふむ。


「で、その出入り口は水だけじゃなくて情報の出入りも可能なんですよ。相手の見聞きした感覚や考えたことが情報となってこちらに伝わります。逆もまた然りです」

(つまり、クリスくんとリーシャは、レイジーちゃんやセイくんと思考の共有ができるってことか)

「ええ。でないと合体したときあんなにスムーズに闘えないでしょう」


 ああ、そういえば二人はパートナーと合体したときロクに言葉を発さなくとも自由自在に動いていたな。


「〈出入り口の形〉はパートナーそれぞれで変わるから、俺とクリス、クリスとセイとは思考共有はできないけどな」


 クリスくんの説明をアスカが引き継ぐ。

 なるほど、パートナー同士限定の能力なのね。


「アスカ。広範囲探知とはいえ、限界はさすがにありますよね。でないと帝国の情勢をアスカたちが知らないことに説明がつかない」

「まあな」

「ユグドの正体を教えてもらえませんか? 何が可能で何が不可能なのか、その辺の線引きができないと非効率的な作戦を立案してしまうかもしれません」


 状況が変わりましたし、とクリスくんは付け加える。

 以前、ユグドのことを聞いたとき、アスカは「レジスタンスの生命線に関わるから」と教えてくれなかったのだ。


「……そうだな。クリスとレイジー、それに悪霊の人となりも分かったことだし、構わねえか」


 とアスカは独り言つ。

 彼女の近くに居たユキトは何か言いたそうにしていたが、決定には逆らいませんと口を噤んだままであった。


「んじゃあ、ユグドを呼ぶぞ。……でも、ユグドの姿を見てもあんまり騒がしくすんなよ。子供たちが気づいたら面倒だしな」


 アスカはそう断りを入れると、いつもユグドと会話をするときみたいに耳に手をあててボソボソと呟く。

 あんまり騒がしくすんなって、そんなに騒ぎたくなるような見た目をしているのかな。


「お、来たぞ」


 アスカの声に俺は視線を扉に向ける。だが、扉は一向に開く気配を見せない。


(あれ? 来ないけど……)

「ん? ああ、違う。悪霊、こっちだこっち」

(こっちって……。うえ゛ッ!?)


 アスカの方を見て、思わず変な声が出た。


 樹の枝だ。


 今まで部屋にどこにも存在しなかった樹の枝が、アスカの周りに生い茂っている。

 よく見るとその樹の枝はゆっくりと蠢いていた。枝が割れ、葉が揺れるたびに、ピキピキ、ザワザワと、形容し難い不気味な音が部屋の中に反響する。


「紹介するぜ。これが俺たちのパートナー、ユグドだ。もっとも部屋には入り切らないからこれはその一部だけどな」

「ユグドって、まさか……」

("樹"なの!?)


 俺たちが驚いている様子をアスカは悪戯っ子よろしくたっぷりと堪能するように笑い、


「おう」


 と肯定した。

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