天使と悪魔がタッグを組む
「ええ。こう見えてとある大手の週刊誌に連載していたの。週刊少年マーガリンって分かるかしら?」
週刊少年マーガリン。スポーツ漫画やバトルファンタジー漫画などさまざまなジャンルの漫画を掲載しており、幾つも掲載作品がアニメ化やドラマ化がなされている雑誌である。表紙には毎週、グラビアアイドルの写真が載っている。
「ああ、知ってる。バスケ漫画の『あいつの空』が好きで毎週、立ち読みしてるしな」
「そう。私、『遊んで遊んで遊びまくれ!』っていう作品を書いていたの」
正直、全く聞いたことがなかった。というかタイトルすごいな。どんな内容なのか逆に気になる。
「悪いが読んだことないな。その単行本は今、持ってるのか?」
するとリリスは鞄からあるものを取り出した。
「これよ」
『遊んで遊んで遊びまくれ!』の単行本一巻が渡された。内容を確認するとものすごく綺麗かつ迫力のある絵が目に入った。絵は超うまい。あまりの絵の迫力に衝撃を受けた。なんというか……得体の知れない迫力が感じられた。超売れっ子漫画家の画力に遅れをとらないとも言ってもいい。
だが、肝心の内容がクソつまらなかった。超うまい絵とはミスマッチなくらい、どうでもいい内容が長々と書かれていた。
イケメンの高校生と少女がただ、「わー大富豪たのしー!」、「スプラトーンおもしろーい!」。「ボーリングおもしろーい!」というやりとりを繰り広げている『だけ』の内容が延々と続いた。
リリスというか、編集さん何をやってるんだ? 直せよ、というかこの絵柄で日常系はないだろう。
一巻を読み終えると、俺はなんとも思えない気分になった。
「どうだったかしら?」
俺が本を閉じると、リリスは感想を聞いてきた。
「あー、そうだなうん……なんというかその、絵はすごい上手いと思った」
「ありがとう。それで……内容は?」
そこも聞いちゃう? 正直に言うべきなのだろうか。俺はしばし考え、口を開いた。
「正直、内容はつまらなかった」
するとリリスはシュンとしてしまった。
「そう……そうだよね。私、編集さんにも言われていたの。あなた、画力は高いのに物語を作る力が低すぎるって。だから、打ち切られちゃって……」
「だけど、打ち切りになったって言っても次の作品とか考えてるんだろ?」
リリスは首を振ると、もの寂しげな表情をした。
「いいえ。昨日でマーガリン、戦力外通告になったの。打ち切りにあってからも何回かネームを見てもらったんだけど。あなたはこれ以上、伸びる余地はありませんって。結構頑張ったんだけど、悔しいな……」
よく見ると、リリスは涙を流している。
「やだ……私ったら、天使のあなたにこんなことをペラペラと。おかしいよね。生活費を稼ぐために今は似顔絵師とか他のバイトをやっててね」
そんな状況になってもまだ絵を描き続けているのか。すごい根性だと俺は素直に感心した。
「上界に戻る気はないのか?」
「はは、無理だよ。私、悪魔だけど人に対して悪いことなんてできないもん。サタンさまに、お前はいらない子扱いされて、下界に放り出されたし」
俺はリリスと俺が似ている境遇であることを感じた。俺も親父にダメ天使と言われて半ば見捨てられたようなものだ。
「もう、漫画家になる夢は諦めるのか?」
「いや、似顔絵師でお金をある程度貯めたら画材を買って別の雑誌に持ち込みをするつもり」
漫画家としての夢は捨てないわけか。すると俺は突然、ある考えを思いついた。リリスは俺の考えに乗るだろうか。多分、反対するだろう。だが、どうしてもやってみたくなった。
「そうか。だが、リリス。偉そうに言うが正直、お前の作る話じゃ上にはいけないと思う」
すると、リリスは俺のことをキッと睨んだ。
「そ、そんなことは分かってるわよ! けど、ちっとも話が思い浮かばないの。キャラクターのイメージは思いついてもキャラクターに何をさせたらいいのか、どんなイベントを巻き起こせばいいのか、さっぱりで、編集さんと相談してようやくストーリーになるっていう感じで」
「なら俺が原作を書くというのはどうだ?」
俺はリリスに提案を持ちかけた。実を言うと、創作活動は以前から興味はあった。ラノベやゲーム作りいずれもやろうと思っていたのだがやる気が起こらず、一消費者として甘んじていた。
だが、俺はリリスの絵を見て一緒に漫画を作ってみたくなったのである。
「え?」
リリスはキョトンとした表情になった。まぁ、突然こんなことを言われたら戸惑うのも無理はないか。
「俺と組まないかと言ってるんだ。俺が原作でお前が作画。こう見えても俺もアニメやらギャルゲやらいろいろ見てきたからな。力になれると思うぞ」
「でもあなた、漫画描いたことあるの?」
「ない。漫画どころか、話ひとつ作ったことはない。でもお前の絵を見て一緒に漫画を作りたくなったんだ。それに俺は今窮地に立たされている。お金が必要なんだ。俺と組むか選んでくれ」
今ここでリリスを倒しても、親父が仕送りを復活させてくれるという確証はない。
しかし、リリスと組み漫画を大ヒットさせれば一気に大金持ちになれる。まぁ、そんな甘い世界ではないだろうが。
俺はリリスの描いた絵に惚れ込んだ。内容はともかく絵からは愛情が伝わってきた。悪魔がこんなに温かみのある絵を描いてしまうことに感銘を受けた。
「分かった。とりあえず一緒にひとつ漫画を作ってみましょうか。それであなたの力を判断させてもらうわ」
どうやら、交渉成立のようだ。
「ありがとう。俺と組んでくれて」
すると、リリスはビニールシートを片し始めた。
「いいえ、こちらこそよろしく。それじゃ早速、漫画を描きましょうか」
もう書き始めるのか。気が早いなぁ。打ち切りにあったとは言え、さすがは元連載作家というべきか。
「ああ。それでどこに行くんだ?」
「私の家よ。ついてきて」
「え?」