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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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who is dreaming?

 コンちゃん(俺命名、本名無し)。可愛いのじゃロリ狐っ娘。男物のYシャツと黒スパッツを装着。死神さんと同じく俺に触れたり他人の心が読める。自称この世界の神様みたいな(・・・・)もん。


 そんなコンちゃんは再び和布団でゴロゴロした後、ややあって「眠れん」と身体を起こした。


「ずっと寝てたからの、少々腹が膨れた程度では眠気も起きんか」

(ずっとって、どれくらい?)

「さあの。前に起きた時はいつだったかのう。眠りについて大分長いとは思うが、もう忘れてしまったわ」


 はあ、と彼女はため息をつく。そして、指をパチンと鳴らすと俺の目の前から和布団が消え、炬燵が現れた。コンちゃんはすでに炬燵に入っている。いや、コンちゃんが炬燵に入ったのではなく、コンちゃんが収まるように炬燵がどこからともなく現れたというのが正しいか。


 テーブルの上にはご丁寧にミカンが一皿添えられていた。


「眠気がくるまで、もう少しゴロゴロしとこうかの。なあ、お主、どうしてここに居るのか知らぬが、しばらく話相手になってくれぬか? 退屈なのじゃ」


 こいこいと手招きするコンちゃん。俺は恐る恐る炬燵テーブルの上に移動した。


(えっと、コンちゃん。この炬燵はどこから……? 布団も消えちゃったけど……?)

「うん? どこから……と問われると、些か回答するのが難しいの。儂の中から出して、儂の中に収めたという表現が適切かの」

(よく分からないけど、コンちゃんが出して、コンちゃんがしまったと)

「うむ。儂の世界なのじゃ。これくらいは造作もない。出すもしまうも創造も破壊も意のままじゃ」


 わあ、神様みたいなことしてる。


「なんじゃ、儂を疑っておるのか?」

(いや、疑うも何も、自分で神様みたいなもんって言ったんじゃないか)

「そうじゃな。神なんて存在せぬからの。想像力豊かなモノ達の妄想に過ぎぬ。じゃから、みたいなもん、なのじゃ」

(えっと、つまり、コンちゃんは神様じゃない、と)

「そうじゃの」


 とあっさりコンちゃんは肯定し、ミカンをわしわしと剥き始めた。


(じゃあ、コンちゃんは一体なんなのさ?)

「なんなんじゃろうな。儂にも分からん。ただ、この世界は儂の夢みたいなもんでの、こんな風に意のままに操ることができる。だから、さっきは神様みたいなもんと答えたのじゃ。そのほうが伝わると思うての」


 コンちゃんが指を鳴らすと、炬燵の横に火鉢が現れた。パチパチと炭が弾けるその上には、お湯の入った鍋が置かれている。酒瓶が誰も触れることなく移動し、そこに収まった。


「熱燗にしたほうが美味そうじゃ」

(さようでございますか)


 指先ひとつで物を出したりしまったり移動させたりと、この狐っ娘は凄まじいな。それでも神様じゃないのか。てっきり死神さんの同僚だと思ったんだけどな。


「あー。そやつら。死神さん、だったかの。さっき布団でゴロゴロしてたときにちょっと探ってみたんじゃが、あやつら、とんでもないの」

(ん? とんでもないって?)

「儂が寝ている間に土足でずかずか儂の世界に入り込んでいたわい。まったく、礼儀知らずどもめ」


 コンちゃんは口を尖らせると、湯煎しているビンを指で軽く弾いた。小さな金属音が響く。


(えっと、やっぱりコンちゃんは死神さん達のお仲間じゃないので?)

「阿呆、違うわ。儂が家主とするならあやつらは泥棒じゃ。仲間のわけ無かろう」


 うーん、なんだろう、よく分かんなくなってきたぞ。

 

 死神さんは以前、『世界を管理する神様が居なくなったので、私達が管理することになった』と言っていた。一方で、神様じみた力を持つが神様でないコンちゃんは、死神さん達のことを泥棒だと言う。


「まあ、この酒は美味しかったからの。すぐに追い出すのは勘弁してやるとしよう」


 コンちゃんは、「あっちっち」と言いながらビンを取り出すと、いつの間にか現れてたお猪口に注ぐ。


「お主も飲むかの?」

(いやー、飲みたいのはやまやま何だけど、身体が無いから飲めないんだよね)


 死神さんのやり方だと、身体に入るだけで味が分からないし。

 

「ん? じゃったら適当な身体を見繕ってやろうか?」

(……は?)


 コンちゃんがとんでもない提案をする。


「いや、『は?』では無くての。儂はこの世界なら思うままにできるから、お主に適当な身体を与えてやろうと思うての。味が分かるものならなんでも良いか?」


 えっと、ちょっと待ってちょっと待って。コンちゃん、俺に身体くれるの? 受肉なの? そんなことできるの? それ、ある意味転生だよね? ミッション達成後の報酬だよね? もらっちゃっていいの?


「早口で何を言うとる。身体、要るのか要らんのか? 酒、飲みたいのか飲みたくないのか?」

(要ります! 飲みたいです!)


 まじかよ! 本当にくれるの!?


「そうか。じゃあ、どんな身体がいいかの? まあ、酒の味が分かればいいのだから、首から上だけやれば良いか」

(よくないです! えっとー、どんなのがいいかなー、どんなのがいいかなー)

「長くなりそうで面倒じゃ。5秒で決めないと勝手に首から上だけにするからの」


 そ、そんな御無体な! 5秒だなんて! ああ、どうしよう。転生後の能力候補は決めてたんだけど、身体の詳細はまだいいかと思って決めてなかった! 


「5、4、3、2ーー」


 無慈悲にもカウントは進んでいく。

 やばい、このままだと妖怪、踊り首になってしまう。早く決めねば! 早く早く早く早く。


「1、ゼロ!」


 無情にコンちゃんの口がカウント終了を宣言する。その間際。 


(コンちゃんと同じで!)


 と俺は叫んでいた。



「ああ、ミカン美味い! 酒が美味い! 空気が肌寒い! 炬燵が、暖かいぞーーーー!! わはははは!!」

「食うのか飲むのか脱ぐのか笑うのか泣くのかはっきりせい。少しは落ち着け、悪霊」


 俺の叫びを聞いたコンちゃんは「なんじゃ、それで良いのか」と言うと、パチンと指を鳴らした。そして、気がついたときには俺はコンちゃんと同じ身体になっていた。コンちゃんが出してくれた鏡には、ぴんと尖った両耳、耳穴から漏れる白い房毛、背中まで伸びた長い黒髪、大きな瞳に口元からは尖った八重歯を覗かせる、そんな可愛い狐っ娘が映っていた。Yシャツとスパッツまで再現されている。


「これが……俺……」

「儂と見分けがつくように色だけ変えといたがの。これで、良いか?」

「ああ、ああ。十分だ、十分だとも!」

「うむ。じゃあ、飲め」

「いただきます!」


 俺は勧められるがままにお酒を飲んだ。忘れていた舌が液体に触れる感覚。喉を焼け付く液体が通り抜ける感覚。済んだ果物の香りが鼻をくすぐる感覚。臓腑に液体がこぼれ落ちる感覚。その全てに大して、俺の心は歓喜に打ち震える。


「……はぁ」


 つーっと。遠くを見る俺の眼から、涙が溢れ落ちる。


「どうした、悪霊。泣いておるぞ?」

「いや、すまん。感極まってな」

「なんじゃ、訳ありか? ほれ、その話も聞いてやるぞ、話してみい。ミカンも食べな」


 コンちゃんは優しくそう言って、俺にミカンを勧めてくる。


 そして俺はミカンを食べ、酒を飲み、服を脱いで風を感じ、喜び、涙した。コンちゃんは「落ち着け」と言うが、これが落ち着いていられる訳なかろう。まだまた身体が存在する幸せを堪能するんだ。げっへっへ。コンちゃん、今夜は寝かさないよ? そう囁くと「バカたれ」と頭を軽く叩かれた。痛い。叩かれて痛いが、痛いことが嬉しい。俺は泣きながら笑い、コンちゃんはそんな俺を見て楽しそうに笑っていた。


 数時間、コンちゃんの出した酒や食べ物を飲み食いし、酔って、吐いて、酩酊した後、俺とコンちゃんは仲良く炬燵の上で酔いつぶれた。テーブルに突伏す俺の目の前には、同様に突伏しているコンちゃんの長いまつげがある。

 

 そう言えば、コンちゃんは女性だったんだよな。そんな彼女の身体になってしまったってことは、女体化してしまったということか。

 ……。

 俺はそっと自分の股間に意識をやるが、酩酊しているためかよく分からない。

 仕方ない、確認は目覚めた後にしよう、そう思って俺は幸せな眠りについた。



 気がついたら、目の前にクリスくんが居た。

 彼はベッドに座り、パラパラと何かを読んでいる。


(あれ……ここは……? コンちゃんは?)


「……え? 悪霊さん、ですか?」


 俺の声が聞こえたのだろう。クリスくんは俺に視線を向ける。


(そうだけどーー。あ、クリスくん聞いてくれ!! 俺な、俺な、ついに俺の身体が復活したんだよ!!)

 

 未だ受肉の興奮冷めず、クリスくんにそのことを伝えると、彼は眉根を寄せて「……はぁ?」と呟いた。


「えっと、悪霊さん、今までどこに居たんですか?」

(まあ、そのことも追々伝えるとして、そこで出会った神様みたいなのじゃロリ狐っ娘に身体を貰ってな。いや、その狐っ娘の身体を貰ったわけじゃないんだが、彼女そっくりの身体でな、それでそれでーー)

「……悪霊さん、夢でも見ていたんですか?」


 彼は、ひどく真顔で俺にそう告げる。


(ははは、夢なわけ……)


 そして、俺はようやく気がつく。声が出ていない。さっき目覚めてから声が出ていない。

 俺は、自分の身体に視線を向ける。そこには誰も居なかった。コンちゃんの身体は無かった。ただ、白いシーツが広がっているだけだった。


 そんな、そんな、そんな、馬鹿なーー。


(あれは……。夢、だったのかなぁ……)


 呆然とする俺の悲しみに、涙はひとしずくも垂れなかった。

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