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異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する  作者: 珉珉×打破
第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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宴会

 夕飯の準備ができたので、俺達は乾杯する。テーブルには所狭しと料理が並べられていた。中央の籠からバゲットが溢れ、大皿にはサラダ、ステーキ、魚のフライなどが山のように積まれている。各自が好きに取っていくスタイルだ。スープだけは個別の器に満たされている。


「うーん、おいっしー!」

「すご……。これ、本当にクリスひとりでつくったの?」


 料理をひとくち食べたケイトが驚嘆する。


「こら、俺も手伝ったんだぞ? といってもほとんどクリスだけどな。すごいだろ」

「美味しい。……ねえ、クリス。うちに嫁に来ない?」

「え、嫌です」


 アルがクリスを褒め称え、アンナはクリスを真顔で口説き、クリスくんは即座にお断りする。


「そこを何とか。家政婦でもいいから」

「何でランクダウンしてるんです? さては料理が目当てですね」

「ばれたか。ならば仕方ない。交換条件だ。こちらは無職のアルをあげよう。こき使ってやるといい。それでどうだ?」

「おいこら」

「どうだ、じゃないですよ。要りませんし、不釣り合いです」

「っち。使えないなー」

「おいお前ら。温厚な俺でもそろそろキレるぞ? いいのか? 俺が四六時中付きまとってもいいのか? 俺の不幸は周りを巻き込むぞ?」


 真顔の冗談はアルを巻き込んで続いていく。それを見てケイトは笑っていた。この四人は本当に仲が良いな。


「クリス、おかわり!」


 早くもスープを飲み干して、レイジーちゃんがクリスくんに二杯目を要求する。彼は「はいはい」と返事して器を受け取ると、キッチンへと引っ込んだ。


「クリスー。お酒切れたから取ってー」


 ベティさんはビンを逆さにして最後の一滴までグラスに注いでいる。ケイトが持ってきたワインボトルは既に空であり、これはベティさんが持参したものだ。彼女の顔は既に赤くなっている。お酒には強くないのかな。


「ベティ姉さんあんまり飲みすぎないで下さいよ。明日仕事は?」

「大丈夫、明日も休みだから。諸月の後片付けも一段落したから連続休暇申請したんだ。ふっふー。君たち、今夜は寝かさないよ」

「冗談言わないでくださいよ。僕は明日も仕事ですし、レイジーは今夜にも送り届けないといけないんですから。あと一杯だけですよ」

「えー、ケチー」

「ケチじゃないです。というか、一応今仕事中ですよね」


 ベティさんには外出中のレイジーちゃんを見張らなければならない。これは彼女から周囲を守るためであり、彼女を周囲から守るためでもある。大切な実験体であるため、くれぐれも怪我などさせないようカール准教授から念を押されていた。定期的に指を切り取っているくせに、よく言うわ。


「そう。クリスはケチー」

「レイジーは黙ってて」


 クリスくんはレイジーちゃんに器を手渡す。彼女はすぐにスープに夢中になった。


「仕事ー。仕事かぁー」


 ベティさんは「うーん」と頭を唸ると懐から何かを取り出した。


「パンパカパッカパーン、パパーン。軍用無線ー」

「何ですかその効果音」

「やるべきだと思って。さてと、まだ繋が・る・か・なー」


 ベティさん耳にイヤホンを忍ばせ、四角い道具を弄る。相手に繋がったのか、彼女は喋りだした。


「あ、レイカ? 私だけど。まだそっちにハルっち居る? ……うん、そう。場所はーー」


 この家の住所を告げると彼女は無線を懐にしまった。


「さて、仕事は後から来る後輩くんに任せるから、飲んでいいよね、ね?」

「……ラインハルトを呼んだんですか?」

「うん!」


 ベティさんは満面の笑みで頷く。クリスくんはため息をついて「勝手にしてください」と言った。諦めたらしい。ベティさんは缶ビールを受け取ると、それをグラスに流し込む。


「ぷはー。生きてるって、気がするぜー」


 口元に白ひげをつけてオヤジ臭い台詞を吐くベティ(アラサー)さん。


「なんか思ったよりも普通の人だな。もっと厳格な人だと思ってた」

「厳格? ベティ姉さんはその対極にいる人ですよ」

「ニュースで見る姿と全然違う……」


 みんなは口々にベティさんを語る。


 ちなみにこの世界にはテレビが普及している。電波放送らしい。ニュースも放送されており、天気予報に続いてモンスター予報が流れたりする。第七分隊の分隊長であるベティさんはときどきテレビに出演しているらしい。そのときのイメージとは違うようだ。なお、クリスくんには部屋にテレビはない。ニュースなんかは研究室に置いてあるパソコンでチェックするという。


 ベティさんが予想以上にくだけた人であったため、初対面であるアル達の緊張はすっかりとけてしまった。みんな和気藹々に過ごしている。


「そういえば、悪霊さんが前に言ってた『イセカイ』だっけ? あれは結局何だったの?」


 テーブルの料理が8割方胃袋の収まったところで、ベティさんが尋ねてきた。


「あ、例の悪霊さんの話? えっと、レイジーちゃんのお父さんの幽霊なんだっけ?」

「違いますよ。ただ似てるってだけです」


 アンナの疑問にクリスくんが答える。黒虎騒ぎでアンナ達にした説明も中途半端だったし、この場でちゃんと説明しておこう。



(ーーというわけで、なんか知らないけど別世界の幽霊になってたんだ)


 死神さんのことは話せないので、そのあたりはクリスくんに説明したときと同じように「よく分からない」で押し通した。


「不思議な話もあるもんだな」と、全面的に信じたアル。

「そうなんですね。可哀そうに」と、目元を抑えるケイト。

「良かった……。私、霊感に目覚めた訳じゃないんだ」と、胸を撫で下ろすベティさん。

「え、胡散臭い……。クリスはこれを信じたの」と、眉根を寄せるアンナ。


 四者四様の感想である。


「まあ、話半分に聞いてますよ。全面的に信じているわけではありませんけど、すべてをでっち上げられるほど悪霊さんが嘘に秀でた人間とも思えませんし」

(褒められたのか貶されたのか、よく分からんな)

「褒めてるんですよ」

(そうか。ならば良し)

「……ん? ちょっとまって。気がついたんだけど、悪霊さんってその気になればみんなの裸、見放題ってこと?」


 はっとしたようにアンナが言う。


(安心してくれ。女性の身体は既に見慣れている。今更積極的に見ようとも思わん)


 前の世界の変態達が脳裏に浮かぶ。正直、もう裸体を見ても何とも思わない。


「安心できるか! 見ようと思えば見れるってことじゃないか! ケイトも何とか言ってやれ!」

「え? でも、悪霊さん結婚していたそうですし、大丈夫じゃないかな。奥様に操を立てているのでしょう?」

「これだから箱入りは……!」


 ケイトの危機感の無さにアンナは頭を抱える。


(あーうん。そうそう。俺、マイワイフ、一筋だから。それ以外の女性に興味ないから)


 ここはケイトに乗っかっておこう。娘がいることになってるし、そのほうが都合がいいだろう。


「本当かなぁ……」


 口を真一文字に結ぶアンナ。かなり疑っているようだ。


「さーて、悪霊さんのお話も終わったことだし、次は私の番だね」

(あれ? ベティさんも話すことあったっけ)


 ベティさんの目がキラーンと光った。


「もちろん。オスカー隊長の英雄譚をこれでもかってくらいに語ってあげるからね!」


 げぇっ! まだ語り足りなかったのか!


「あ、私、聞きたいです」

「私も。オスカー隊長の知り合いから直に聞ける機会なんて、滅多にないです」

「ましてや後継者であるエリザベス隊長からだもんな。公開されてないマル秘情報も聞けるかもしれん」


 アンナ、ケイト、アルの三人がベティさんに同調する。オスカーさんって本当に有名なんだな。この三人も興味津々じゃないか。


「あ、僕洗い物しときますね」


 クリスくんが空いたお皿をまとめて席を立つ。逃げる気だな。どうしよう、俺も逃げようか。


「じゃあ、君たちにもこれをあげよう。オスカー様ファンクラブカード。クリス、悪霊さんのも出してあげて。仲間外れは可愛そうだから」


 ベティさんはレイジーチャン含め、みんなにカードを配る。三人は「ど、どうも」と微妙な顔して受け取っていたが、ベティさんは気にしていないようだ。クリスくんも財布にしまっていたカードを取り出す。一応、律儀に持ち歩いているらしい。


「オスカー……?」


 カードの写真を見たレイジーちゃんが呟く。


「そう。これがオスカー隊長。クリスくんの父親だよー」

「オスカー……オスカー……オスカー……」


 レイジーちゃんは繰り返しクリスくんの父親の名を呟く。


「レイジー?」


 ベティさんの呼びかける声も聞こえないようだ。彼女は焦点の合わない目でカードを見つめている。


「オスカー……フェルナンデス……セドリック……」


 彼女はさらに名前を呟く。聞き覚えのない名前だ。


「ストークス、号……、あっくん?」


 そう呟いた後で、彼女の身体からふっと力が抜けた。


「危ない!」


 慌ててベティさんが倒れる彼女の身体を支える。


「ちょっと、レイジー。大丈夫!」


 ベティさんが何回か呼びかけると彼女はすぐに目覚めた。


「あれ? ここは……あ、クリスの家か。ちょっと寝ちゃってたかな」


 彼女ははにかんだように笑う。


「レイジー! どうして君が、その名前を知っている!?」


 クリスくんがレイジーちゃんの肩を掴んで叫んだ。


「クリス? 何のこと?」

「ストークス号は僕の父さんが乗った船の名前だ。どうして君がそれを知っている?」


 クリスくん何時になく真剣な表情をしていた。

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