表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
121/182

第二都市リーゼンベルグ

 国境超えから数日後。商隊は無事、レイダースの第二都市リーゼンベルグへと辿り着いた。


 レイダースは帝国の東に位置している。リーゼンベルグは帝国の国境とレイダースの首都との間にある都市だ。首都はここよりさらに東に進んだ場所にあるらしく、ケイト達は首都へと進み、俺達はここより北にあるヴェルニカ都市跡を目指す。彼女たちとはここでお別れだ。


(道中、それほど大きなモンスターは出てこなかったな。黒虎とか黒猪とか)

「定期的に軍が討伐するから、道沿いは割と安心なのよ。念のため、彼らの嫌う超音波も出してたし」


 ケイトは商隊を先導していた護衛車両を指差す。その車両に超音波を出す装置が搭載されているようだ。


「まあ、アルみたいな不幸体質者が居なければ、大型モンスターに襲われることは滅多にないわね」


 そう言って、ケイトはクスリと笑う。

 であるならば多分大丈夫だな。クリスくんには神様の加護がついていることだし。


(……そういえば、目下絶賛不幸体質のアルは無事故郷にたどり着けたのかな。何か聞いてる?)

「さあ? 私は世界中を周ってたし……」

「ライブ前の時点では、故郷に着いたという便りは来てませんね」


 聞き耳を立てていたクリスくんが答える。


(……どう思う?)

「まあ、便りのないのはよい便りと言いますし……」

「そうね、多分大丈夫でしょ。多分……、多分……」


 二人はそっぽを向いて答える。心なしか声の大きさもさっきより小さい。二人共、自分の言葉に自信はないようだ。アル、無事だといいな……。


 

 レグルス商会の直営店で、クリスくんとレイジーちゃんはトラックより降ろされた。ここで、商隊のみんなとはお別れらしい。見送りに来てくれたのは、商会長とケイト、それに何かと二人の世話をしてくれたハイデルとキーネの四人だ。


「見送りが少なくてすまんな。皆と一緒に盛大に見送ろとしたのだが、こいつに怒られてな。ついでにリーゼンベルグの美味い飯でもご馳走しようと思ったが……」

「クリス達はお忍びなんだから、目立っちゃ駄目でしょ」

「いえ、お気持ちだけで十分です。ありがとうございます。お世話になりました」


 商会長さんはケイトに怒られている。ケイトの父親である彼は細目のマッチョさんだ。陽に焼けた黒肌に、整えられた髭、短く固そうな髪は空に向かってツンと立っている。娘に甘く、社員に厳しい性格だ。どことなく、前の世界のグランさんに似ていた。


「クリストファー。旅に必要な荷物はまとめておいた。確認してくれ」

「ありがとうございます。助かります」


 ハイデルは持っていた大きなリュックをクリスくんに渡す。


「足はあるのか?」

「これから調達します」

「そうか。新車ならこっち、中古ならこっちの店に行くと良いだろう」


 地図を片手に説明するハイデルさん。実に面倒見がいい。最初にキツく当たっていたのは、クリスくん達を心配してのことだったのかな。


「キーネ、ばいばい」

「レイジー、元気でね。それは後で食べてね」


 キーネさんはレイジーを愛称で呼ぶようになっていた。いつのまに仲良くなったのだろう。二人は手を振って別れの挨拶をしている。レイジーちゃんの手には先程キーネさんより渡された手提げ袋があった。餞別を貰ったらしい。お菓子か何かだろうか。

 

「クリス、あとこれも」

「……ああ、これは大事ですね。助かります」


 ケイトがクリスくんに渡したのは2枚のカード。クリスくんとレイジーちゃんの顔写真がそれぞれに付いている。


(それは?)

「レイダースにおける身分証ですよ。偽造してもらいました」

(え……。レグルス商会って、そんなこともしてるの?)

「うちじゃないわよ。仲介しただけ。こっそりとね」


 しーっと、ケイトは人差し指を口に当てる。いや、誰にも喋らないけどさ。何で偽造屋と繋がりがあるんだろうな。不思議不思議。


「悪霊さん。世の中には、知らないほうがいいことが沢山あるんだよ……」


 にこにこと彼女は笑う。うん、よく知ってますよ。現に今、秘密を知ってしまったクリスくんが指名手配されてるもの。


「それじゃあ、皆さん、お世話になりました」

「うん。また何かあったら言ってくれ。力になるぞ」

「クリス、無茶しないでね」

「クリストファー。お前に何があったか知らないが、負けるなよ。グレイジーはお前が守ってやれ」

「レイジー、元気でね」

「うん。キーネも」


 こうして、俺達はレグルス商会の面々と別れた。これからは、クリスくんとレイジーちゃん、それに俺だけでいろいろと対処しなくてはならない。見知らぬリーゼンベルグの道を俺たちは地図を頼りに進み始めた。


(なんか、ちょっとだけ心細いな)

「悪霊さんはケイト達についていっても別にいいんですよ?」

(バカ言え。二人のことが心配だからついていくよ。大したことはできないだろうけどさ)

「はは、ありがとうございます。でも、大したことできないこともないと思いますけど。正直、悪霊さんが居てくれるだけで随分と助かると思いますよ」


 またまた、そんなこと言って。おだてても風しか出ないからな。


「いや、本当に」

「クリス、私も頑張るからね」


 ふんと鼻息を張り上げて、レイジーちゃんが俺と張り合う。


「はいはい、レイジーも頼りにしてますよ」


 クリスくんがそう言うと、えへへーと彼女は嬉しそうに笑った。


(でも実際どうなんだ? ヴェルニカ都市跡まで子供二人だけで行くのは、かなり危ないんじゃないか?)

「悪霊さん、ここは悪霊さんの元いた世界とは違うんですよ。15歳はもう立派に大人です。就職だってしていましたし」


 う。多分そんな意図はないんだろうけど、クリスくんが俺の無職歴を煽ってくる。


(でもさ、ケイト達みたいに護衛の人を雇うのもありだろ? 幸い、お金に余裕はあるみたいだし)

「うーん、賢明じゃないですね。誰から僕たちのことが漏れるか分かりませんし、頼る人間は最小限にしたいです。それに、行き先は立入禁止区域のヴェルニカです。護衛を依頼しても誰も引き受けてくれないでしょう」


 さようでござるか。でも、だったらモンスターはどうするんだ? モンスター避けの装置はあるとしても、それで全て対処できる訳ではないし……。


「私が全部倒す?」


 小首を傾げてレイジーちゃんが尋ねる。冗談を言っている……ようには見えないな。


「レイジーはモンスターを斃したことあるの?」

「ないけど、黒虎程度(・・・・)なら多分倒せる」


 平然と彼女は言い切った。ためらいも気負いもない。レイジーちゃんは黒虎と相対した経験がある。そのときに、アルを庇って彼女の左腕は潰されていた。それでも、その経験があっても、なお自信満々に彼女は言い切った。実際、どれくらいレイジーちゃんは強いんだろう。


「……まあ、レイジーは最後の手段としましょう。っていうか、みんな酷くありません? 僕だって戦力になると思うんですけど……」


 ははは、何を言ってらっしゃる。兵役経験無し、城壁を登っただけで息の切れるクリスくんに何ができますやら。


「む。僕だってモンスターを斃した経験くらい、あるんですからね」 

(え? 本当に?)


 正直、信じられない。


「……分かりました。論より証拠ですね。いいでしょう。今日は物資の購入だけして休もうと思ってましたが、予定変更です。自動車を買ったら銃砲店に行きましょう。武器を調達して、既存戦力を把握しましょうか」


 お互いに、と彼は自分とレイジーちゃんを交互に指差すのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ