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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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マイノリティ・マジョリティ

「……まあ、こんなもんだろう」

「ハァ、ハァ。くっ……。レイジーと一緒なら負けないのに……」


 二人を拉致したベータさんは、地下施設でクリスくんと組手を始めた。戦闘訓練ということらしい。対人制圧技能を身につけることと、対人制圧に長けた人間への対応を身につけることが、訓練の目的だ。そのため、レイジーちゃんはクリスくんと合体せずに、彼をひたすら応援していたのだが、残念なことにクリスくんはベータさんに完膚なきまでに叩きのめされてしまった。


(二十連敗だな、クリスくん。お疲れ)

「悪霊さん、数えてたんですか? まったく、意地の悪い……」


 眉根を寄せてこちらを睨むクリスくん。こんなにボロボロな彼を見るのは初めてかもしれないな。


「いくら先祖返り並みの力を持っていても、うまく扱えなけりゃどうにもならん。俺達は帝都の第一分隊……いや、それ以上の相手とも戦う可能性だってある。足手まといになるなら連れて行けんぞ」

「実践では常に合体していると思いますが……」


 じっとクリスくんはベータさんを睨む。この訓練は無駄なものと言いたげな様子だ。

 と、そこで地下施設の扉が開く音がした。


「ベータさーん。居ますかー?」

「シータか。どうした?」


 現れたのはシータちゃんだ。ヴェルニカ崩壊に巻き込まれた商人父娘の娘さんで、なし崩し的にレジスタンスメンバーになってしまった女の子である。年齢はクリスくんのひとつかふたつ下といったところ。レジスタンスで一番若いらしい。大人組と同じように調査任務をさせるわけにもいかないため、組織の裏方業務に徹している。茶髪でショートカットの地味なーーもとい、目立たない女の子である。ちなみに料理が得意で、教会の食事はほぼ彼女が作っていた。


「ちょっと倉庫の在庫のことで聞きたいことがありまして」

「ああ、分かった。……ちょうどいいな。シータ、レイジーと合体したクリスと戦えるか?」

「……はい?」 

 

 ベータさんの突然の提案に、シータちゃんは小首を傾げて瞬きしていた。



「いったいどうしてこんなことに……」

「私は別に構いませんが……」

「争い事なんぞ、ヴェルニカ脱出以来じゃのう……」

「よっしゃあ! クリスをボッコボコにしてやるぜぇ!」

「おうよぉ! ベータの旦那! チャンスをくれてありがとうございます!」


 上から順に、シータちゃん、イータさん、ガンマさん、それにカーパとタウの台詞である。みんなベータさんに呼ばれて地下まで来たのだ。カーパとタウは俺が食堂で挨拶をしたとき、クリスくんの前に座っていた二人組。この二人がクリスくんに口喧嘩でボロ負けした連中のようで、戦う前からすでに滾っているご様子。


「……5対1ですか?」


 すでにレイジーちゃんと合体したクリスくんがベータさんに尋ねると、翼の一枚がペシンとクリスくんの頭を叩く。


「すみません、5対2ですか?」


 クリスくんはレイジーちゃんを勘定に入れ忘れていたらしい。


「そうだな。カーパとタウ以外はほぼ非戦闘員だが、問題ないだろう。クリス、あいつらを制圧してみろ。気絶させるのは構わんが、頭部を破壊するのは禁止だ。カーパ達はクリスを制圧、あるいは気絶させたら勝利だ。カーパ達は頭部を破壊しても構わん」

「それ、僕かなり不利じゃないですかね」

「実践なんだろ? 仮想敵は、帝都の第一分隊。俺達は基本的に人を殺めたりしないが、連中は俺達を遠慮なく殺そうとしてくる。だからだ」

「そういうことですか。……分かりました。にしても、仮想敵、第一分隊ですか? 役者不足じゃないですかね。ベータさんも入ったほうがいいと思いますが……」


 居並ぶ五人を見てクリスくんは言う。


 クリスくんの言うことにも一理ある。彼ら全員、先祖返り並みの力を持っているようだが、非戦闘員が三人、うち一人は老人で、もうひとりはクリスくんより歳下の女の子だ。《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》の能力を持っているとはいえ、勝負にならないんじゃないかな。


「俺が入ったら弱いものいじめになるだろうが。安心しろ、万が一にもお前は勝てん」


 しかしベータさんは気にする素振りを見せずにそう答える。かなり自信があるようだ。


「……僕達に負けておいてよく言いますね。いいでしょう。完膚なきまでに制圧してみせます」


 クリスくんは鼻息を荒げて闘いの場へと進む。


「……なんか、勢いで『やります』って答えましたけど、今からでも誰かと代わって来ましょうか?」

「大丈夫だ、シータ。遠慮なくクリスをボコってやれ」

「そうだぞ! シータちゃん! クリスの野郎を一緒にボコろうぜ!」

「ひぃ」

「阿呆、怖がらせるな」


 ベータさんはそう言うが、シータちゃんは自信なさげである。自信をつけようしたのか、滾っているカーパが顔を近づけて鼓舞するように腕を振るが、割と強面な顔つきのせいか逆効果の様子。シータちゃんは悲鳴を上げてイータさんの影に隠れてしまった。


「して、ベータくん。わざわざ五人集めたということは、ブロードを使うんじゃろ? 誰がメインを担当するんじゃ?」

「そうですね。……ガンマ先生お願いできますか? この二人だと万が一にも負けそうで」

「よしきた。楽できるわい」

「えー、ベータの旦那。俺達やる気満々ですよ!」

「そうですよぉ!」

「お前らは少し頭を冷やしとけ。ブロードに影響するかもしれん」

「……私は最初から選択肢に無いんですね」

「イータはまだ不慣れだろう。もう少し慣れてからだ」

「はい……」


 作戦会議を始めるレジスタンスメンバーだが、聞き慣れない単語が混じっていたな。ブロードとはなんぞや?


「ブロードは《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》の能力のひとつだ。前に言ったろ? 俺達の能力は集団でないと無意味だって」


 俺の疑問に答えたのは、ガンマさん達と一緒に降りてきたアスカだ。何やら面白そうなことが始まりそうなのでついてきたらしい。ちなみにユキトも一緒だ。


(つまり、集団戦で効力を発揮する能力ってこと?)

「そうだ。見逃すなよ、悪霊。勝敗は一瞬でつくからな」


 一瞬でって、まじかよ。一体どんな能力なんだ? ……ビーム? もしや、戦隊モノおなじみ、5人集まると撃てる合体技的なビームでは!?


「じゃあ、そんな感じでの」

「了解です」

「頼んますよ先生、俺達に日頃の恨みを晴らさせてください」

「阿呆、口喧嘩は口喧嘩で返さんかい」

「そいつは無理ですよ。あいつ、ムカつくほど口達者ですもん」

「が、がんばります」


 打ち合わせが終わったようで、5人はクリスくんの待つ場へと歩みを進める。野郎二人とイータさんはベータさんと同じような装備をしている。シータちゃんはベータさんが自分のナイフを渡していたが、それだけだ。ガンマさんに至っては白衣に手ぶらである。ブラックジャックよろしく、メスかダーツでも衣服の内側に忍ばせているのだろうか。


「……ずいぶんと長い作戦会議をしてましたね。準備は大丈夫ですか?」

「クリスくん、お手柔らかにの」

「クリスゥ、覚悟はいいかぁ!!」

「けちょんけちょんにしてやるぜぇ!!」

「……」

「よ、よろしくおねがいします」


 両者は一定の距離を取って向かい合った。こちらにまで緊張感が伝わってくる。俺もビームへの期待感で、無いはずの胸がドキドキし始めたぞ。


「よし、準備はいいか。……始め!」


 ベータさんが戦闘開始を告げた。


「初手で決めます。レイジー」


 クリスくんは翼を一枚広げ、羽を逆立たせる。


「ほっほ。血気盛んや良し。《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》」

「「「「「思考伝播(ブロード・オブ・ソー)」」」」」


 一方で相対する五人は集団でないと使えない特殊能力、ブロードを発動する。

 そこから先の展開は、片方が片方を蹂躙する、一方的なものであった。

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