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第五夜:夢と罠

 小屋の内部は、台所を兼ねた暖炉のある居間と、寝室が一つきり。

 もちろん、寝台は教官であるリリィーナ教官のもので、ぼくは暖炉前だ。

 こんな状況で、見た目はともかく、一応、女性であるリリィーナ教官と二人っきりで一週間も過ごしたなんてことが、僕の彼女であるローズマリーにバレたら――――まあ、別に、どうなるものでもない。なにせ相手はリリィーナ教官だ。伝説の腕利き局員にして、白く寂しい通りに探偵事務所をかまえている、境海世界でただひとりの『不思議探偵』だ。技量も魔法も、僕ごときが逆立ちしたってかなう相手じゃない。それは、僕の周囲にいる人人には周知の事実だ。

 僕はとりとめもない思考に陥りそうな頭を一回振って、アホな想像を振り払い、目先の問題に戻った。


「しかし、七回も焼くなんて、変じゃないですか。心臓は一つきりなのに」


「一夜を一回とカウントするんだ。それが七夜で七回分。なにせ丈夫な魔物でね。一日では焼き尽くせないんだよ。七日目の朝にすべてが灰になれば、やっと滅ぼせるんだ。伝説の魔物の最後が見られるぞ」


 リリィーナ教官は、暖炉に太い薪を一本放り込んだ。

「だから、氷神は自分の心臓を取り戻そうとここへやってくる。けっして扉は開けるな」

 リリィーナ教官の言葉が終わらぬうちに、こんこん、と、扉が叩かれた。

 どこか聞き覚えがある控えめなノックの癖。


「ここを開けて。わたしよ」

 澄んだ、明るい少女の声が僕を呼んだ。


「ローズマリー、君か!?」

 腰を浮かした僕を、リリィーナ教官はすばやく制した。

「ばか、君の恋人がここに来るわけないだろうッ。これも氷神の仕業だ。ヤツは自分で扉を開けることができない。いろいろな手段を使って、建物の中にいる人間に開けさせようとするんだ」

「でも……」

 まだ、扉を叩く音はする。

 そして彼女の声も。

「聞こえてるでしょう。リリィーナ教官と一緒なのは知っているわ。お仕事で来たのよね。わたし、差し入れを持ってきたのよ。どうして開けてくれないの。外は寒いわ。早く、ここを開けて……」

 すでに十日以上会っていない恋人の甘く切ない声に、僕は我慢できずに立ち上がった。

「きっと彼女だ。だって、氷神とやらは僕のことを知らないはずだ。なのに、どうしてローズマリーの事を知っているんですか」

 僕は玄関の方へ体を向けた。防寒対策のため、扉は二重扉だ。分厚いドアは軽く叩いたくらいでは中に音が聞こえないのを、この時の僕は忘れ果てていた。

「さては、記憶を盗まれたな。氷神は君の夢から情報を読み取ったんだ。落ち着きたまえ」

 リリィーナ教官は座るように言ったが、僕は聞かなかった。

「だって、外は吹雪ですよ。早く入れてあげないと凍えますッ。リリィーナ教官はローズマリーを殺す気ですか!?」

「その通りだ。このわたしですら、外には出られない猛吹雪だ。ローズマリーがここに来られるわけがない。わかったら、おとなしく座ってろ!!」

 リリィーナ教官に珍しく厳しい声で叱られて、僕はようやく正気に返った。


 外は目も開けていられない猛吹雪で、僕らは村にも帰れない。

 なのに、僕よりはるかにか弱い十七歳の少女が、どうやって村から五キロも離れた森の奥に来られるのだろう。

 僕の恋人ローズマリーは、僕と同じ魔法大学付属学院にいる。リリィーナ教官が不思議探偵事務所をかまえる白く寂しい通りの近く、多くの世界がトランプのカードのように重なった境海世界の中央、多次元管理局のお膝元に。

 白く寂しい通りは、おそらく境海世界でもっとも安全な場所だろう。

 家政学課のローズマリーは、今頃は家政学の授業の真っ最中だ。間違ってもこんな辺境に来られるわけがない。

「……すみません」

 僕はうなだれた。

 魔物の仕掛けた罠を見抜けないなんて、未熟にも程がある。だから実技で追試になんかなったんだ。

「いいさ、君はまだ学生だ。できないことの方が多い」

 なんて理解がある指導教官だろう。これで免罪かと思ったら、

「でも、この件は報告しておく。先生方が君の指導方法を考える材料になるしね」

――リリィーナ教官は喰えないOBだという評判を、僕は実地で検分する特典に(あずか)ったのだった。


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