1︰落ちた日
憂鬱な気分で重い鞄を肩にかけ直した。
「期末テスト...はは、死ねる...」
明日から始まる悪夢の4日間、置き勉していた教科書達も全て詰め込んだ鞄は肩に食い込み、背骨にかなりの負担をかけていた。...先週から少しずつ持ち帰らなかった私の自業自得なのだけど。
「英語とか~使う機会こないでしょーにぃ~、数学とかも電卓使うから要らんでしょ~...あぁ、虚しい...」
言ってはみるけどどれもきっと必要だ。解ってはいても苦手分野への文句は尽きることは無い。
「家に帰ったら取り敢えずテスト範囲一通りしないと...マジでヤバイ。」
赤点は免れるかもしれない。しかし、60点以下を取ろうものなら姉の沽券に関わる。私の弟はいわゆる天才くんであらせられるから、あの「なんで出来ないの?」という目は精神的にクる。そんな気まずい。
おし、頑張ったるでぇ!
決意も新たに一歩踏み出した。
ガクッ
しかし、踏み出した足が地面を捉えることは無かった。
「ヒッ!?!?」
一瞬思ったのはマンホールの穴に落ちたのか、ということ。でも何も目印も置いてなかったし、現に今まさに落ち続けていることから見て、マンホールの穴というのは有り得ない。
「やだ、やだ、なんなのッ!だれかッ!助けてッ」
錐揉みしながら落ちていく。肩にかけていた鞄に縋って短い悲鳴を漏らしながら、何とか助かろうと辺りを見回す。スカートが風で張り付いて上手く体制を整えることも出来ない、そんな中一瞬見えた紅い、光。
「..ッ、、、え...?」
ソレは巨大な紅い月。
「ぃゃ、ぃゃ、...なんで、どこ?どうして?ここは、どこなのっ、!!」
落ちながら見た地面もまた、普通ではない。真っ黒な森に見えるのに、それに重なるように淡い光を放つ森が見える。キラキラと立ち上るナニカも、綺麗なのに今は恐怖しか感じない。
「ぁぁぁぁァァァああ!!!!!!嫌だァッッッ!!、、、」
昂りすぎた意識はそこでぶつりと途切れた。
その後に起きた事を私は知らない。