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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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状況整理とかとか

BM登録ありがとうございます。

 ウォルター・レイネット。英雄オスカーの父にして、オスカーが世間に名を知らしめる前までは、最強の『先祖返り』と謳われた人物。 (ぬし)クラスのモンスターを何体も討伐した実績があり、現役を退いた今でもかつての仲間たちと荒野を駆け巡り、モンスターや盗賊討伐を行っている戦闘狂。


 ウンリュウ・ミヤナギ。ミヤナギ一族現頭首にして、一族最強の人物。非『先祖返り』でありながら、凶悪な『先祖返り』の犯罪者を何人も生け捕った功績を持つ。その実力は英雄オスカーに匹敵するとの噂もあるるが、幸か不幸か二人が戦うことは無かったため、真偽は定かではない。


「そんな二人が――」

「どうしてここに――」


 二人の伝説的人物を目の当たりにして、アウグストとアドルフはそんな解説じみた台詞を口にする。


「用件はもちろん、私の父、前皇帝ヴィルヘルム殺害の件と、妹ソフィア及びその侍女、シダレ・ミヤナギが行方不明となっている件だ」


 カミエルは、無意識に威圧感を放つ二人にまったく動じずに、淡々と言う。


「ウォルター。知っていると思うが、現在お前の孫が行方不明になっている。別件の殺人事件に関与しているとして、現在捜索中だ。今尚、帝都(・・)に潜伏している可能性が高い。ウンリュウ。侍女シダレは妹と同時に行方不明になっている。あの『ミヤナギ一族』のひとりが、こんなに簡単に姿を消すとは考えづらい」


 カミエルはそう言うと、二人を観察するように一呼吸置いた。

 焦れったい空気を破るように、「……何がおっしゃりたいんで?」 とウォルターが続きを促す。


「単刀直入に聞こう。父の殺害と妹の誘拐に、君たちの身内が関与していると私は考えている。何か釈明はあるか?」


 カミエルの質問に執務室の空気が凍る。護衛のために配備されていた第一軍団の面々に緊張が走った。


「ありえませんな」

「ありえませんね」


 しかし、質問を投げられた二人は、特に顔色を変えることなくカミエルの疑問を即座に否定した。


「クリスが殺したり誘拐したり、そんな面倒くさいことをするわきゃありませんよ。気に入らない奴がいたら、あのガキは公の場で完膚なきまでに、正論で相手を叩き潰します。現に中等部時代に教師が数人、アイツのせいで退職に追い込まれてますからね」

「シダレのみならず、一族の皆には徹底して武人としてあるべき姿を教え込んでおります。主人に牙を剥く行為はその中でも最たる禁忌です。一族頭首として提言いたしますが、陛下の疑念は杞憂と言わざるを得ないでしょう」


 至極当然とばかりに二人は言う。


「その言葉に偽りがあったら、どうする?」

「身内の失態は一族の責任。もしシダレがそのような罪をしでかしていたなら、私を含め、シダレの世代を育ててきたミヤナギ一族全員で自刃いたしましょう」

「そんなもの、俺の功績のほうが遥かにでかい。おたくらがあのガキを捕らえて首を刎ねようが一向に構わねえが、俺が嘘つきかどうかなんてのは些細な問題だ。知ったこっちゃねえ」


 身内が罪を犯しているはずがないと信じるこころは同じだが、その責任の取り方についての双方の考えは異なっていた。二人は互いに目線を向けると、じりじりと火花を散らす。


「っけ、相変わらずミヤナギは辛気臭いねぇ。やだやだ。お前の父ちゃんの時代から変わっちゃいねえ」

「力を持つ者、人の上に立つものはそれ相応の責任というものがあるのですよ。かつては軍律を司る元帥という立場に居ながら、そのお考えは如何なものかと思いますがね」


 諍いを始める二人に、カミエルは「やめないか」と声をかける。


「分かった。ひとまず二人を信じることにしよう。もともと糾弾したくて君たちを呼んだわけではないのだ。ウォルター。君と、今城壁の外で荒野を駆け回っている君の仲間たちに招集を命じる。対ガイアの人類組織、『第零軍団』に加わってくれ。それと、君の孫のクリストファーがどこに居るか調査も頼みたい。身内の君なら気づく場所があるかもしれない」

「前者については了解です。もう仲間たちは動ける準備に入っています。後者については――どうですかね。クリスと過ごした時間は短いので、大したお役に立てるとは思いませんがね」

「それでもだ。ウンリュウ。君にはシダレの調査を頼みたい。同じミヤナギ一族なら、彼女の行方が分かるかもしれない」

「承知しました。――我々は第零軍団に加わらずとも良いのですか?」

「後々そうなるかもしれないが、ひとまずはエイジャの防衛に注力してくれ。勝手知ったる故郷のほうが、何かと都合がいいだろう」


 承知しました、とウンリュウは再びそう言って、頭を下げる。


「用件は以上だ、下がってよい」

「さてと。んじゃあ、仲間たちを呼んで来ますかね……。あー、陛下、うちの部隊は老人揃いでしてね。ひとり第一から若いのを連れて行っても構いませんかね」

「若いの?」


 ウォルターは執務室の壁に仁王立ちする男たちを見回すと、そのひとりに目を留めた。


「そうだな、そこの護衛。お前、名前は?」

「え、俺ですか? ラインハルトです。ラインハルト・シークワイズ」

「ああ、帝国大臣の家系、シークワイズ家の養子(・・)か。陛下、こいつ連れてっていいですかね。見所がありそうです」


 ウォルターはそう言うと、醜い傷の刻まれた顔でじっとカミエルを見据え続ける。

 カミエルも目をそらさずにその視線を受け止め続けるが、やがて諦めたように了承を示した。


「……分かった。ラインハルトはウォルターの部隊に加われ。ダグラス元帥には私から伝えておこう」

「え、陛下!? でも――」

「よーし、話はまとまったな。ほら、ちゃっちゃっと歩け、若いの。荷物は全部お前が持つんだからな」

「え、ちょ、ま、えええーーーッ!?」


 ラインハルトは襟首をウォルターに引っ張られながら、引きずられるようにして執務室から出ていった。


「……では、私もレイカをお借りしても? シダレの捜査に同行させます」

「構わない……が、そちらは返してくれるのだろうな?」

「勿論です」


 あの男と一緒にしないでください、と言いたげな表情でウンリュウは答えると、彼も執務室から出て行った。


「いいんですか、陛下。あんな勝手を許して」


 やっと緊張が解けた、という様子でアウグストが口を開く。


「……構わないよ。ウォルターには父さんも手を焼いていたけど、そのほうが良い結果になったりするからね。ひとまず様子を見よう」

「そうですか。……あ、すみません、陛下ちょっとお手洗いに」

「あ、俺も……」


 アウグストとアドルフはそう言うと、執務室から出ていった。緊張から解放されたついでに、他のものも解放したくなったのだろう。


 二人が出ていった執務室は、カミエルとジイ、そして極少数の第一軍団のメンバーのみとなる。

 残った彼らは全員、『向こう側』の存在であった。その空間で、初代皇帝エーデルハル・クライン=クラインが目を覚ます。


「クックック。ウォルターめ、やりおるわ」

「監視対象のラインハルトを連れていかれてもいいので?」

「もちろん、監視は続行せよ。あやつも完全にこちらに気づいた訳でもなかろう。それでも中々に嫌な手を打ってきおってからに」

「止めるの何か問題が?」

「ラインハルトの過去をあやつは知っている。()の帝国への疑念がこれ以上強まれば、遅かれ早かれウォルターに引き込まれていただろう。それならば迂闊に止めないほうが無難だ」

「ウンリュウはシダレを見つけられますかね?」

「少なくとも私達よりは優秀な猟犬になるだろう。ミヤナギ特有の暗号が残されていたりしたら、私達ではお手上げだ。枝を追うのは首輪のついた猟犬でいい。想定外だったのは枝が思ったよりも折れにくかったことだ。テスト段階とはいえ、私の《蟲》が戻らないとはな」

「猟犬が枝側についた場合は?」

「そんなものは枝ごと猟犬を焼き払えばいいだけだ。手の余る飼い犬は、飼い主がきちんと処分せねばならん。――それより、オスカーの息子と02(ゼロツー)はまだ見つからないか」

「はい。連中がヴェルニカにいた事は判明済みですが、それ以降の足取りは未だ分かっていません。食料配給時にそれらしい人物が居ないか調査していますが、依然見つかっておりません」

「そうか。とすれば、二人を匿っている連中が居る、か……」

「都市外部で生活している可能性は?」

「それならば、大した情報は入手できまい。驚異となることはないだろう。……よし。ヴェルニカ周辺都市にて、二人を匿えそうな場所を捜索せよ。警察を使っても構わん」

「承知しました」


 護衛のひとりはそう言うと、静かに執務室から出て行く。


「さて、二人はどこまで逃げることができるかな?」


 執務室にエーデルハルの薄暗い笑い声が響く。それに違和感を抱くものは、この場には誰も居なかった。

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