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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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ソフィの極秘調査9

微グロ回なので耐性の無い方は読まないことをオススメいたします。


内容は次話更新したときの前書きにさらっと書く予定です。

 薄暗い階段を降りて、二人は地下3階へと到着する。


「さて、この階から捜索しますか。姫様、私から絶対に離れないでくださいね」

「分かったわ」


 地下へと続く階段には監視カメラや赤外線センサーといったセキュリティの類は見つからなかった。廊下も常日頃誰かが使っている様子はなかったが、完全に放置されているわけでもなさそうで、うっすらとした埃の上に足跡やストレッチャーの轍がいくつも重なっていた。これでは先程の連中がどこへ行ったかは分からない。


「人の気配は無いですね……」

「この階じゃ無かったのかしら」

「そうかもしれな……おや?」


 先頭を進むシダレはそう呟くと、曲がり角で足を止める。曲がり角の向こうには明り取り窓付きの扉があり、その窓の向こうはこちらよりも多少なり明るくなっていたのだ。扉の近くの壁にはカードを押し当てるようなスペースもある。


「……セキュリティ扉ですね」

「いかにもって感じですわね。ここに兄様が運ばれた可能性は――」

「高そうですね。歩測してましたが、ここから先はアークマイネ教授が仕事をしていた建物です。どうやら、地下で建物同士が繋がっていたようですね」

「何とか開けられない?」

「その前に他の可能性を潰しておきましょう。上と下の階の様子を見て、この階と同じように人の気配が無かったら、この向こうに行くことを考えましょう」

「……そうね、そうしましょう」


 ソフィアは逸る気持ちを抑えて、シダレの提案に同意する。


 二人は地下2階と地下4階もここと同じように探索した。が、同じような光景が広がっているだけで、人の気配はどこにも無かった。

 二人は再びセキュリティ扉の前に戻ってくる。


「さてと、どうしましょうか。シダレ、何かいい考えはある?」

「うーん、そうですね。一通りこの辺りを探索しましたし、無いことも無いですけど……」


 そう言うと、シダレはソフィアの身体を上から下まで、舐め回すように見つめてくる。


「え、ちょっと何……?」

「うーん、その格好は少しまずいですね。仕方ありません。姫様、服を脱いで下さい」

「ちょ、こんなときに何を!?」


 シダレの提案に、今度はソフィアは素直に同意できなかった。




 二人はセキュリティ扉の上に設置されていた空気ダクトを通り抜けることで、教授の職場と思しき建物へ侵入することに成功した。


「あんなヒラヒラの服じゃ、ダクトを通るときに邪魔になりますからねー」

「先に理由を言ってほしかったですわ……」


 シダレの提案はダクトを通り抜けるためのものであり、服をすべて脱ぐのではなく、上着だけ脱いでほしいというものであった。後からそのことに気づいたソフィアは、恥ずかしそうにそう呟いた。


「さてさて、それじゃあ探索を再開しましょう」

「そうね。じゃあ、シダレ。上着を返して」

「駄目です。もし見つかって逃げ出すとき、ここでいちいち服を脱いでたら捕まってしまいます」


 ソフィアは上着のしまってあるシダレのリュックを指差すが、彼女は手を大きくバッテンにしてその要求を却下する。


「え、じゃあ、このまま……?」

「このままでお願いします」

「……わかりましたわ」


 上半身だけとはいえ、半ば下着のような格好で探索することに恥じらいを感じたソフィアであったが、背に腹は代えられないと思い、しぶしぶシダレに同意した。


「さて、こっちのほうが少し明るいですけど、相変わらず人の気配は無いですね……」


 シダレは床に耳をつけると、「誰も歩いていない」と呟く。

 また虱潰しに探索するしかないと思った二人だったが、すぐに二人はある扉の隙間から光が漏れ出ていることに気づいた。シダレはそっと忍び寄ると、筒にした手を間に挟んで扉に耳をあてる。


「人の気配は……ありません」


 開けますよ? とシダレは目で問いかけ、ソフィアも声を出さずに頷いて応える。


 シダレは音を立てずに扉を僅かに開けると、その隙間にファイバースコープを挿し込んで部屋の中を覗き見る。くりくりとスコープの位置をずらしながら全体を覗き見て、一通り観察が終わったのか、今度は人ひとりが入れそうな幅まで扉を開けると、するりと身体を中に滑り込ませた。


「大丈夫なの?」

「……そうですね。姫様も入って下さい」


 ソフィアが部屋に入ると、シダレはそっと扉を閉める。


「ここは……?」

 

 二人が入った部屋は、不思議な空間だった。一見すると大きな建物なら必ず一つは存在する機械室。大小様々な太さのパイプが天井から床下まで貫通し、コンクリート打ちっ放しの天井にも縦横無尽にパイプが張り巡らされ、床には計器類の収まる無骨な箱がいくつも設置されている。


 しかし、その空間はかなり広く、機械室というよりも倉庫に近い。その直感が正しいことを示唆するように、パイプや計器類だけでなく、大量の棚や机がところ狭しと部屋に置かれていた。ただ、什器だけでなく、鈍い色をした瓦礫のような鉄の塊が床に敷かれたビニールシートの上に散らばっていて、それがまた第三者にここを倉庫と断定できなくさせている。


「何なんですの、この部屋……?」


 しかし、二人が一番目を引いたのは、什器や鉄の塊ではなく、扉から外に漏れ出ていたこの部屋の光源であった。水を張った通路のようなプールの上に、カバーのついたロウソクのような物体が均等な間隔でいくつも並び、白い光を放っている。


 光はソフィアたちの腰の下あたり――かがんだら丁度目線の高さ――に存在し、天井の、この部屋がもともと備えていた明かりの類はすべて、息を潜めるように暗く沈黙していた。


「不思議なところですね……。ともあれ、居ないとは思いますが、念の為お兄様を探しましょうか」

「……そうね」


 シダレの言葉に頷いて、ソフィアは部屋の中を歩きだす。白い光に照らされた空間をざっと舐め回すように眺め、薄暗い鉄の塊の傍まで近づいたとき、ソフィアは気づいた。


 ガラクタだと思っていた、その鉄の塊にソフィアは見覚えがあったのだ。彼女は遠目に見たことがあるだけだが、印象的なイベントだったので、間違えるはずもない。

 

 クリスの話にもあった、彼が帝都から脱出する切っ掛けともいうべきこれが――。


「テラ・マーテル号……ッ!」


 未だ報告のない帰還船、テラ・マーテル号の残骸だった。


「え、本当ですか?」

「間違いありません。一部だけしかないようですが、確かに見覚えがあります」

「レプリカ……ってことはなさそうですね。残骸じみた装飾を施してまで、陽の目に当たらないこんなところに保管する意味が分かりません」

「ええ。これが、クリスと、例の悪霊さんとやらが見たもので間違いないでしょう。やっぱり教授たちは、クリスたちが見つけたものを、エイビス研究所からこちらに移していたんですね」


 情報統制の確たる証拠を目の当たりにして、ソフィアはクリスや自分たちが間違ってなかったことに――今更ながら――少し、安堵する。そしてそれと同時に、ここに居れば確実に向こう側の存在に接触できること。あるいはその逆に、ここに長く居れば居るだけ、向こう側に自分たちが見つかる可能性が高くなることに、ソフィアは気づいた。


「……早く、兄様を探しましょう」

「ええ」


 シダレに上着を脱がされたせいか、身体が冷たい。胸に手をあてると、自分の指先がひどく冷たくなっていることに気づいた。指先を温めるようにソフィアは両手を胸に合わせ、冷気と一緒に頭の中に入ってこようとする不安を取り除こうとする。


「あ、姫様、こんなのを見つけましたよ」


 と、そこで、シダレが何かを発見したらしい。彼女の方を見ると、そこには金属製の大きな箱があった。人が数人乗っても大丈夫そうなサイズの直方体である。蓋の部分は金属の板に取っ手がついているだけの非常に大雑把なもので、蝶番も何もなく、鍋の蓋のように板を持ち上げることで、箱の蓋を開けるようだ。


「何ですの、それ?」

「穴ですね」

「穴?」

「ええ、下の階まで通じているようです」 


 シダレが蓋をズラすと、虚ろな暗闇がそこに広がっていた。懐中電灯で照らすと、下の階の床らしきものがみえる。確かにシダレの言う通り、下の階まで通じているらしい。


 よく見ると箱の本体部分は床から動かないよう固定されている。箱だと思っていたのは、穴を隠すための覆いだったようだ。


「何でこんなところに穴が……?」

「さあ? 空調のためか、荷物運搬用かは、本当のところは分かりませんけど、脱出ルートになると思いまして」

「脱出?」

「ええ。幸い下には誰も居ないので、もしこの部屋に追い詰められたら、ここから姫様を抱えて脱出します。覚悟しておいて下さい」


 ごくごく普通の様子でシダレは言う。彼女がいつも冗談を言うような戯けた様子もないので、本当にここから逃げ出すつもりなのだろう。

 ソフィアが若干引き攣った顔で下を覗き見ると、頭が少しクラクラした。結構高いようだ。


「……大丈夫?」

「大丈夫ですよ。この前駆け上がりしたところよりは低いですから」


 そう言ってシダレはニコニコと笑うが、あのときは壁なり柵なり、途中でぶら下がるものがあった筈である。

 見下ろす限り、ここには何もない。


「どーんと、任せておいてください」


 自信満々にシダレがそう言うので、ソフィアは不安を抑えつつ「頼みますわね」と言うしか無かった。早く兄様を見つけて、普通のルートから脱出できますように、とソフィアは心の中で神様に祈った。


 早々にこの部屋を調べ終えようと、ソフィアは穴から離れて、明かりの連なるプールに沿って移動する。


 白く、明るい、カバーに包まれた、燃えるような光。カバーには2本のチューブが繋いであり、それがプールに沿うように配線されている。天井の明かりが壊れている様子はないし、壊れているとしても、なぜこんな面倒な明かりが設置されているのだろう。プールも意味がわからないし……。


 ソフィアがそんなことを思っていると、彼女の目の前で、ひとつの明かりが命を落とすように徐々に小さくなり、やがて消えた。


(ランプの寿命かしら……?)


 ふと、ソフィアはその消えた明かりに注視する。そして、今まで眩しくて見えなかった、明かりを放っていたものの正体に、彼女は気づいた。

 気づいて、しまった。


「え、嘘……」

「姫様、どうしました?」


 驚愕。怯え。困惑。不安。


 それらが混じり合って脳髄を掻きむしり、声を上げることもできず、ソフィアはそっと、震える指先で、今しがた消えたランプを指差して――、――自分の指を見て「ひッ」と小さく、悲鳴を上げる。


 消えたランプの中身。

 今しがたまで、カバーの中で燃えていたもの。

 燃えて、燃えながら、白く光っていたもの。

 黒く煤けているが、それは紛れもなく――、


 ――人の指の、形をしていた。


「マジですか……」


 ソフィアほどではないにしろ、それを見たシダレも困惑を隠しきれずにそう呟く。


「……いやー、これはさすがに作り物ですよ、姫様。教授か誰かは知りませんが、非常に趣味が悪い――、姫様?」


 作り物。ソフィアも最初はそう思った。

 けれど、彼女は知っている。クリスからレイジーのことを聞いて知っている。

 だから、これは。多分、きっと。

 どうしようもなく、信じたくないけれど。

 そうなんじゃないかと、気づいてしまって。

 そのために切り取っていたんじゃないかと、気づいてしまって。


 意味が分からな過ぎて、気味が悪くて。

 それを平然とやってのける悪意が、この上なく気持ち悪くて。


 シダレの声が耳に入らないほど、ソフィアはひどく動揺していた。

 気持ち悪いものから遠ざかるように。

 本能的に少しでも距離を取るように。

 後ずさり、後ずさり。


 足をぶつけて、バランスを崩し、尻もちをついた。

 起き上がろうとして、身体を捻って、ソフィアは見た。

 悪意の塊を、見てしまった。


 棚に収まったガラスの向こう、巨大な筒のその中に。

 ソフィアのよく知る、妹のような彼女(レイジー)が、

 左右に真っ二つに切り裂かれた状態で、その全身がホルマリン漬けにされていた。


「う゛……」


 こみ上げてきた強烈な吐き気を、ソフィアは堪えることができなかった。

 ビシャビシャと嫌な音を立てて、床に吐瀉物が零れ落ちる。


「姫様!?」


 シダレがソフィアに駆け寄り、口元に袋を差し出して、背中を撫でる。


「急にどうして――ッて、うぉ!? これは……」


 シダレもホルマリン漬けにされたレイジーに気づいたらしく、驚いたように口籠ると、その後は無言でソフィアの背中をさすり続けた。

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