デパートでお買い物
体育が終わり、今日の授業が全て終了した。ショートホームルームを終えると時刻は午後三時四十分。リリスの家に向かうのは少々早いので、俺はネームを書き進めてから向かうことにした。
昨日は三分の一ほどでかしたところで終わった。話の内容的には主人公の両親が殺されてしまったところまでである。
次に描くには復讐を誓った主人公がマッドサイエンティストである、赤羽風裏に自分の体を改造するように依頼するところである。
人体実験を終えると、サイボーグ姿になった、かっちょいい姿の主人公がバーンと大ゴマで登場する流れとなっている。
俺はコマ割りをし、セリフを考え出していった。ああでもない、こーでもない。悪戦苦闘していると、突然話しかけられた。
「か、鍵村君。ちょっといいかな?」
話しかけてきたのは今泉だった。ネームに夢中だったため、結構驚いた。
「うわ! 今泉、どうした?」
今泉は言いづらそうにモジモジとしている。
「ごめんね。驚かせて。い、一緒についてきて欲しいところがあるんだけど……いいかな?」
「へ?」
そんなわけで俺と今泉は某都内の大型ショッピングセンターへとやってきた。
何故、こんなところに来たかというと、
「弟の誕生日、何を選んだらいいか分からなくて付き合って欲しんだ」
とのことであった。少し浮かれていた自分が恥ずかしい。この童貞天使が。夢みるんじゃあない! 心の中でビシッと自分に注意をした。
「鍵村くんはさ、何をもらったら嬉しい?」
突如、今泉は俺の欲しいものを聞いてきた。
「あーそうだな、うーん……」
俺は悩んだ。欲しいものか。一番はギャルゲだが。そんなことを今泉に言う勇気はない。言ったら真面目そうな今泉はドン引きするだろう。だがしかし、
「げ、ゲームとかかな?」
「へー! 鍵村くんゲームするんだ!」
男子高なら普通のロールプレイングゲームくらいはするやつ、たくさんいることだろう。
「まぁときどきはな」
時々どころかほぼ毎日やってますけどね。もっともロールプレイングゲームではなく、ギャルゲだけども。
「何のゲームするの?」
あかん、ゲームしているなんて言うもんじゃなかった。最近、ギャルゲしかしてねぇもん。
むしろあれか? タイトル言ってもばれないか。でももし、「うーん、聞いたことないな。よし! 検索しよ!」とか言い出し検索を始めて、画像検索の上位検索で卑猥なイラストを見てしまったらドン引きすることだろう。
今泉がギャルゲの画像を見たら、「か、鍵村くんて……こんなエッチなゲームしてるんだね。男の子だししょうがないよね……」と恥じらいながらを言うのではないのだろうか。いや、逆に言って欲しい気もするという下卑た考えが浮かんでしまった。
「えーと、そのあれだ。マ◯オとか」
実際にプレイしたことないが、有名なゲームを上げるとこにした。
「へーそうなんだ。あれ、昔から相変わらず人気があるよね」
「そうだな! うん」
俺たちはデパートの中にあるゲーム専門店に辿り着いた。色んな種類のゲームが売っていた。
「どのゲームなら弟喜ぶかな?」
「うーん、男ならどのゲームでも喜ぶと思うけど……」
我ながら情けないアドバイスである。しかし、あながち間違っていない。たとえネットで叩かれていたクソゲー(ジャンルは勿論、ギャルゲだが)であっても俺はそれなりに楽しんでプレイすることができた。
「うーん、そんなもんなのかなぁ?」
今泉は首を傾げた。さすがに無責任な言葉だっただろうか。
「あー、いや、これなんかどうだ?」
俺はピンクの球体の生き物が主人公のゲームを呼びさした。このゲームは俺もプレイしたことがある。相手を吸い込むことによって能力をコピーするというすごい主人公を操作するのである。
「ああ、これね。この子可愛いよね!」
このゲームは主人公の可愛らしい見た目とは裏腹にダークな感じのボスの姿、かっこいいBGMなど、子供から大人まで、世代を超えて愛されている。
「よし! これにしようかな」
今泉はこのゲームを手に取った。
「それにしても、弟の誕生日にゲーム買うって結構豪華だな」
「あー確かに。でも、私も弟のゲーム機を借りてプレイするからね!」
「そうか。今泉もゲームするだな」
俺は意外だと思った。今泉はあんまりゲームをするイメージがない。いつも部屋で難しい本を読んでいそうなイメージがある。
「結構するよ。弟と一緒にス◯ブラしたりとか。結構私、あれ得意なんだよね」
「へーちょっと意外だな」
ス◯ブラか。確かにあれも面白い。N天堂は、毎度毎度面白いゲームを作ってすごいと思う。
「あ、それじゃ、私これ買ってくるね!」
今泉はレジに向かった。ス◯ブラで思い出したが、俺はたまにス◯ブラで妹と対戦をしていた。妹は中々の腕前の持ち主で一度も勝てたことがない。
妹は俺よりはるかに優秀であった。成績優秀、容姿端麗と親父からの期待も高かった。妹は俺の通っている高校よりも偏差値の高い高校へと進学した。
今は女子寮に暮らしている。前まではちょくちょく会っていたものの、もう一ヶ月ほど連絡を取っていない。
「お待たせ! 鍵村くん!」
今泉がレジから戻ってきた。
「ああ。それじゃ、行くか」
俺たちはゲーム専門店を後にした。
「この後何か予定ある? 良かったら喫茶店によってかない?」
今泉の提案はありがたく、是非とも行きたいと思ったがあいにく俺は金欠だ。とても悔しい。
「すまないが、この後ちょっと用事があってな。申し訳ない」
これからリリスの家に行くため、真っ赤な嘘という訳ではないが、俺は申し訳なくなり心の底から謝罪をした。というかそろそろ仕送りを止められた今、生活費をどう工面していくか考えなくちゃならない。うちの高校はバイトは禁止されていないし、バイトでもするか。
「そっか。忙しいのにわざわざ付き合わせてごめんね」
今泉が申し訳なさそうな顔をした。
「い、いや全然! 今泉と一緒にデパート見れて楽しかったよ!」
「え……そう、それは良かった。えへへ……」
すると今泉は突然、スマホを取り出した。
「鍵村くん。良かったら連絡先交換しない?」
「え? ああ。そうだな」
俺は自分のスマホを取り出し、連絡先を交換した。女子生徒と連絡先を交換したのは高校に入学して以来、初めてのことである。まぁ、男子生徒とすら交換できていないのだが。
しかし、スマホの料金を払えず、使えなくなるかもしれないが。そう考えると悲しくなってきた。
「鍵村くん、暇な時いつでも連絡してね!」
今泉が微笑み、そう言った。笑顔がとても眩しい。
「ああ!」