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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
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遠出

 曇り空のもと、俺達三人を乗せたゴツメの軽トラが緑の道を走っていた。どこまでも広がる丘に、ごくたまにポツンと岩と木が置いてある非常に貧しい彩色の世界である。この辺りには空き家もなく、対向車とは一度もすれ違っていない。本当にこの世界はニンゲンは数が少ないようだ。


 自分のルーツを探す旅のときは、最大速度で移動しても自転車くらいのスピードしか出ず、広範囲の探索はできなかった。道にも迷ったし。このままではこの世界を周るのに非常に時間がかかってしまうと思っていた。が、どうやら俺は自動車に乗れるらしい。自動車の上に移動すると、特に意識せずとも自動車が動けば視点も移動するのだ。どこに座標が固定されているのかは分からないが、探索範囲が広がるためこれは非常に嬉しい。


 ともあれ、俺達三人は雑談しながら緑の道に沿って移動している最中だ。


「ふぅん、その子がユリカの想い人なの?」

「そ、そんなことないよ! 私の好きな人はセミルただ一人だけだよ!」


 セミルは運転しながら横目でユリカの端末を確認し、ユリカは隠すように端末を抱え直す。心なしか、慌てているようだ。


「でも、熱烈なメッセージもらったんだよね? 『あなたの作品に感動しました! あなたに会いたいです!』ってやつ」

「そ、そうだけどぉ……」

(やるねぇ)


 くりんくりんとユリカは自分の髪をいじる。どうやら満更でもないらしい。


「今までファンレターをもらったことはあったよ。でも、ここまで言われたのは初めてで、照れるのは不可抗力というか何というか……」


 と、ユリカの語尾はか細く消えていく。

 おーおー、青春してるねぇ。


 というわけで、俺たち三人、というよりユリカはそのメッセージの主に会いに行く途中である。端末に映った顔を見たが、少し幼さが残る青年か、大人びた少年といった印象を受けた。若そうに見えるが、この世界のニンゲンは見た目=年齢ではない。ユリカも彼より少し歳上の見た目でありながら、実年齢は三桁である。


(というか、セミルはユリカのことからかってるけど、苛ついたりしないの?)

「苛つく? 何に?」

(何にって、恋人が言い寄られてるかもしれないんだぞ? この青年に嫉妬とか……)

「ああ、嫉妬かぁ。嫉妬ねぇ。懐かしい響きだね……。そんなもんをしてた時期もありましたわなぁ、数十年前に……」


 あ、セミルは遠い目をしている。そういえば、このヒトも俺より長い時間生きてるんだった。好きも嫌いも三角関係もたくさん経験しているんだろうし、もう嫉妬とかでは心動かないのかな。


 ちなみに、俺とセミルはユリカの付添であり、彼女を送り届けたあとはコロシアムに行く予定だ。この前ちらっと話しを聞いた、多くの命知らずが「バトルしようぜ!」と決闘を申し込む場所である。ユリカの行き先の近くにあるらしいので、それに便乗した形だ。。


(ちなみに二人はコロシアムに行ったことあるのか?)

「何回かあるよー」

「セミと一緒に行ったよね」

(参加したことは?)

「何回かあるよー」

「セミとも闘ったよね」


 え、あるの? 実は二人共、めちゃくちゃ強いとかないよね。コロシアムについたら突然「お、お前は! 壊掻処刑人(パレットマスター)セミル! 生きてやがったのか…‥」とか言われたりしないよね? 


「まっさかー。そんな恐れられるほど強くないよ。平均レベル平均レベル。勝ったり負けたり」

「人生長いもんね。暇つぶしに殺し合いくらいしないと、やっていけないよ」

 ねー、と二人は声を揃える。

 そんな、ヤケ酒しないとOLなんてやってらんねえぜ、みたいに言われても反応に困る。



(! セミル前! 前! ブレーキ!)


 丘のスロープを登りきった矢先、右側から何かが突っ込んでくるのが見えた。


 セミルは慌ててブレーキを踏むが、車体の勢いを殺すには時間が足らず、そのまま何かに車はぶつかった。柔らかいものが硬いものに叩きつけられる嫌な音が、強烈に響く。


(セミル、ユリカ! 大丈夫か!)

「うわっちゃー。やっちゃったなぁ」

「あいったー」


 セミルはハンドルと抱き合い、ユリカはフロントガラスに頭を打ち付けていた。セミルは大丈夫のようだが、ユリカは頭を守るように腕を差し込んだため、腕にもろに衝撃を受けてしまい、左腕が変な方向に捻れている。


「もう何ー」とつぶやきながら、ユリカは無事な右腕で左腕をねじり直す。見てるこっちが痛そうだが、あっという間に治った。相変わらずこの世界の住人はやべぇな。


「おい! 見たか! すげぇな、本当にやったぜ!」

「うん! でも、大丈夫かな。このまま死んだりしたらどうしよう……」


 キャイキャイと、見た目小学生から中学生の少年少女が、丘の下から姿を現す。


(え、何これ。何この状況)

「……セミ、これって……」

「ああ、ルーキーだね。まったく、迷惑な」


 慌てる俺に対して、二人はすごく冷静だ。


「こら! そこの二人! 度胸試しはいいけど! ヒトに迷惑かけちゃ駄目だろ!」

「え、あ、その……」

「……」


 珍しく怒ったユリカが、二人に怒鳴る。

 二人は二言三言、もごもごと呟いたあと、黙ってしまった。


「……。あー、怒られ慣れてないね、これ。誰も面倒見てないのか」

「そうみたいだね。仕方ないなー」


 と呟いて、セミルとユリカはトラックから降りた。状況がよくわからない俺は、黙って二人のあとについていく。セミルとユリカは、二人とは別の地面にうずくまっている少年に近づいた。さっきトラックとぶつかったのはこの少年だろう。こちらも彼らと同じ年頃だ。少年は苦悶の表情を浮かべ呻き声を上げている。


 セミルは覆いかぶさるようにして少年の体を掴んで、そのままぐいと強引に立たせる。


「い゛っっっっっーーーー」


 当然のように悲鳴を漏らす少年。最後の方は声にすらならず、引き攣った口が呼吸を忘れているようだった。


「痛くない痛くない。大丈夫すぐ慣れる。正しい位置に骨と筋肉がないと治らないから、痛くてもすぐ動いて。分かった?」

 

 返事がないのでもう一度セミルは「分かった?」と問う。涙と涎と脂汗まみれの少年は、ようやくセミルの声に反応し、ガクン大きく首を上下させた。

 

 一方、ユリカは立ち尽くしている二人組に近づいた。


「君たち拳銃持ってるでしょ? あるいはナイフ。出して」

「え……」

「でも……」

「出して」

 

 笑顔だが、有無を言わせぬ迫力でユリカは言う。二人は互いに顔を見合わせたあと、渋々といった様子でセミルの指示に従った。


「あー。やっぱり、持ってたね。ナイフと拳銃の両方か。うんうん、やりたいことは分かるよ。いくら治るといっても、最初は怖いからね。傷を負うと痛いし」


 淡々と、諭すようにセミルは言う。


「不死身を実感していないルーキーは、本当に不死身か試してみたくなる。でも、痛みが邪魔して思い切り自分自身を傷つけることはできない。だから、知り合いにお願いして、自分を傷つけてもらう。ナイフでも十分なんだけど、楽だから拳銃を選ぶことが多い」


 ユリカは慣れた手付きでナイフを放り投げては掴んでを繰り返す。


「それでも、知り合いを傷つけることは怖い。怖くて怖くて、本当に自分が撃って、死んでしまったらと思うと震えてできない。だったらどうするか。見知らぬ他人に、自分を傷つけてもらえばいい。度胸試しだ。その辺りを走っている自動車にでも轢かれれば、いい感じに重傷を負うだろう。……とまあこんな感じかなー」


 拳銃をひとしきり弄りながらユリカは言う。


「でも、そんなのはてめえらの理屈で、こっちからすると迷惑以外の何物でもないんだよねー。せっかくのドライブを中断されて、ぶつかった衝撃で腕もちょっと痛かったし、けっこうムカついてるんだわ。それに何より、君たちのお仲間が勇気を出して頑張っているのに、君たち二人が頑張らないのは、ちょっとおかしいと思うんだよねー」


 パァンと、軽い、弾けるような音が響く。腹部を抑えて、少女の方がよろめいた。


「君も」

 

 左胸に衝撃を受け、少年が一回転して崩れ落ちる。


「よし」と呟いて、ユリカはナイフと拳銃を置いた。


「そっちはどう?」

「ん、治ってきた」


 そう呟いて、セミルは少年の体を支えるのを止める。しかし、少年は痛みに耐えられずにその場にうずくまってしまった。


「不死身慣れはしといたほうが良いぞ、若者よ。できればヒトに迷惑をかけないようにね」

「はい、すみません……っ」

「まあ、そういうことも含め、誰かに教わるのが手っ取り早いだろう。ほれ、端末で『マダム』って検索してみ。……、そうそれ。そのヒトに『セミルとユリカから紹介されました』って言えば面倒見てくれると思うから、少しでもマシになりたいなら行ってきな」

「じゃーねー。あ、君も撃たれたい? やって欲しいならやったげるよ?」

「……いえ……。……自分でやります」

「そう。それじゃね」


 セミルとユリカは彼らに別れを告げ、軽トラに戻った。


「あー、バンパーがちょっとガタついてるね。すこしひしゃげちゃったし」

「しょうがないわね。走れないこともないから、とりあえず目的地に行ってから考えよ」


 二人は車体をチェックすると、軽トラに乗り込んだ。軽トラは、まだ満足に動けそうもない三人組を避けて進み、やがて何事もなかったように走り出す。


「まったく、びっくりしたなぁ、もー」

「流石にあれは避けられないからねー。あー、心臓に悪い」

「ねー。……あれ? そういえば、悪霊さんは? さっきから声が聞こえないけど、もしかして置いてきた?」

「え? 本当?」

(……ここにいるぞい)

「あ、何だ居たんだ。でも声に元気が無いね。どうしたの? びっくりした?」

(びっくりした。……びっくりして、びっくりして、びっくりした)

「何それ、びっくりしすぎ」

(っていうか、君ら怖いわー)

「え? 何が?」

(君ら怖いわー)

「だから、どこが?」

(怖いわー、コワイワー、コワイワー……)

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