レジスタンスの日々
今回はレジスタンスの日常について説明しようと思う。
朝。見張りのため、通常俺は屋根の上にいる。夜明けの光が教会に差し込み、それと同時に炊事場の音がここまで響いてきた。アルとシータちゃんが朝食の準備をしているのだろう。朝早くからご苦労さまである。
太陽が完全に地平線から飛び出した頃、朝食となる。レジスタンスメンバーで子供たちと一緒に食事をするのは、アルやシータちゃんなど、教会で仕事をしている者たちだ。アスカやユキトは当然として、イータさんは子供たちに勉強を教えているし、タウやカーパは教会の補修や、物資の買い出しなど行っている。
リーシャとセイくんが同席することもある。彼らはバラクラードの街に家があり、普段はそこで生活しているのだが、子供のころお世話になった教会の手伝いという名目で、結構な頻度で遊びに来るのだ。泊まり込むこともあるので、自然な流れで翌日一緒に朝食をとる。なお、セイくんはリーシャの弟として周囲からは認知されていた。
朝食後は仕事の時間。アスカとユキトは教会の受付対応、雑務その他を行っており、イータさんは子供たちに勉強を教え、タウは草刈りをしていた。シータちゃんは洗濯物を干し、アルは教会とその周りの清掃などをしている。迂闊に外に出れないクリスくんとレイジーちゃんは、教会の中でできる仕事を手伝っていた。
昼食は朝食とほぼ同じで、食卓にはパンとスープ、サラダに肉料理が並ぶことが多い。バラクラードは地下水が豊富にあるのだが、魚はあまり採れないらしく、魚料理は珍しいらしい。
ある日の昼食どき、シータちゃんが食事を持って食堂を出ていくのが目に入った。気になってついていくと、彼女は地下への階段を降りて、リズとリラの部屋に入って行った。彼らに食事を届けているらしい。
リズとリラは一応、レジスタンス所属となっているが、積極的に彼らに手を貸しているわけではないとのこと。レジスタンスメンバーも、生まれが違う彼らに対して、一歩引いた態度で接している。臆さずに平然としているのは、アスカとクリスくんとシータちゃん、それに<イブの欠片>のセイくんとユグドだけのようだ。セイくんのパートナーであるリーシャも、彼らとは少し距離を置いている。
原因は突っ慳貪な態度をとるリズのせいだ。
「悪いヒトじゃないんですけどね……。僕たちよりも警戒心が強いんですよ、リズは」
と、後にセイくんが言っていた。
シータちゃんは見かけによらず肝っ玉なのか、それとも見かけの年齢がほぼ同じくらいだからか、他のレジスタンスメンバーよりも彼らと仲が良いようだ。そのため、彼女が食事を届けているのだと、後にアスカから聞いた。
午後はベータさんが来たりする。彼はレジスタンス外部任務部隊のリーダーだ。この部隊は数ヶ月前まではバラクラードの街を離れて活動していたらしいが、最近はずっとこの街に滞在している。待機の命令が出ているらしく、現在はバラクラードの街の料理屋にて、こっそりと暮らしている。ちなみに、彼らの表向きの団体は「狩狩会社」という狩猟団体らしい。その名目で必要な武器やら何やらを調達しているという。
ちなみに、リーシャのライブ巡業についてった黒服さんは、この外部任務部隊のメンバーだ。ライブ巡業は一時的であるため、外部任務部隊の何人かが割り当てられて、リーシャ達に同行したらしい。
地下通路を通って教会にやってきたベータさんは、指導と称してクリスくんやイータさんの戦闘訓練を行っている。クリスくんは未だ対人戦闘に慣れないのか、ベータさんに転がされ続けていた。なお、シータちゃんもときどきこの訓練に参加しており、以前に彼女が物怖じせずクリスくんに向かっていったのは戦闘の下地ができていたためと思われる。
リーシャと一緒にアルファさんが教会に来ることもあった。ベータさんよりも二回りほど大きな身体をした彼は、顔に白粉を塗り、唇に紅をさしていた。そのうえで彼の口周りには、青ひげがこれでもかと存在を主張している。どうすればこんなモンスターが錬成されるのだろう。不思議でならない。
「あらん、クリストファーくんね。お久しぶり。元気だった? わたしぃ、ものすごく心配したのよ」
「そ、それはどうも、ご心配をおかけしまして」
リーシャ同様、アルファさんもクリスくんの事情は知っているようで、身体をくねらせながら女言葉でクリスくんを心配している。クリスくんは表情を殺して彼に挨拶した後、健康診断があるからと逃げるようにガンマさんの自室へ向かっていった。
夕飯後はお風呂の時間。子供たちが先に入り、大人たちはその後になる。それぞれ男女で時間を分けるのだが、大人組女風呂のときに子供組の女の子が入ることもあるようだ。男女さえ別れていればそのあたりはルーズらしい。
なお、その時間帯は風呂場の前でユキトが見張りをしており、俺もときどき彼を手伝っている。俺が居ないとあらぬ噂が広がらないとも限らないからな。彼と会話することで俺のアリバイを証明しているというわけだ。ときどき聞こえてくる黄色い声が目当てじゃないからな。勘違いするんじゃないぞ。
お風呂後は各自、自由タイム。朝の早いシータちゃんとアルは朝食の仕込みが終わるとすぐに眠ってしまう。クリスくんはアスカと作戦の計画を練ったり、レイジーちゃんと外でモンスター退治をしていた。まだパートナーとなって日が浅いため、少しでも慣れておきたいらしい。外から帰ってくると、疲れた二人は泥のようにベッドて眠ってしまった。
みんなが寝静まった後は特にすることも無いので、俺は屋根の上でコンちゃんに呼びかけたり、瞑想して朝が来るのを待った。教会周囲は見晴らしが良いので不審者が来ればすぐに分かる。特に気を張らずとも十分に見張りはできているだろう。
俺から見たレジスタンスの日常はこんな感じだ。そうそう、クリスくんとレイジーちゃんのラブラブキッスは5回に増えていた。どうやら俺が見ていないこっそりとやっていたらしい。順調に愛を育んでいるようで、お義父さん嬉しい。
それからしばらくたったある日のこと。俺が目覚めたときと同じように、レジスタンスメンバーの招集があった。
「おっし、みんな来たな。悪霊もいるか?」
(居るぞ)
アスカの部屋には多くのレジスタンスメンバーが集まっていた。いつもは居ないメンバーも集まっており、かなり重要な連絡があるらしい。もっとも、リズとリラはいつも通り居らず、非戦闘員のアルとシータちゃんも今回は来ていないが。
「さてと、みんな、今まで本当によくやってくれた。日の目を見ない任務ばっかりで大変だったろう。俺もすっかりシスターが役に就いちまってな。2年前と比べて、言葉や仕草が上品になっちまったの、分かるだろ?」
レジスタンスメンバーに笑いが起こる。冗談だったらしい。
「でも、それももう終わりだ。計画は次の段階へと移行する。第零軍団の証拠も十分に集まったし、<イヴの欠片>も増えて戦力も揃った。そろそろ、俺達も表舞台に上がろうじゃねえか」
アスカは鋭い双眸で笑顔を浮かべ、彼女に射竦められたメンバーに緊張が走る。恐怖や怯えの伴うそれではなく、信念と挑戦に基づいた高揚にも似た緊張だ。
「ーーでだ。それにあたっての作戦があるんだが、どうする? 辞めたいやつは辞めてもいいぞ? 失敗したら死ぬか、死ぬより酷い目に合うかのどっちかだからな。今ならまだーー」
「ははは、御冗談を。アスカ様」
「あの日の恨みと怒り、俺はまだ忘れちゃいませんよ」
やる気に満ちた表情のタウとカーパが、アスカの言葉を遮る。他のメンバーも同様のようだ。アスカの鋭い双眸に一歩も怯むことなく、全員が力強い笑顔で彼女を見返していた。ヴェルニカの悲劇から辛くも脱したメンバーは元より、その場に居なかったイータさんやクリスくんでさえ、逃げ出すつもりは毛頭ないらしい。
「……そうか。ブロードで確かめるまでも無かったな。ありがとな、感謝する。それじゃあ作戦を伝えるぞ。といっても、頭数の少ないこっちには選択肢が限られてるからな。予想してたやつも居るかもしれないがーー」
アスカは目を走らせて、全員の顔を今一度確認した後、大きな声で作戦を告げた。
「ーー皇帝ヴィルヘルム・フォン・マルステラを誘拐する」
アスカ「アルー、ちょっと」
アルバート「何だ、アスカ」
アルファ「どうしたの、アスカちゃん」
アルバート「……」
アルファ「……」
アスカ「そっか、『アル』じゃどっちか分かんねえな。よし、呼び方変えるか。負けたやつは強制変更な。ジャーンケーン……」




