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カギエルとリリス

「久しぶりに下界での様子を覗いてみれば……お前はダメ天使だ! カギエル!」

 俺は実の親父であるゼウスに激怒されていた。

 俺の名前はカギエル。何を隠そう、俺は天使だ。俺のような見習い天使は人間に混ざり、修行のため下界で生活している。

 今日は上界にいる親父に急遽呼び出された。

「ま、待ってくれよ! 親父、確かにちょっとこのゲームはあれかもしれないけど……」

「なーにがちょっとだ! いつもいつも下界から買ってきたエロゲームばっかりしよって! ちゃんと天使としての勤めを果たさんか! ええ? この大バカ者!」

 親父は興奮状態である。どっかの日曜日のアニメのお父さんのように顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。

「ち、ちげーよ! これはギャルゲっていう下界じゃ立派なサブカルチャーで……」

「黙れ! 下界で何をしているのかと思ったらこんなくっだらないことに嵌りおって!」

「く、くだらないことって何だよ! 親父には分からないかもしれないけど、俺にとっては必要なものなんだ! 訂正しろよ!」

「うるさい! 今すぐこんな低脳なゲームを辞めろ!」

「辞めない!」

 ギャルゲを始めとする二次元の世界は俺にとって心のオアシスだ。絶対に辞めたくない。あの毎日行かなければならない忌々しく辛い高校生活から帰った後にやるギャルゲはなんとも言えない悦楽さを感じるのである。あれがないと俺は生きていけないまである。

「辞めろ! さもなければ仕送りを打ち切るぞ!」

 なんという脅しだ……どうやって暮らしていけというのだ。働けというのか? この俺に。怠惰であるこの俺に。

「ほ、本当にギャルゲを辞めなければ仕送りを打ち切るつもりなのか……?」

「ああ!」

「だが断る」

 俺はしっかりとポーズを決めた。

「このカギエルの最も好きなことは……」

「ならお前にはもう生活費は送らん! バイトなりなんなりしてなんとかするのだな! せいぜい、のたれ死にせんようにな!」

 俺のセリフを全て聞く前に親父がそう言い放った。

 バイトなりなんなり……辞書なりなんなりディクショナリー。おお! 韻踏めるじゃん!

 いやそれよりも! 仕送りがゼロになる。それはやばい。今月もソシャゲの課金やギャルゲの買いすぎでピンチだってのに。

「待ってくれ! 待ってくれよぉ! 親父」


 気が着くと、俺は下界の公園のベンチにポツンと座っていた。

「うわぁぁぁぁぁん! 誰がねぇ! 誰が天使になってもぉ! 同じや同じや思てェ! うははハハーーーン! はーーん! 下界が楽しい! そう思ってぇ! もう一生懸命本当に!」

 俺は感極まりどっかの県議会議員ばりに号泣した。カラスが「アホーアホー」と泣いている。

「おかーさん! なんか、泣いている人がいるよ!」

「し! 目を合わせちゃダメよ!」

 親子が泣き喚いていた俺を好奇の眼差しでみてきた。うっせーよお前ら。今すぐ堕天して、人類もろとも消してやろうか? それともこの星ごと消してやろうか? 今は何もかもをぶち壊したい気分である。

 五分後、泣き喚いてすっきりした後、俺はどうするべきか悩んだ。

 俺は天使として、修行するためにとある高校に通っている。学費、生活費はあのクソ親父が出してくれたのだが、生活費を打ち切るといいやがった。

 やはり、ここは諦めてバイトするしかねぇか。何をして働いたらいいんだろう。やはりライン工とかかなぁ。

 接客業とかコミュ症の俺にできそうにねぇしなぁ。俺は目的もなく道をぶらぶらと歩いていた。

 すると、とある女性に目が入った。その女性はメガネをかけており、大人びた顔立ちと華麗な黒色の髪をしていた。年はおそらく俺よりも年上っぽい。道端にブルーシートを広げており、似顔絵一枚千円で書くという商売をしていた。

 なかなか美人であると思った。だが、気になったのはそこではない。あいつーー完全に悪魔だ。俺は人間に擬態している悪魔を一瞬で見破ることができる。あいつからはわずかだが悪魔特有のオーラが感じられる。

 あいつをぶっ倒せば仕送りが復活するかもしれない。

 うちの親父はとんだ古典的な人間で、悪魔は全て悪いやつだと思っている。実際には人間に幸福をもたらす悪魔も少なからずいるのだが。あいつをぶっ倒して仕送りの復活を持ちかければいけるかも?


「すみませーん! 一枚、買いてもらっていいですか?」

 アラサーくらいのサラリーマン風の男が悪魔に話しかけた。俺は少し離れたところから二人の様子を観察することにした。

「はーい、少々お待ちください」

 すると悪魔はものすごい速度で色紙に筆を動かし、あっという間にサラリーマン風の男の似顔絵を書き上げた。

「はいどうぞ!」

 似顔絵を見ると、サラリーマン風の男は感心したようにつぶやいた。

「これはこれはお嬢さん。とてもお上手ですねぇ」

 すると、悪魔は照れたようで顔が赤くなり、俯きながら微笑んだ。なかなか可愛いな。

「い、いえ。それほどでもありません」

「こちらお代です」

 サラリーマン風の男は定価の五倍の五千円差し出した。いいなぁ。俺にもくれないかな。まぁ無理だろうな。

「いえ! こんなにいただく訳にはいきません!」

 悪魔なんだからありがたくとっておけばいいのに。俺はそう思ってしまった。つーか俺が同じ立場だったら絶対にもらう。いや、あわよくば一万円もらえるように策を打つ。

「いえいえ。代わりといっちゃなんですが、一緒に素敵な場所に行きませんか?」

「す、素敵な場所ですか?」

 悪魔は鸚鵡返しでサラリーマン風の男に聞き返した。おいおいまさかのナンパ目的か? 素敵な場所ってなんだろうな。

「はい。ふかふかのベッドがあり、大きなテレビ、そして面白い遊具が揃っている素晴らしいところです」

 おいおいおい、下心丸出しじゃねぇか。まぁ、幾ら何でもこんな誘いに乗る訳がないだろ。

「そ、そんな! 悪いですよ! とてもじゃないけどご一緒できません!」

 すると、サラリーマン風の男は悪魔の手を握った。

「どうしても付いてきて欲しいのです。同行していただけませんか?」

 俺は気づいた。あいつは一瞬、確かに悪魔の大きめな胸をチラ見した。絶対に下心がある。なんなら本体が股間というまである。

「そ、そんなに付いてきて欲しいのですか? そこまで言うのなら……」

 悪魔さん、本当に付いて行く気か? アホなのだろうか。悪魔が人間に喰われる(意味深)という。見てらんねぇ。

「なぁ、似顔絵師さん。俺の似顔絵も描いてもらえないか?」

 俺は悪魔の元へと赴き、似顔絵を買いてもらうように依頼した。悪魔は俺の方を振り向いた。

「ん? なんだい君は? 今から彼女は私ととある場所に行くから悪いけど帰ってくれないか?」

「うっせーよ。股間人間。ラブホなら一人で行きな」

 俺はサラリーマン風の男性に手をかざした。

「な、なんだ?」

 精神を落ち着かせ、身体全体に力を込めた。俺の身体からは光の粒子が発生した。

「サモニング」

 呪文を唱えると、サラリーマン風の男はシュンと姿が消えた。正確には俺が消した。天使の力を使い、やつを単身一人でラブホに転送してやったのである。

「あ、あなたは一体?」

 悪魔は驚愕した表情で俺のことを見つめた。緊張からか、悪魔の手が震えている。

「俺か? 俺の名前はカギエル。天使だ。ところでお前さ、悪魔だろう?」

 それを聞くと、悪魔の表情がさらに強張った。

「あ、あなた。天使だったの……私はリリス。その通り、私は悪魔よ。あなた、何しにきたの?」

 倒しにきたと言えば、向こうもすかさず応戦してくるだろう。自慢じゃないが俺はそこまで強い方ではない。リリスの力がどれくらいか分からないがまともにやりあっても勝てない気がする。ここは相手の出方を伺うか。

「悪魔さんをこんなところで見かけたんで気になってな。何をしているのか気になって来てみたんだ」

 すると、リリスは自嘲するように微笑んだ。

「何をしているか……ね。見たとおりよ。似顔絵師として働いるの。前まで漫画家をしていたんだけど。生活が厳しくなってね」

「漫画家だと?」

 それがリリスとの出会いであり、この出会いが俺の天使としての生活を大きく変えることになった。


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