2︰老魔法使い
水の底に沈んでいるような奇妙な感覚。全てが遠かった。音も、光も...
「...ぅ、」
声をだそうとして出たのは結局、絞り出したようなうめき声だけ。
ガタリと音がして誰かが近づいてきた。目に力を込めてうっすら開くと、the魔法使いと言った感じのお爺さんが居た。
「|■■■■■■(目がさめたか)」
明らかに日本語じゃない言葉で話しかけられたのに、意味が分かる。なんだこれ
「|■■■■■■■■(名前が言えるか)?」
「...、ゅ、ぃ」
「■■、ゆい、|■■■■■(良い名じゃ)。...■■■■■■■■■(今暫く眠っておるが良い)、|■■■■■■■■■■■(その時にまた話そうぞ)...」
「ん、」
ほぅ、と息をついてまぶたを閉じる。私は熱があるのだろうか?とても、フワフワする...
side︰ファル
「落ち人...か、この年になって会うことが叶うとはのぅ、」
そう言って唯の頭を撫でる手は、皺が刻まれ節くれだった、刺青と魔法具まみれの手。
「ワシの元に来たのも、一つの天命と言ったところか...、余生をこの子のために使うのも悪くないじゃろ」
見つけた時には虫の息だった少女。自らの暴走した魔力でボロキレになっていた服は、切れ端であっても丈夫で手の込んだ造りであった...後で修復しておこう。近くに落ちていた荷物の中に入っていた書物は、この世界で使われている共通語とは全く違うものだった。
そして先ほど見えた、この子の黒い髪と、透けるような黒と蒼の眼。
元がどうなのかは分からないが、精霊眼という魔眼の一種を宿していた。であるなら自分のあとを継がせることも出来る。
自らの左手の甲に刻まれた刺青は、ただの刺青ではない。師から弟子へと継承される一つの魔法だ。これと似た魔法は全部で五つ、無事に継承されていればの話だが...
「それもこれもこの子...ユイが元気になってからの話じゃな」
まずは精のつくものを食べさせねば。