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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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死神さんとコンちゃん

(おかしい。どうしてこうなった……?)


 とぼとぼと農地を進みながら俺はそんなことを考えていた。目的地はクリスくんの現在地。おそらくマーテル教会に居ると思われるのだが、イータさんが俺のことをどう報告したか考えるだけで憂鬱だ。進むスピードも自然と遅くなってしまう。


 そもそも、どうしてラブハリケーンの出力が上昇したのだろう。今までは強風どころか微風しか出なかったのに。いや、強風が出ること自体は別に良いのだ。そもそもそれくらいの風は出るものだと死神さんも言っていたし、俺もそれを目指して日夜訓練を励んでいたのだから。


 しかし、よりにもよってあのタイミングで日頃の努力が身を結ぶとは、なんて運が悪いのだろうか。俺は前世で何か悪いことでもしたのだろうか。至って普通に生きてきたつもりなのだが。もしや、前世の、そのまた前世の影響か? 宿業がめぐりにめぐり、前世で交通事故に見せかけて俺の命を奪っただけじゃ飽き足らず、魂状態の俺にも不幸が降りかかるというのか。


 くそう、死神さんに頼んでお祓いでもしてもらおうかな……。ん? その場合、俺が召されるのではないか?


「ふむう。すまん、さっきの風は儂のせいじゃ」


 ん? 

 どこからか声が聞こえた気がしたので、俺はその場に止まる。どことなく聞き覚えのある声だった気がする。


「気のせいではないぞー。儂じゃー。儂じゃよー」

(おのれ何奴! 名を名乗れ!)


 儂では分からん! あと、この台詞は一度言ってみたかった台詞である。言えて嬉しい。


「むう、さっき別れたばかりなのに、もう儂の名を忘れたか? せっかくお主に貰った名じゃと言うのに……」


 俺に貰った名前? はて、俺に子供はいなかった気がするが。


「ええい、まどろっこしい! 儂の姿を見れば思い出すじゃろ。ちょっと待っとれ! 今そっちに行くからの……。あれ? これどうやってそっちに行くのじゃ?」

(いや、そんなこと俺に聞かれても)


 というか、あなたは今どこに居るのよ。声は俺の真下から聞こえる気がするし、真上から聞こえる気もする。正直どこに居るのかさっぱり分からないからこちらとしても指示の出しようが無いのだけど。


「いいから! ちょっと待っとれ! ふむ……、どうやら変な干渉場が働いておるようじゃの。お主を媒介にしてそちらに現出すれば良いか。いよっと」


 声の主がそう呟いた途端、俺の真下、かつて身体があったときには胸の存在した位置から前方向に誰かの腕(・・・・)が伸びてきた。


(うぇ!? なに、何なのー!?)


 突然の怪奇現象にパニックになる俺。貞子を吐き出すテレビになった気分だ。気持ち悪い!


「こ、こら、動くな! バタバタするなー!」


 俺が視線を変えると謎の腕も移動する。俺がパニックになったの同様に、声の主もパニックになったようだ。俺たちはしばらくその状態でわちゃわちゃしていた。



 ようやく俺の身体からぬるりと現れた謎の声の主は、やや疲れた様子を見せながらも立ち上がる。その謎の声の主はーー彼女は、ちょっとぶかぶかなYシャツを上半身に、黒いスパッツを下半身に身につけていた。


 しかし、それだけではない。なんと彼女は、ぴんと尖った両耳、耳穴から漏れる白い房毛、背中まで伸びた長い茶髪、大きな瞳に口元からは尖った八重歯を覗かせる、そんな可愛い狐っ娘だったのである。


(あ、ああ……)

「ふふふ、驚いた顔ーー顔は分からんな。だが、心の声を聞くだけでお主が驚いているのがよく分かる。なんせ、夢の中の存在と思っていた儂が実在したのだからの。さあ、これで思い出したじゃろ。お主が授けた儂の名を言うてみい!」


 ビシィ、とこちらを指差す彼女。やや疲れてはいるようだが、嬉しそうな顔である。しかし、俺はそれ以上に嬉しい。なんせ……。


(き……)

「……き?」

(狐っ娘がいるーー!!)


 なんせ、異世界の存在と謳われた狐っ娘が実在したんだからな! うひょー、可愛いーー!! 小首を傾げるその姿も可愛いらしいぞーー!! 生きてて良かったーーーー!!


「ひ、な、なんじゃお主、寄るな、近づくなー!!」

(うひょお、フッサフサだぁ。耳をすりすりしちゃうぞー!)

「い、いいい、いい加減しろーー!!」


 彼女から強烈な一撃をもらうまで、俺の暴走は続いた。



「で、儂の名は思い出せたかの?」

(はい、コンちゃんです。思い出しました。コンちゃんさん)


 彼女にぶたれた部分(頬の辺り)がまだヒリヒリするが、ようやく暴走の止まった俺は彼女と普通に会話できるようになった。


「さんは要らぬ。今まで通りコンちゃんと呼んで良いぞ」

(はい、ありがとうございます。コンちゃん)

「敬語も要らぬ。はあ。それで、夢のことは思い出せたか」


 コンちゃんはため息をつくと、夢のことを訊いてくる。


(うん、思い出せた思い出せた。やっぱりあれは夢じゃなかったんだね)

「まあ、夢といえば夢、現実といえば現実、じゃな」


 唐突に詩人めいたことを言い出すコンちゃん。どういう意味だろう。


「定義の問題という奴じゃの。特に意味は無い。さて、話を戻そうか。すまんの、さっきの風は儂のせいじゃ」


 さっきの風? 


「ラブハリケーンとかなんとか言うてたじゃろ? お主が風を起こしてあの女の下着を見たそうにしてたから、儂が願いを聞き届けてやったのじゃ」


 こんな風にの、と彼女は呟いて指を鳴らす。コンちゃんの四方で旋風が起こり、一部の農作物が被害を被る。わあ、マーテル神が見たら激おこだな。……じゃ、なくて。


(え、ええと? ちょっと待ってちょっと待って。コンちゃん、俺のこと見てたの? ずっと?)

「ずっとじゃないぞ。ついさっきからじゃ」

(それで、ついさっきから俺のことを見て? 俺の心の声を聞いて? イータさんのスカートをめくりたいという俺の純粋な願いを聞いて? わざわざコンちゃんが風を起こしたというの?)

(よこしま)100%だった気がするが、そうじゃな」

(じゃあ、俺のラブハリケーンは……?)


 俺は試しにコンちゃんのワイシャツをめくろうとラブハリケーンで風を起こす。


「涼しいの」


 微風がそよいだ。


(まじか……)


 何たる受難か。せっかく築いたイータさんとの信頼を失うばかりか、ようやく努力の結実したラブハリケーンの出力アップが実は虚構のものだったなんて……。


 俺に膝があったらがくりと地面についていたであろう。それどころか、そのまま倒れ込んでしまったに違いない。それほどのショックを俺は受けていた。


「う……。だから、すまんと言うとろうが。お主の願いを叶えてやったんじゃ。それで相殺じゃろ?」

(猿の手じゃないんだから……)

「すまんのう」


 俺のことを見上げてしょんぼりと耳を垂れるコンちゃん。くそう、可愛いな。許してしまいたくなってしまう。


「本当かの?」


 ピンと耳が立つ。可愛い。


(だが、許さん。……そうですね、どうしても許して貰いたければ、コンちゃんには俺の本当の願いを叶えてもらいましょうかぁ……)

「ほ、本当の願い?」


 俺の様子が変わったのを察したのか、コンちゃんはごくりと唾を飲み込む。


(ええ、そうです)

「ど、どんな願いかの。儂にできることなら何でもーーではないが、可能な限り力になるぞ」


 っち。何でもではないか。だが、まあいい。


(安心してください。コンちゃんにとっては造作もないことですから。もっとも、それを願う身としてはハイリスクハイリターン。まるで天国と地獄。下手をすると、気絶では済まない自体になってしまいますがね……)

「お、お主、いったい何を願うつもりじゃ……?」


 怖れ慄くような表情を見せるコンちゃん。

 ふふふ、聞いて驚け。

 そして我が願いをその身で叶えるのだ!


(……膝枕をしてもらいましょうかぁ)


 コンちゃんは驚いた表情で俺を見ていた。



「……本当に、これで良いのか?」

(ええ、とても気持ちいいですよぉ)

「その喋り方はやめい。怖気が走るわ」

 

 そして俺は無事、膝枕という幸福を得ることができた。近くの川の土手は草原になっており、そこで彼女に膝枕をしてもらっているのだ。


 なお、今は耳かきの段階に移行している。ゴソゴソと触られる耳奥の感触が気持ちいい。そういえば、耳垢とかはあるのだろうか。


「ないぞ。綺麗なもんじゃわ。身体がないから当たり前じゃがな。というか、天国とか地獄とかは何だったのじゃ。仰々しくしおってからに……」

(俺の友人が耳かき中に事故って耳奥まで棒を突き刺されて気絶してな。普通の人だったら死んでたかもしれん)

「そういうことか……」


 驚き、困惑しつつも俺の願いを聞き入れてくれたコンちゃんは、膝枕どころか耳かきまでしてくれた。優しい神様である。

 それにしても、コンちゃんの姿、どこかで見たことあるような……。気のせいかな。


「じゃから、夢の中でじゃろ?」

(いや、それよりももっと前に、どこかで見たことがあるような気がするんだけどな……)


 そんなことを考えていると


「……悪霊さん、何をしてるんですか?」


 と声を掛けられた。


(ん?)

「何じゃ、知り合いか?」


 声の方を見ると、そこには死神さんが立っていた。ひどく、微妙な表情をしている。何だこの表情は。不可思議なものを見るような、おどろおどろしいものを見るような、そんな表情である。


(ああ。えっと、こちらが例の死神さーー)

「って、あれ? これ私のスパッツじゃないですか? どうしてあなたが着ているんですか?」


 俺の紹介を遮って、死神さんがコンちゃんに詰め寄る。


「何を言うとる。これは儂のものじゃぞ。儂への貢物じゃ!」


 体育座りでスパッツをYシャツに隠しながら所有権を主張するコンちゃん。

 だがしかし、コンちゃん。君はひとつ、重大な勘違いをしているぞ。


(おっと、待て待て、コンちゃん。夢では言えなかったけど、そのスパッツは実は俺のものなんだよね)

「違う! 儂のじゃ!」

「私の! 私のスパッツですよ! 返してください!」

(死神さんは俺に献上したでしょうが! 何言ってるんですか!)


 しばらく、スパッツの所有権を巡って言い争いが続いた。

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