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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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壊滅都市ヴェルニカ

 都市ウルダースを出て二日が経過した。俺たちは順調にヴェルニカへと進んでいる。


「クリス。あれ何かな? モンスター?」


 突然、助手席のレイジーちゃんが声を出した。何か発見したらしい。


「ん? ちょっと待って。車停めるから……よし。ああ、あれは黒猪ですね。もう夕方ですし、活動を始めたんでしょう」


 双眼鏡を取り出して、レイジーちゃんの指差す対象をクリスくんは確認する。


(黒猪か、懐かしいな。最初に見たモンスターがあれだったっけ)

「ああ、そうでしたね」


 俺はこの世界に転移したばかりのころを思い出す。帝都観光のついでにクリスくんがモンスターを見せてくれたのだ。そのときにベティさんとも知り合ったんだっけ。


(そういえば、あのときクリスくんには酷い想いをさせられたな。黒猪の肉の件でさ。あの後、結局外に行っても猪肉祭りで、大変だったんだぞ)

「あれは悪霊さんが悪いんですよ。ベティ姉さんの提案を断らないから、僕が父さんのファンクラブ会員証を持つ羽目になったんです。仕返しです」

「なんの話?」


 事情を知らないレイジーちゃんが訊いてくるので、俺たちは簡単に説明してあげた。


「ふうん、黒猪のお肉ってそんなに美味しいんだ……」

「そうですね。とはいえ、食料もたっぷりありますしーー」

「じゃあ獲ってきてあげるね。クリス達はちょっと待ってて!」


 助手席から飛び降りて、レイジーちゃんは黒猪のほうへとダッシュする。あっという間に彼女の姿は小粒になった。


「こちらから手を出さなければ、比較的温厚な……行っちゃいました?」

(行っちゃったな。比較的温厚な?)

「生物なんですけどね。まあ、いいか。黒狼の群れを圧倒したレイジーなら勝てるでしょう。黒狼は群れで黒猪を狩りますから」


 なるほど、三段論法だな。強さの順は、黒猪<黒狼の群れ<レイジーちゃん。これなら問題ないという判断だ。クリスくんはレイジーちゃんを迎えに行こうと、黒猪が居る方へと移動を開始した。フロントガラス越しに、レイジーちゃんと黒猪が見える。


 お、レイジーちゃんが黒猪のもとまで辿り着いたな。さすがに速い。ダッシュの勢いそのままに、思い切りその巨体に飛び蹴りをかます。


(お、黒猪が倒れたな)

「そうですね。小さすぎてレイジーの接近には気づかなかったんですかね」

(腹に登って、トドメの一発っと)

「綺麗に入りましたね。さすが、レイジーです」


 こちらに向けてvサインを決めるレイジーちゃん。流石、先祖返り並の実力だ。と、そこでフルフルと彼女の身体が揺れる。急いでレイジーちゃんは黒猪から離れた。


(ん? 黒猪が起き上がったぞ)

「当たりどころが悪かったんですかね。あ、でもレイジーがもう一回突撃しますよ。これで終わりでしょう」

(おー、2回目もクリーンヒット。あいつ、動きがトロいな)

「ダメージが残ってたんでしょう。ん? 今度は倒れないですね」

(そうだな。あ、あいつの突進がレイジーちゃんに当たったぞ。レイジーちゃん、綺麗にふっ飛ばされたな)

「そうですね」

(……)

「……」


 視界の向こうではふっ飛ばされたレイジーちゃんが地面に叩きつけられていた。ダメージは大したことないようで、すぐに立ち上がったが、彼女は全速力でこちらに駆け出して来た。


「クリス、ゴメーン!! 鱗が固くて、私じゃ無理みたいーー!!」

(「は?」)


 黒猪は逃げ出すレイジーちゃんと近づく俺達を認識したようだ。木々をなぎ払いつつ、猛り狂ったようにこちらに突進してきた。


(「はぁああああああんっ!!?」)


 慌てて自動車を反転させるクリスくん。レイジーちゃんも待たずに、彼はアクセルをめいいっぱい踏み込んだ。


(クリスくん! 黒狼があいつを狩りするって無理だろ! レイジーちゃんの攻撃に耐えたんだぞ!)

「そんなこと知りませんよ! 一般常識ではそうなんですぅ!!」

(ライフルはダメか!?)

「レイジーの攻撃に耐えたんです! 無理に決まってますよ!!」


 ドンっと、車の天井から音がする。


「クリス、ゴメンね!」

(「うわっ!?」)


 レイジーちゃんの首が逆さまになって窓の外にぶら下がっていた。先ほどの音はレイジーちゃんが車に飛び乗った音か。


「あいつの身体、固くて全然ダメージ通らなくて」

(済んだことは仕方ない! それよりも、早く入って! 全速力で振り切ります。黒猪では追いつけないはずです!)


 助手席側の窓ガラスが降りると、滑り込むようにレイジーちゃんが入ってきた。


「悪霊さん、どうですか!? 黒猪は!?」

(……おいおい、まじかよ。クリスくん、もっと速度あげられないか!? このままだと追いつかれる!)

「これがめいいっぱいですよ! 何でそんなに速いんですか!」

(俺に言われても!)


 背後に迫る黒猪は徐々に大きくなっていく。どんどん距離が縮まっているのだ。


(……っていうか、黒猪ってこんなにでかかったか? 前に見たときよりも、倍くらいでかいんだけど……)

「え!? ……うわ、本当だっ! おそらくこの辺りの主か何かでしょう。くそ、なんて運の悪い!」


 遠くからだと気づかなかった、とクリスくんは歯噛みする。


(クリスくん、そろそろヤバイぞ!)

「仕方ないですね。レイジー、僕の荷物から黄色いボールと赤いボールを取って下さい。茶色の袋に入ってます」


 レイジーちゃんは言われた通り、2つのボールを取り出す。


「それを、黒猪(あいつ)の顔面にぶつけられる!?」

「やってみる!」


 レイジーちゃんは再び自動車の上へと移動する。狙いを定めて、黄色いボールを黒猪の顔面へと叩きつけた。ボワンと黒猪の顔面から煙が上がる。


(やった!)


 次いで、赤いボールも命中する。黒猪は狂ったように叫びだし、ブンブンと顔を振り始めた。


(何を投げたんだ?)

「煙幕玉と催涙玉です。レイジー、しっかり掴まってて!」


 クリスくんはハンドルを切って進路を変える。車の駆動音で判断したのか、未だ目の見えない黒猪も勢いそのままにカーブを描いてこちらに向かってくる。が、目前にそびえ立つ土壁に気づかずに思い切りそこへと突っ込んで行った。土壁に激震が走り、崩れ落ちた土くれに黒猪が沈む。


「よしっ!」


 その様子を俺から聞いたクリスくんは快哉の声を上げ、自動車を停止させた。


「ふぅ。主に遭遇するとは思いませんでした」

(かなりでかかったな。クリスくんの機転がなければ危なかったかも)

「ですね。催涙玉を作っておいてよかった」

「クリス、ゴメンね」

「済んだので良しとしましょう。でも、レイジー。話は最後まで聞いて。あと、無用な争いは避けよう」

「うん、分かった」

 

 レイジーちゃんが頷いたところで、何かが崩れ落ちる音が聞こえた。次いで、獣の嘶きが大気を震わせる。音のしたほうを見ると、主と思しき黒猪は土くれから脱出しようともがいていた。


「に、逃げるぞー!」

 

 そう叫ぶや否や、クリスくんは自動車を急発進させた。黒猪が遠くに消えるまで、主の嘶きは俺たちの耳から離れなかった。



 二日後、俺達は壊滅都市ヴェルニカへと到着した。


(あれが、ヴェルニカ……)


 ヴェルニカの城壁は一部が抉られたように崩れていた。これでは、モンスターは侵入し放題だろう。


「ヴェルニカの調査は後回しにして、まずは宇宙船墜落現場に行きましょう」

(そうだな。ここからどれくらい?)

「車で30分ほどですね」


 クリスくんは道なき道へとハンドルを切った。今までは2年前まで使われていた道を通ってきたが、こ

こから墜落現場までの道はもとより存在しない。クリスくんはできるだけ振動の少ないルートを選びつつ、地図とコンパスを頼りに慎重に進み始めた。


 結局、墜落現場に到着したのは1時間後であった。


「すみません、時間がかかってしまいました」

(慣れないことしてるんだ。しょうがないよ。とはいえ、ここが本当に墜落現場なのか?)


 当たり一面に荒野が広がっている。クリスくんに言われなければ、墜落現場だとは思いもしない場所だ。


「記録の場所と、僕の読図が正しければ合っているはずです。とはいえ、数十mのオーダーで誤差はありますから少し歩いてみましょう。レイジー、何か思い出さない?」


 車の外に出たクリスくんがレイジーちゃんに尋ねる。


「うーん……」


 辺りを見回すレイジーちゃんは悩む素振りを見せるが、結局最後まで浮かない顔をしていた。。


「よく、分からない」

「そうですか」


 しゅんとなるレイジーちゃん。記憶を思い出す手がかりになるかと思ったけど、駄目だったか。


 小一時間ほどその辺りを探索していたが、結局、収穫はクリスくんが小さい金属片を拾ったくらいであった。


(それは、宇宙船の欠片?)

「分かりません。後で調べてみますが、これくらいしか人工物はありませんでした。場所が間違ってないとすると、宇宙船墜落の痕跡は隠されてしまったのでしょう」


 予想はしていましたが、と言って彼はため息をつく。やや気落ちした様子のクリスくんと一緒に、俺達はヴェルニカへと戻った。



 さっき見た時は気づかなかったが、城門のひとつの扉が壊されていた。ここからなら自動車の進入も可能だろう。俺たちはその城門からヴェルニカへと侵入した。


「モンスターの気配は……ないですね」

「……匂いもしないかな」


 レイジーちゃんはすでに車の上に居る。急襲に備えて動きやすい場所へと移動したのだ。


(そうか。じゃあ、モンスターの巣窟になってるって話は嘘かな)

「どうでしょう。あれから2年は経ってますから。ヴェルニカも広いですし、ここに居ないだけかもしれません」


 城壁の中を俺たちは移動する。崩れた家々。緑に侵食された道路。廃墟となった町並みが眼前に広がっていた。


「モンスターにやられたのか、そうじゃないかは分かりませんね」

(そうなのか?)

「ええ。小銃の銃痕が無数にあるのであれば、人の手によるものと分かるんですけど。モンスター相手であれば、小銃は使いませんから。2年前の事件で、ヴェルニカの人間のほとんどーーおよそ数万人が死亡したとされています。それを小銃で殺し回ったら、銃痕が到るところにないとおかしいんですけど……」


 顔色ひとつ変えずにクリスくんは説明する。


(数万人……か。モンスターに襲われたなら、もっと骨とか転がっていても良さそうなものだけど……)

「骨も残さず食べるモンスターも居ますから。そいつらに食べられてしまったのでしょう」


 骨も残さず……か。まるでハイエナだな。

 記録のため購入しておいたビデオを回しつつ、俺達はヴェルニカを回る。結局、モンスターの姿を一度も見ることなく、日が暮れてしまった。


「仕方ないですね。今夜はここで休みましょう」


 はあ、とため息をついて、クリスくんはそう俺たちに提案するのであった。

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