白き巫女の物語
それは人々の善なる意思だった。
それは癒しであり、病める世界への救済だった。
彼女の名前は白き巫女。
それは勇者を支え、優しき心で人々の心を照らし続けた一人の女の物語であった。
昔々、小さな村に住む姉妹がいた。
とても仲の良い姉妹だったが、ある日を境に二人は道を別つ事になる。
小さな村を魔物の群れが襲うという悲劇。
強大な力持って魔物を撃退した姉は、恐怖する村人に悪だと追放され、それ故に魔物を従える様になっていった。
朝の騎士によって深手を負わされた姉を見送った妹は、家族の帰りを待つ為に壊れた村に一人で暮らす決意をする。
しかし妹は非情にはなれなかった。
怪我をした者達を見続け、そして慈悲の力を振るいつづけ、傷を負った多くの人々を救い続けていた。
その為、その力を目に止めた者達に希望になってくれと請われたのだった。
傷つく者達は、日に日に増え続ける。
背を押されるようにして、妹は泣く泣く村を後にした。
そうして仲の良かった姉妹の運命は、決定的に分かたれる事となる。
姉は夜の魔女に、そして妹は白き巫女にと、それぞれ別の道を歩み始めた。
天から賜りし聖なる癒しの力を用いて、少女は傷ついた人々を癒していく。
少女の存在はいつしか神聖なものとなり、神の意思受けし者としてその名……白き巫女の名が与えられた。
そして白き巫女は朝の騎士と出会う。
志を同じくする騎士を支え、世界に懸命に癒しの手を差し伸べ続けた。
やがて朝の騎士が夜の魔女を倒した際、白き巫女は涙をこぼした。
貴方が倒した魔女は私の姉である。私は一生貴方を恨むだろう。
そして、姉を悪者にしたこの世界を、この世界に生きる人々を、正義にしかなれなかった貴方という騎士を。
けれど、傷つけはしない。
何故ならこの世界では、不幸は一人だけのものではないのだから、……と。
悲しみに暮れながらも、白き巫女は人々に語り聞かせる。
この世界に住まう誰もが苦しい思いをした。
その苦しみは誰もが分かち合えるものである。
ならば、これより後に続く世界は朝の時代であるべき。
どうかこの平穏が続きますように。
人々はその気高き少女を長く語り継ぐ事にした、
白き巫女、世界を憂い癒しつづけた一人の少女についての物語を。