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人生初の漫画製作

 十五分後、リリスの家に到着した。リリスの家はコンクリートのアパートの一室だった。

「上がって」

 リリスに促され、キッチンを通り、リビングに入ると漫画や、カップラーメンやら下着で散らかっていた。俺も私生活はズボラな方だがこいつも相当だなぁと感じた。部屋の匂いが女性の部屋とは思えない。ラーメンの匂いがところどころ漂っている。

「ちょ、ちょっと汚いけど気にしないでね。適当に腰掛けて」

 バツが悪そうにリリスが言った。これをちょっとと言ってもいいものだろうか。俺は辛うじて座れそうなスペースに座った。

「さて、早速打ち合わせをしましょうか。まずはどのジャンルを書くか決めておきましょう」

「ああ」

 すると、ブーンと俺の前を飛んできた。

 あれは誰だ? 誰だ? 誰だ? いつもニコニコあなたの隣に這いよる黒光りのGだった。

「うわぁぁぁぁ!」

 俺は恐怖のあまり、リリスに抱きついた。こう見えて虫は大の苦手なのである。

「ちょ、ちょっと! 抱きつかないで! コラ、胸触ってるんだけど!」

 リリスは俺を引き離し、新聞紙を丸めて絶妙な叩き加減でGを倒した。

「ああ、怖かった……」

「男なのに情けないわねぇ。東京で暮らすってことはあいつらと同じ部活に入るようなものじゃない」

「そんなわけあるかぁ!」

「現にあいつらはよく私の家に遊びに来るし。昨日も二匹くらいやってきたわ」

「うわぁぁぁぁ! まずは掃除だー! おちおち打ち合わせもできない!」

「えー」

 俺は駄々をこね、まずは二人で掃除を始めることにした。ゴミを片し、リリスの下着を洗濯機に入れ、掃除機掛けした。ちょくちょく虫が発生したが、その都度、リリスに対処してもらった。


 一時間後、部屋は見違えるほど綺麗になった。

「おー! 結構綺麗になったねぇ」

 リリスは自分の部屋に感動したようである。

「いくらなんでも掃除しなさすぎだろ」

「今まで漫画を描くのに忙しすぎて手が回らなかったのよ」

「アシスタントの人とかは何も言わなかったのか?」

「特に何も言われなかったわ」

 嘘だろおい。何でだ? 仮にも自分の雇い主だから言いにくかったのか? それともリリスの下着を拝めて眼福だったのか?

「まじか。これでとりあえず一安心だな」

「さて! 掃除も終わったことだし、早速打ち合わせを再開しましょう!」

 再び、打ち合わせを始めることにした。

「カギエルはどんなジャンルがいいと思う?」

 そう言われ、俺は少し考え込んだのち、答えた。

「リリスの絵柄にはやっぱりバトル漫画がいいと思うけど」

「バトル漫画ね……編集さんにもそう言われたことはあるけど、私そういうの書けないんだよね。何ていうか残虐な表現を描きたくないっていうかさ。もっと健全なお話を書きたいのよね」

「いや、お前悪魔だろ」

「そうだけど! でも、描けないの!」

「そうか、まぁでも俺が話を考えるからな。」

 そういうとリリスはむっとした表情になった。

「他に何か提案はある?」

「あとはSFとかファンタジーものなんてのも良さそうだけど。どうだ?」

「ええ、ありだと思うわ」

 だが、俺的にはやはりバトル要素をいれる必要があると踏んでいる。あの迫力のあるリリスの絵はバトル描写こそ最も輝くと俺は踏んでいる。

「そういえばさ、どこの雑誌に持ち込みする予定なんだ?」

「まだ決めてないけど、週刊少年ジョークに持ち込みしようかなって考えてるわ」

 おお。超大手じゃん。大手の中の大手。マーガリン以上に知名度の高い週刊誌である。

「なら、なおさらバトル要素は不可欠になるな」

「やっぱりそうかしら?」

「ああ。まぁ、ラブコメとかスポーツっていう線もなくはないけど、リリスの絵柄的にラブコメはちょっと合わないだろうし、スポーツは俺、運動やってなかったからちょっと話が思い浮かびそうにないしな」

「そう……分かったわ」

 渋々、俺の話を聞き入れた。というかリリス、本当に流血とかそういうシーンを描きたくないのか。というか、そんなシーンがないのはきらきらファンタジックとかそういうところしかなくないか? あの迫力のある絵柄で『こころがきゅんきゅんするんじゃ〜』を表現できるとは到底、思えないんだよなぁ。

「リリス、ちょっと軽く話の概要を描いてみたんだが紙とペン貸してくれるか?」

「ええ」

 リリスは俺に白紙とシャーペンを貸してくれた。

「よし、そんじゃ早速、書いてみる」

「お願い。私はちょっとシャワー浴びてるから気にしないで続けてて」

 なるほど。気にしろってことだろうか。まぁ、俺は気にしないけどな。神に誓って。いや、嘘。あのクソ親父には誓わない。

 俺は白紙に向かってどんな話を作るか模索した。中々アイディアが浮かんでこない。うーむ、中々難しいものである。

 まずは主人公から決めてみるか。主人公は高校生がいいだろう。よくジョークの主人公は高校生になることが多い。

 それから舞台。まぁ、現代日本、いや近未来の日本にしよう。

 次に動機ならびに主人公の目的は、カッコよく世界を救うために主人公が立ち上がった! おお、なんかカッコよくないか?

 敵はどうしようか。今は人工知能が人間を追い越し、仕事を奪い去っていくかもしれないと叫ばれている。 

 敵は自我を持った人工知能にするか。どっかで見たような設定な気もするが……まぁ、この方向性で進めてみよう。

 人工知能が何者かにハッキングされて暴走。人類を不要とみなしたロボット型の人工知能は次々と人工知能に襲いかかる。自分の両親を人工知能に殺されたしまった主人公は人工知能とハッキングしたやつを恨むようになった。人工知能を一体も残らず倒すため、人体改造を行った。驚異的な能力によって次々と人工知能を破壊していく主人公だが、人工知能側も何かしら手を打っていく。

 うん。思ったより形にできそう。

「ふぅーいい湯だったぁ」

 リリスが戻ってきた。リリスの方に目をやると、とんでもない格好をしていた。上は薄着のシャツを羽織り、下はパンツ一丁であった。パンツは悪魔のイメージとは正反対の白色のものを着用していた。

「お、お前! 服を着ろよ!」

 俺はもっともなツッコミをした。

「はー? これが楽なんだしいいじゃない。それに君って私より年下でしょ」

 理屈が全く不明である。俺が年下なら見られても言ってことか。年下万歳じゃねぇか。ロリ万歳じゃねぇか。いや、これはちょっと違うか。小学生は最高だぜ! もはや方向性が意味不明である。

「いいから服を着てくれ! 頼むから!」

「全く仕方ないなぁ」

 渋々、リリスは服を着ることで俺は目のやり場に困らなくなった。ちょと残念とは思わない。うん、本当に。

「それでカギエルは作業進んだ?」

「まぁある程度は。このメモをちょっと見てくれ」

 俺はリリスに『人工知能と主人公が戦うやつ(仮)』のメモを見てもらった。殴り書きで書いたため粗い文字だが、内容は伝わっただろうか。

 リリスは真剣な表情でメモを見つめた。1分程見た後、口を開いた。

「うん。中々、面白くなりそうな話だと思う」

 正直、自身はなかったがリリスからは割と好意的な感想をもらった。

「そ、そうか。良かった」

「これをもうちょっと掘り下げて書いてもらっていい? 主人公の具体的な設定とか。あと、細かい世界観の設定とか。あと、敵についても。それが終わったら本格的にネームを描いてもらいたいんだけども」

 立て続けに、リリスから要望が来た。聞いたことがない単語も出てきた。

「リリス、ネームってなんだ?」

「ネームっていうのは漫画を描くときの設計図のようなものよ。ちょっと待っててね」

 リリスは部屋の中からキャンパスノートのようなものを取り出した。

「参考までにこんな感じ」

 キャンパスノートには鉛筆でコマ割りされたかなり粗いラフ絵のような漫画が描かれていた。

「な、なるほど。これがネームか……ふむふむ」

「ネームが完成したら、ネームを元に原稿に本格的に漫画を描いていくって感じ。理解した?」

「ああ。何となくは理解できた」

 リリスはパタンとキャンパスノートを閉じ、

「まぁ、ネームはあとでいいからキャラの設定資料と世界観の設定資料の作成をおねがい。はい、これ」

 リリスは別のノートを渡してきた。

「リリスは俺の作業が終わるまで何をするんだ?」

「絵の練習する。私はこの机使うから、カギエルはこっちの机で作業して」

「分かった」

 俺は机に向かい、主人公の設定を考えた。しかし、中々思い浮かばない。よくよく考えてみればよのクリエイターはどうやってあんなに魅力的なキャラクターを次から次へと生み出しているのだろう。超人技ではないだろうか。

 クリエイターは神。俺はそう思った。人々にエンターティンメントを生み出しているクリエイターはすごい。俺は自分のクソ親父以上にクリエイター全般を神と崇め奉りたいと気分になった。


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