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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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ヴェルニカ〜バラクラード

BM登録ありがとうございます。

 扉をすり抜けてクリスくんの部屋に入る。ベータさんの言っていた通り、部屋の主は戻ってきていた。が、かなりこき使われたらしく、クリスくんはベッドにうつ伏せて倒れ込んでいる。


(クリスくん、大丈夫?)

「……悪霊さん、ですか?」


 クリスくんは体を起こしてこちらを見る。


「大丈夫です。数時間も拘束されてかなり疲れましたが。補修どころか、拡張工事までやらされましたよ、まったくもう……」


 彼はそう言ってため息をつく。だいぶお疲れのようだ。


(レイジーちゃんは一緒じゃないの?)

「自分の部屋に戻りましたよ。さすがに疲れたようなので、もう眠っていると思います。……そういえば悪霊さんが行方不明になったって聞いたんですけど、誤報だったんですか? アルが悪霊さんの行きそうな場所を聞きに来ましたけど」

(まあ、結果的に言えばそうなるのかな。帰り際、街案内してくれたイータさんと逸れてしまったんだ。俺が居ないことを知ったイータさんが、俺のことを帝国のスパイと邪推してな。そのせいで話が大きくなったんだろう」

「何だ、人騒がせな」

(ところでクリスくん、聞きたいことがーー)


 クリスくんはゆっくりとまばたきを繰り返すと、がくんと船を漕ぐ。どうやらかなり眠いらしい。


「すみません、悪霊さん。今日はもう休みます」

(……そうか。じゃあまた明日)

「はい、おやすみなさい」


 そう言うと、クリスくんはバタンと倒れるように眠ってしまった。部屋の電気を消す余力もないようだ。俺は彼を起こさないよう、黙って部屋の扉をすり抜ける。

 さて、俺はどこで夜を過ごそうか。イータさんから他人の部屋に迂闊に入るなと注意されたし、誰もいない屋根の上にでも行こうかな。見張りついでに日課の瞑想に励むとしよう。



 翌日。クリスくんとレイジーちゃんは特に疲れた様子を見せることなく、至って普通に過ごしていた。


(もうだいぶ回復したみたいだな)


 自室でくつろぐクリスくんに俺は話しかける。部屋にはクリスくんの他にレイジーちゃんも居る。彼女は自分の腕を翼に変質させて遊んでいた。


「あ、悪霊さん。そうですね。レイジーと合体してから怪我の回復はもとより、体力の回復も早くなったみたいです。あ、昨夜はすいませんでした。眠ってしまって……。何か話があったんですよね」

「クリス、呼んだ?」


 自身の名を呼ばれたと思ったレイジーちゃんがこちらに寄ってくる。


(そうそう。まさにそのことを聞きたかったんだ)

「そのこと、ですか?」

(うん。いきなり模擬戦が始まっちゃったから聞くに聞けなかったけど、レイジーちゃんと合体ってどういうことなのさ? 正直、まだよくわかってないんだけど)

「ああ、そういうことですか。レイジー」


 クリスくんは片腕を横に上げる。以前と同じようにレイジーちゃんの体は発光しつつ溶けて変質。止まり木のように差し出された腕にまとわりつき、身体を這うように背中に移動すると、六枚の翼がクリスくんの背から生え広がる。


「これのことが聞きたいんですよね」

(うん、それそれ。俺が気を失う前はそんなことできなかったよね)

「ええ。悪霊さんは僕たちが撃たれたところまで覚えてるって言いましたよね。その後、レイジーが僕にしたことは覚えていますか?」


 撃たれたあと、レイジーちゃんがクリスくんのしたこと? え、何かしたの? 全然記憶にないんだけど。


「ああ、その前に気絶してしまったんですか。分かりました。じゃあ、その辺りから話しましょうか」

(話しましょうって、クリスくんだって頭撃たれて気絶してたんでしょ? あ、レイジーちゃんから聞いたの?)

「まあ、そんなところです。正確には、僕と一体化したレイジーの記憶が教えてくれました」


 ……はい? どういうこと?


「最初から説明しましょう。ーーあの夜。追手に気づかずヴェルニカを探索していた僕たちは、疲労のためとある民家で休息を取ろうとしてました。そのとき、追手の狙撃で僕は頭を撃ち抜かれ、駆け寄ってきたレイジーも同じように頭を撃たれました」


 うん。そこまで俺も覚えている。俺が気絶したのはその直後だな。


「それで、そのときに僕は死にました」

(え!? 死んじゃったの!?)


 じゃあ今目の前にいるクリスくんは何なんだよ。幽霊かよ!


「ははは。幽霊だったら悪霊さんみたいになるんじゃないですかね」


 ああ、それは確かにーーって、そうじゃなくてね。


「まあ、頭を撃ち抜かれましたからね。一時的にとはいえ、死なないと流石におかしいでしょう」

 

 クリスくんは微笑みつつとんとんと自分の頭を指差す。


「おそらく脳活動が停止していたはずです。そのままの状態が長く続いたならば、今僕はこの場には居ませんでした」

(続いた、ならば(・・・)?)


 クリスくんの言葉には含みがあった。


「ええ。悪霊さんは、レイジーの回復力が人外並みに凄まじいことはご存知ですよね。彼女も頭に銃弾を受けましたが、幸い貫通はせず気を失わずに済みました。ガラス越しのためか、あるいはレイジーの身体が敵の想定以上に硬かったかは分かりませんが、辛うじて意識を繋ぎ止めたレイジーは、自身の細胞を僕に与えて損傷した脳細胞の代替を図りました」


 「こんなふうに」とクリスくんは翼を腕に巻き付ける。腕の先で集まった羽は再び光りだし、溶けて一筋のしずくとなる。反対の手の平で垂れたしずくを受け取ると、液体は溶けるようにクリスくんの身体へと消えていった。


(……何それ?)

「これは僕もここに来てから知ったんですが、ガイアの人類は僕たちとは随分と身体が違うようです。そうですね……1個の生命というより、群体が人体を模っていると表現した方が適切でしょうか。どんな進化をすればそうなるのかまったく想像できませんが、ユグドもリズとリラもセイも、レイジーと同じことができるそうです」


 ええと、詳しいことはよくわからないけど、自分の身体だけでなくて他人の身体も治せるということでいいのかな。


「ええ。ですが、分け与えた身体は相手と一体化してしまうのでもう元には戻りません。文字通り身を切る思いで実行する最後の手段だそうです。僕はそのおかげで、レイジーのおかげで助かりました」


 再びクリスくんが片腕を上げる、光を帯びた翼が変質し、レイジーちゃんへと姿を変えた。彼女は恥ずかしそうに口元に手をやっていた。照れているようだ。


「そのときにどういう理屈かは知りませんが、レイジーの記憶が僕の記憶と混ざり込みましてね。そのときの様子はまるで自分のことのように思い出せるんですよ」


 なるほどね。それが一体化した記憶ということか。


(ふむ。クリスくんがレイジーちゃんのおかげで助かったのはわかったけど、その翼は何なのよ)


 レイジーちゃんは再び翼を出している。さっきは肘から先がまるごと翼になっていたが、今度は腕はそのままで肘の付け根から新たに翼が生えていた。翼の形は自在のようだ。


「翼は回復能力の応用……というより、発展ですね。回復の基盤となるのは群体の様相を呈す万能(・・)細胞。レイジー達ガイアの人類は、怪我をすると急速に細胞分裂を行い、傷ついた身体を代替するよう変質します。その変質を回復とはまた違った目的に限定し、自身の万能性を失うまで苛烈に行うことで、大きな力を得ているようです。それがレイジーは《翼》であり、ユグドは《少数派の最大派閥マイノリティ・マジョリティ》です。能力と呼ばれるものですね。レイジーは僕を守るために、その能力を得たそうです」


 うーん、話が難しくなってきたぞ。俺、生物は成績悪かったんだよね。クリスくんの言うことがよく理解できない。


「まあ、僕もよく分かってませんから」


 とクリスくんはかぶりを降る。


「今話したことはガンマさんから聞いたことですが、彼自身も『そうとしか言えない』と言っていました。現象を説明できても原理や理屈はまだよく分かっていないそうです」


 ガンマさんは確か医者だったな。専門分野だし、クリスくんよりは詳しいか。


「もしかしたら、カールさん達はもっと詳しいかもしれませんが……」


 クリスくんの言葉は尻すぼみになる。今更帝国に戻るのは危険だし、無理もない。カールさん達も敵かもしれないし。


(あれ? そういえば、その翼って、クリスくんが願ったものじゃないの?)


 確かアスカが模擬戦のときにそんなこと言っていたけれど。


「違いますよ。僕は気を失ってたんですから」


 とすると、アスカの説明していた願い云々はなんだったのだろうか。


「まあ、アスカの場合はユグドが皆の願いを叶える形で能力を形成したそうですから、僕もそうだと思ったんじゃないですかね」


 ふーん。その辺りはケースバイケースなのかな。


「さて、話の続きです。レイジーのおかげで一命を取り留めた僕でしたが、それでも重体でしたのですぐに目は覚めませんでした。その間に追手と思しき連中が僕たちを襲っていたようですが、《翼》の能力でレイジーがすべて返り討ちにしました」

「クリス……?」


 レイジーちゃんがクリスくんの名を呼ぶ。彼女はじっとクリスくんを見ていた。説明に誤りでもあったのだろうか。


「ん? どうしたの?」

「……んーん。何でも無い」


 クリスくんが促すが、レイジーちゃんは特に何も言うこと無く黙ってしまった。何だったんだろう。


「……悪霊さん、ガイアの人類がお互いに相手の気配が分かるってご存知でしたか?」

(ん? あー、そういえばそんなことレイジーちゃんが言っていたな。気配が何とか)

「ええ。どうやらそうみたいでしてね。僕もレイジーと一部が一体化したせいか、彼女の気配が分かるようになりました。ある程度の距離まで近づくと、なんとなく彼女の気配を感じるんですよ。もちろん、逆もまた然りです。ユグドはレイジーより広範囲の気配を探れるようで、ヴェルニカに僕たちが来たことを察知して、ベータさんを迎えに寄越したそうです」


 ああ、そこでレジスタンスと繋がるんだな。


「はい。ベータさんは僕を守るレイジーをーー当時は僕が目覚めなかったせいか、若干暴走していたレイジーを力づくで抑え込もうとしました。が、なかなかうまく行かなかったようです。やがて、能力を発動し続けたレイジーは力尽きて倒れ、僕らはベータさんにバラクラードまで運ばれました。目覚めたのは三日後のことです。あ、ちなみにベータさんとレイジーの事の顛末は昨日、本人から聞きました」


 ああ、模擬戦で話していたやつか。一緒に部屋の補修をしている最中にでも聞いたのだろう。


(……俺が気絶している間、大変だったんだな)

「僕も似たようなもんです。頑張ってたのはレイジーですね」

(そうだな、レイジーちゃん偉い)

「えへへー」


 俺がレイジーちゃんを褒め称えると、彼女は素直に喜んでいた。

Q. 「βさんはヴェルニカまでどうやって移動したんですか?」

A. 「徒歩」

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