表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
116/182

帝都脱出

 まだ陽光の冴えない夜明け時。俺とクリスくん、それにレイジーちゃんはトラックのコンテナの中に居た。コンテナの中には大量の木箱がところ狭しと並んでいる。暗闇に紛れるように、二人は身を潜めていた。


 やがて、トラックは動き出す。トラックの行き先はレイダースだ。木箱の中身は全て輸出用の商品である。つまるところ、クリスくんの作戦は商隊の荷物に紛れて帝都の脱出を試みることだった。


 しばらくすると、トラックは停止した。すり抜けして様子を見てみると、城壁近くまで進んでいたが、まだ帝都の中らしい。数台のトラックが門の前で停止している。検閲をしているようだ。帝都脱出の最初の関門である。ここで見つかってしまったらすべてがパーだ。


(二人共、検閲が始まった。そろそろこのトラックにも来るから、心の準備をしておいてくれ)

「了解です。レイジー、物音を立てないでね」


 小声でクリスくんが答える。レイジーちゃんはコクンと頷き、ぎゅっとクリスくんに身体を寄せる。彼はレイジーちゃんの頭を撫でると、自身も息を潜めた。


 しばらくするとコンテナの扉が開いた。ライトを片手に二人の作業員が入ってくる。


「酒と食料と……。おい、これは何だ? 割れ物って描いてあるが……」


 やけに大きな木箱を指さして、作業員のひとりがコンテナの外に居る人物に尋ねる。尋ねられたのは商隊のメンバーのひとりだ。


「ああ、それは芸術品ですよ。一点ものでしてね。急遽、取り寄せて欲しいと依頼が来まして、仕方なくこのコンテナに」

「芸術品……? ああ、リストの最後のこれかな」

「一応、改めさせてもらうぞ」

「面倒なので、梱包は解かないでいただけると助かるんですが……」

「そういうわけにも行くまい。悪いがこれが仕事なんでな。中身が分かる程度に解いてくれ」

「……分かりました」


 商隊のひとりは渋々了承すると、梱包を解いていく。木箱を空け、緩衝材を取り、ビニール袋に包まれたそれは、言葉で形容するのも難しい芸術品であった。ガラスと針金とよく分からない物体で構成された、透き抜ける形状の『何か』である


「……何だ? これは」

「ですから芸術品です」

「そうか。相変わらず芸術というはよく分からんな。だが、このすっからかんな状態では何かを隠すこともできないだろう。よし、いいぞ。次のコンテナに向かう」


 芸術品にはどう見てもものを隠すスペースなど無かった。そのため、作業員は問題なしと確信していた。二人の作業員はコンテナから外に出る。残された商隊のひとりはため息をついて梱包し直すと、自分も外に出てコンテナの扉を閉めた。再び、コンテナ内部が暗闇に包まれる。


(検閲が済んだぞ。もう大丈夫だろう)

「そうですね。念の為、城壁を抜けるまでは大人しくしてましょうか」

「もう少し?」

「そうだね。あ、レイジー、ちょっと力を抑えてくれる? 腕が痺れて……」

「あい」


 暗闇の中、密着した二人はもぞもぞと動いていた。体勢を変えているのだろう。まあ、この狭いスペースに押し込められたら、窮屈なのも無理はない。


 やがて、トラックは動き出した。無事、すべての荷物の検閲が済んだのだろう。トラックは順調にスピードを上げていく。道路から荒れ道に変わったのか、騒音が大きくなり、時折大きく振動し始めた。


 ゴンゴン、と壁の向こうから2回叩かれる。


「クリス、レイジー、しばらくは大丈夫だよ。ちょっと開けるね」


 よっ、という声がして、二人の頭上から光が差し込まれる。


「……わあ。やっぱりそこは狭かったかな」


 窓から覗き込んだ人物ーーケイトは、二人がくっついている様子を見て、ニヤニヤ笑みを浮かべていた。



 クリスくんは高セキュリティ部屋に侵入する前に、ケイトにコンタクトを取っていたらしい。といっても、彼女に手紙を出しただけらしいが。内容は密輸について。ひとり、あるいはふたりの人間を帝都の外まで脱出させ、できれば外国まで届けることがその内容だ。


「別に、ケイトのレグルス商会の依頼しようとは思ってませんでしたよ。別の、それを得意とする(・・・・・・)業者を紹介してもらおうと思ってたんです」


 と、クリスくんは後に言っていた。


「さすがに友人に危険な橋を渡らせるのは僕も嫌でしたから。ーーえ? 指名手配されてなかったら? そのときはもう一通手紙を出すか、ケイトが帰ってくる前に適当に事情を話して取りに行く予定でした。ーー紹介するのすら断られたら、ですか? そうですね。少々危険ですが、自分の脚で探しましたよ。秘密基地から抜け出してね。でも、蛇の道は蛇、といいますか、僕よりも同じ商人に探してもらうのがずっと効率的だと思いまして。ーーもちろん、密輸業者が居なかったらどうしようもないですが、そんなことはないでしょう。悪霊さん、黒虎騒ぎを忘れたんですか? あのとき、黒虎に殺された人物はたったひとりです。黒虎密輸がたったひとりでできるわけありませんし、ベティ姉さんからそれに関する逮捕者がでていたとも聞いていません。つまり、まだ横の繋がりが残ってるんですよ。居ないわけが無いんです」


 というわけで、クリスくんの作戦は密輸業者に脱出の手伝いをさせること。表向きの報酬は今まで貯めていた給料で賄い、裏向きの報酬は黒虎密輸の黙秘であった。後者の報酬はハッタリをかけるつもりだったらしいけど、結果としては必要なかった。なぜなら、ケイトのレグルス商会が密輸を引き受けてしまったからだ。


「大きな声じゃ言えないんだけどね。密輸はどこの商隊でもやってるし、帝国もそれで利益を得ている部分があるから、大鉈振ることもできないの。ーーえ、うち? いやいや。うちは公正明大な貿易業者ですよ。密輸なんてするわけないじゃないですか」


 とは、ケイト談。細目をますます細め、にこにこ笑いながら彼女は語ってくれた。おいおい、アンナ。どこが箱入りだよ、ケイトは随分としっかりものだぞ。


「でも、今回は別。友人の、クリスの、滅多にない頼みだからね。できるだけ力になってあげたいし、それに父が乗り気なの。昔、私もまだ本格的に仕事を手伝う前のことだけど、オスカー隊長に命を救われたことがあったらしくてね。それも、一度とならず何度も。その恩を返すチャンスだと張り切ってたよ」


 オスカー隊長が話題に出たところで、クリスくんは一瞬だけ驚き目を伏せたが、すぐに笑顔になって「そうでしたか」と答えた。ケイトにはクリスくんの知った秘密を明かしていなかったのだ。


 というわけで、二人は今レグルス商会の商隊に便乗し、一路レイダースを目指している。検閲で彼らが見つからなかったのは、通常の出入り口からは隔絶されたコンテナの隠しスペースに居たからだ。コンテナの運転席側を細く区切るようにして設けられた隠しスペースである。


 なぜ普段密輸しない商会のコンテナにこんなスペースがあるかは疑問だが、ここなら検閲にも引っかからないと、ケイトは自信満々に言っていた。本当に、なんでこんなスペースがあるんだろうな。


「きっと、神様がクリスに手助けしてるんだね」


 にこにことケイトは嘯いていた。間違いなく確信犯だろう。だが、まあ、そういうことにしておこう。実際、クリスくんとレイジーちゃんには神様の加護がついてるわけだし。


 俺はコンテナの天井をすり抜け、あたりの様子を伺う。周りには数台のトラックが走っていた。すべてレグルス商会のものだ。元いた世界のものと比べると、ゴツい装備がてんこ盛りとなっている。モンスター対策らしい。


 商隊のトラックを挟むのは護衛の車両。いつも雇っている人達らしい。こちらは更にごつい装備がてんこ盛りだ。


 そして、その一隊を囲うのは帝国軍第七分隊の遠征隊。遠征の行きがけの護衛任務だが、偶然にも対象がレグルス商会になってしまった。ここからでは分からないけど、どこかにベティさんが居るはずだ。


「2、3日したら軍とは別行程になるから、それまでは窮屈だろうけどここに居てね」

「分かりました。レイジー我慢でき……」


 クリスくんはケイトへの返答を濁す。


「どうしたの?」

「レイジー、寝てますね。眠れなかったのかな?」


 すやすやと、クリスくんにもたれるようにレイジーちゃんは眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ