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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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不確かな記憶

 クリスくんが必死に問い詰めるも、結局レイジーちゃんは何も答えられなかった。クリスくんの剣幕に押されて何も言えなかった、というわけではない。いつもと様子の違う彼に多少は気圧されたものの、彼女は真剣にクリスくんの質問に答えようとしていた。


 それでも、レイジーちゃんは彼の期待する答えを出すことができなかった。なぜならば、彼女自身、気を失う直前のことを思い出せなかったからだ。


 オスカー、フェルナンデス、セドリック。そして、ストークス号。


 彼女が気を失う直前に呟いた固有名詞。これらのことを、彼女は口にしたことすら覚えていなかった。


 オスカーとフェルナンデス、セドリックは人の名前らしい。この三人はガイアへと向かった乗組員のようだ。そして、ストークス号とはガイアへと向かった宇宙船の名称なのだが、一般に公開されなかった(・・・・・・・・)名前らしい。


 世間一般の知る宇宙船の名前はテラ・マーテル号といった。この正式名が決まる前まで、開発者や乗組員といった数少ない関係者のみが使用していた仮称が「ストークス号」である。秘匿されていた名前ではないが、一般人であれば知っている人は数えるほどもいない。事実、ベティさんやアンナはこの名前に聞き覚えはないようだ。クリスくんは父であるオスカーより何度も「ストークス号」という単語を聞かされていたので覚えていたらしい。


(そういえば、ストークス号のあとに「あっくん」って言ってたよな。確か、スケッチブックに描いてあった棒人間の名前だったと思うが、何か関係があるのかな。クリスくんは何か知ってる?)

「いえ、知りません。『あっくん』という名の棒人間を描いていたのは知っていますが、てっきり昔の世話人のことだと思ってました」


 『あっくん』についてレイジーちゃんに聞いてみたが、こちらも要領の良い返事はなかった。彼女自身、『あっくん』の顔は覚えているらしいが、それがストークス号に関係しているかは定かでないらしい。ただ、実験塔の世話人ではないらしく、昔、優しくしてもらった記憶だけがあるという。


「世話人でもないけど、優しくしてもらった人、ですか……。カールさんに聞けば分かるかなー」


 うーんと、クリスくんが首をひねる。


「ん? ちょっとレイジー。熱があるんじゃない?」


 ベティさんが彼女の額に手を当てて言う。クリスくんも確認するが、確かに少し熱があるようだ。さっき気を失ったことが原因かもしれない。彼女は「平気だよー」と言っていたが、あまり無理はさせられない。


 レイジーちゃんの体調が芳しくないので、アルの無職を慰める会はこれでお開きとなった。クリスくんの家の前でアル達三人とは別れた。ベティさんの酔もすっかり醒めてしまったようで、クリスくんとベティさんと俺とでレイジーちゃんを送ることになった。



 実験塔にレイジーちゃんを無事送り届けた後、このことを報告しようとカール准教授の居室を訪ねたが、彼はすでに帰宅していた。もう夜半も過ぎていたし無理もない。とりあえず、レイジーちゃんの体調面の報告だけは隣の居室に居たカール准教授の研究メンバーに報告しておいた。彼は特に気にもせず、「ああ、またですか。よくあることです。一応モニタリングしておきますね」と言っていた。クリスくんには知らされていなかったらしいが、どうやらときどき体温が高くなるらしい。「そういうことは事前に言っておいて欲しかったですね」と、部屋を出た後で彼は愚痴っていた。


「報告は僕からしておきましょう」

「いや、それには及ばないよ。レイジーのお目付け役は私なんだから、私がしておく」

「そうですか。でしたら詳しい話は僕に訊くようにと、カールさんへ報告しておいて下さい。ちょっと僕も話したいことがあるので」

「そうなの? 分かった。そう伝えとく」


 報告の打ち合わせだけ済ませると、寮の前でクリスくんはベティさんと別れた。


(話したいことって?)

「レイジーの体調の件もですが、病院送り事件といい僕に隠されていることが多いと思いまして。ちょっとその辺を突っついてみようかと思いましてね」


 早口で彼は言う。


(……クリスくん、怒ってる?)

「怒ってはないです。ただ、分からないことが多すぎて、イライラしてます」


 それを怒ってるって言うんじゃないかなと思ったが、口に出すと余計に彼がイライラしそうなので黙っておくことにした。


 せっかくレイジーちゃんが外に出られるようになったが、先程クリスくんが彼女にきつく当たったので、クリスくんとの仲は一歩後退といったところか。この分だと、俺が恋のキューピッドになれるのは当分先のようだ。まあ、焦ってもいいこと無いし、ラブハリケーンの訓練もしつつ、じっくりと見守ることにしよう。

ピンポーン。レイネット家のチャイムが鳴る。


ラインハルト(ベティさん何の用だろう。夜に俺ひとりだけを呼び出すなんて……。そういえば、ベティさんはまだ独身だったよな。結構、美人なのに他の男は見る目がないのか? やばい、ちょっとドキドキしてきた。……反応がないな。ベティさん、寝てるのかな……)


ピンポーン。誰も居ないレイネット家のチャイムが鳴る。

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