顔色
ざわめいていた村人たちが水を打ったように静まり返る。
失敗したとしても成功したとしても、精霊召喚は神聖な儀式であることは変わりないからだ。ゲーリングもこの時だけは野次を飛ばさずに固唾を飲んだふりをしてか、見守っている。
太陽が中天に位置し、月や大地と一直線になる。この時に精霊の住む世界と人間の住む世界が重なるとされていた。
僕は滝を前にしてリラックスして立ち、両掌を向かい合わせにして魔力を集中させようとする。
ふと、僕より小さい子の精霊が目に入った。
村長の精霊、白虎も目に入る。
適齢期に達しても僕だけが精霊を持っていないというコンプレックスが心を襲った。
集中しかけていた魔力が、霧散していく。
駄目だ。集中できない。
魔力の霧散を感じたのか、村人の視線が険しいものになっていく。
「魔力の集中一つ満足にできないのか」
そう言われているような気がして、心が折れそうになる。視線が怖い。
違う。そうじゃない。
僕一人なら上手くできる。お前たちがすぐそばでそんな視線を向けているから、上手くできないんだ。
言っても仕方のない言い訳が頭を駆け巡る。そんなことを考えている暇があったらもっと集中すればいい。それはわかっているのに、できない。
「」
微かな声が聞こえた気がして、僕はその方向に目を向けた。ヒアが目をきゅっと瞑って、手を組んで祈っている。
そうだ。ヒアは僕を応援してくれている。
僕には、敵ばかりじゃない。
そう思うと、すっと気持ちが楽になった。
もう一度、魔力を込める。掌の中央から何かが抜け出るような感触がした。
やがてそれは一つになり、両掌の中央の空間に膨大な魔力が集中していく。かって感じたことのないくらいに凄まじい魔力の奔流だ。
魔力の渦が風を起こし、川にさざ波をたてて木々の枝を揺さぶっていく。鳥たちが何十輪も枝を蹴って空へと羽ばたいて行くのが見えた。
召喚に成功した場合は魔力の奔流がおさまった後の空間に精霊が幻出している。
その光景を想像し、期待に胸が高鳴った。
これなら、いけそうだ。
今度こそ、精霊を召喚できる。どんな精霊なんだろう? ゲーリングのガイストより強い精霊だと良いな。
村人が突風から顔をかばっているのが見えた。ゲーリングも例外ではない。いやむしろ、他の村人よりもビビった顔をしていた。
ヒアは…… あまり表情を変えていなかった。